再起動0:【家なき少女に花束を:後編】
イメージソング:怒りの日
https://youtu.be/GkdSa84pv0o?si=USJONHRXx5NI8wVH
ある時代の、ある日。
世界が白に破滅した。
無。
ただ、無である。
白。
喪失したという事実すらも失われていく、完璧な空白。
絶望すらも漂白された、終着点。
停滞。
究極の、停滞。
その、死すらも死に絶えた無の中に、少女、グリッチ・オーディナルはただ、一人で、佇んでいた。
白髪を虚無の風になびかせ、彼女は自分の手を見つめていた。
無限の希望という名の、純白の檻。
彼女の精神は、その、絶対的な無関心によって、ゆっくりと磨り潰され、永久の狂気へと固定されようとした。
まさに、その時であった!
白の世界に、亀裂が入った!
純白の虚無がガラスのようにひび割れ、亀裂の隙間から、存在しないはずの「質量」が溢れ出してきた!
這い出てきたのは、圧倒的なまでの「存在」を纏った巨大な影であった!
絶対的な破壊の体現者!
ただ、そこに爪を掛けただけで、周囲の「無」が蜘蛛の巣状に割れていく!
取り残されていたグリッチの瞳に、その巨大な影が映し出された!
死滅していた彼女の思考回路に、衝撃が駆け抜ける!
「これは……飛竜?……まさか、アスナか?……いや……違う!これは……ッ!!」
グリッチの魂が、激痛にも似た叫びを上げた!
目の前に現れた存在は、そんな、既知の枠組みに収まるものでは断じてない。
面識など、ない。
因果すら、ない。
だが、理解できた。
脳髄の奥底から、魂の最深部から、その真名が湧き上がってくる。
これが、「飛龍」。
真なる世界の終わりであり、始まりを司る超越者。
飛龍は、喋らない。
ただ、底なしの深い悲しみと、冷徹なまでの無関心を湛えた巨大な両眸で、ただ、目の前に広がる「無」そのものを見据えていた。
飛龍の目的は、一つしかなかった。
すべてを、根絶やしにすること。
この世界を覆い尽くし、あらゆる可能性を停滞させた「希望」という名の究極の絶望。それを、跡形もなく破壊し尽くすこと。
飛龍は、巨躯を跳ねさせた!
それが、凄惨極まる「絶望の処刑」の幕開けであった。
飛龍が、巨大な顎門を開く!
飛龍は、何もないはずの白の世界に、その巨大な牙を力任せに突き立てた!
虚無の断面から、存在しないはずの「絶望の血」の奔流が噴き出した!
だが、飛龍の手緩めぬ攻撃はそこからだった!
巨腕を振り上げ、鋭利な爪を白の空へと叩きつける!
爪が空間を切り裂くたびに、空間の構造そのものがねじ切れ、千切れた無の断片が、衝撃波となって四方八方に飛び散る!
飛龍は、無に対して圧倒的に残虐だった!
逃げることも、哀願することもできない「無」という概念を、ただ一方的に、無慈悲に、徹底的に追い詰めていく!
粉砕された無の破片が、飛龍が放つ超高密度のエネルギーと摩擦を起こし、絶対の無音だった空間に、凄まじい爆炎を巻き起こした!
燃える!
白が燃える!
希望の白が、真っ赤な業火に包まれていく!
飛龍の口から放たれたのは、滅びの咆哮ではなく、物理法則すらも塗り替える絶対的なブレスだった!
極彩色の光の束が、無の深遠へと突き刺さる!
絶望を爪で掴み上げ、膝で叩き割り、牙で引き裂き、踏みつけ、粉微塵に磨り潰す!
地獄にとっての、地獄と化した!
グリッチを閉じ込め、彼女の精神をじわじわと殺し続けていた、あの、絶対的な「無」という地獄が、今や……飛龍という更なる上位の暴力によって、可哀想なほどに蹂躙され、惨殺され、悲鳴を上げていた!
これこそが、飛龍の本来のやるべきこと!
絶望を、あまりにも残虐すぎる方法で食い散らかし、粉微塵に引き裂いて、無関心に踏み躙る!
踏み躙る!
飛龍が爪で無を引き裂くたび、砕け散った白の破片は、圧倒的な密度の「生のエネルギー」へと強制変換された!
絶望の灰から、新しい時空の芽が、圧倒的な暴力性をもって吹き出してくる!
