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ヴェリタスの最終定理6:壊れた世界のやりなおしかた【2位】  作者: LIU
世迷いの嫁はサメの姫

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美食17:【強奪!簒奪!逆転奪回!革命へ向かう真理!】

イメージソング:バーニング サウンドトラック

https://youtu.be/Q9BDDEfauNU?si=x28ZWTYOa6JQ8ykt

雨が降り頻る路地裏で、フウカ・ヴェリタスは確かに一度、底知れぬ狂気と堕落の泥濘に沈みかけた。

粗暴な男、ザラキ・アルゴリズムからの加害の過程に身を委ねた、あの夜。

それは、サメ獣人という彼女の肉体に刻み込まれた、血生臭い「原始の生物」としての野性の覚醒であった。


だが同時に、彼女の奥底には、亡きマオから受け継いだ「真理(ヴェリタス)」の光と、無限の魔力を制御する「知的魔導生物(エルフ)」にも匹敵する極限の知性が、氷のように冷たく澄み切ったまま同居していたのだ。


野性と知性。


加害と理論。


暴力と学問。


相反するはずの二つの極点が、フウカの精神の深淵で完璧