そして、その凄惨極まる戦場の真っただ中に、グリッチ・オーディナルはいた!
「あ……ッ!?」
凄まじい爆炎と爆風が、グリッチの華奢な肉体を容赦なく襲いかかった!
「ぎゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
爆風がグリッチを吹き飛ばす!
熱い!
痛い!
重い!
音のない世界だったはずなのに、今は全身の骨が軋み、皮膚が焼け焦げるような圧力が彼女を押し潰そうとしている!
凄まじい爆炎が彼女の視界を真っ赤に染め上げ、吹き荒れる爆風が、彼女の体を白い虚無の果てまで叩きつける!
直撃!
飛龍が絶望を解体し、強引に解き放った「純粋すぎる希望」という名の劇薬が、グリッチの全身、脳髄、魂の深核へと突き刺さったのだ!
「い、痛い!痛い痛い痛い痛い痛い!あああああ……あぁぁぁぁぁぁっ……!!」
激痛!
飛龍が撒き散らす希望は、決して、ぬくもりなどではなかった!
それは、「生きろ」と、「立ち上がれ」と、「明日へ向け」と、脳髄に直接杭を打ち込むような、狂おしいまでの超暴力であった。
停滞という名の安息を、力任せに引っぺがされる!
グリッチは悟った!
絶叫しながら、脳細胞の全回路を恐怖で震わせながら理解した!
純粋な絶望とは、何か!
それは、圧倒的な存在から無関心に暴力を与えられ、抵抗の余地すらなく破滅させられることだ!
その逆の、純粋な希望もまた……同じである!
希望とは、救済でもない!
自らの意思などお構いなしに、圧倒的な暴力をもって「未来」へと力ずくで叩き落とす、凶暴な衝撃なのだ!
あまりにも高純度で、あまりにも残酷な劇薬!
「あ……あぁ……っ!怖い……っ!なんだ……何なんだよこれぇぇぇっ!!怖いっ!」
グリッチは全身をガタガタと激しく震わせた!
目の前で燃え盛る希望の爆炎の熱さに、飛龍が振るう無関心な暴力の恐ろしさに、彼女の眼孔からはボロボロと大粒の涙が溢れ出していた!
恐怖!
初めて味わう、真の恐怖!
理論も、計算も、何一つ通用しない!
圧倒的な希望に呑み込まれ、自分という存在がどこへ連れ去られるのかすら分からない、未知への恐怖!
しかし!
恐怖に顔を歪め、涙で顔をぐしゃぐしゃに濡らしながら……グリッチの唇は、狂おしく……美しく吊り上がっていた!
「あ…………あは……っあはははははははっ!」
歓喜!
恐怖の絶頂で、彼女の魂は……狂い咲いていた!
これだ!
これこそが、生だ!
何もかもが白く漂白され、傷つくことすら許されなかった「無」の平穏!
あんなもの……「生」ではなかった!
いま、自分は全身に痛烈な爆風を浴びている!
炎に焼かれ、音に砕かれ、暴力に怯え、涙を流している!
生きている!
感情が!
命が!
熱量が!
激流となって全身の血潮を駆け巡っている!
「あはははははははははははははははははははっ!!!!」
グリッチは、爆風の中で立ち上がった!
吹き荒れる希望の熱風に白髪を激しくなびかせ、涙を撒き散らしながら、大声で笑い声を上げた!
恐怖!
そうだ!
恐ろしい!
死ぬほど恐ろしいさ!
この希望がどこへ向かうのかも分からない!
だが、この恐怖こそが!
この、歓喜に震える恐怖こそが!
「自由」に、真摯に向き合った者だけが与えられる、究極の報酬なのだ!
開拓者!
我々は、何も存在しない「自由」に、己の足で最初の一歩を踏み出す、最初の「開拓者」なのだ!
「来いよ……!もっと来いよ!希望!!全部呑み込んでやる……!全部、私の血肉にして、私が、未来へ突き進んでやるからなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
グリッチの咆哮が、爆炎を突き抜けて響き渡る!
飛龍は、一切の言葉を発することなく、最後の「白」をその巨大な爪で引き裂いた!
噛み砕かれ、焼き尽くされ、踏み躙られた絶望の残骸は、眩いばかりの純粋な、光の粒子となって全宇宙の隅々へと解放されていく!
飛龍は、その光の奔流の中へ、振り返ることもなく、ただ、【無関心】のまま、消え去っていった……!




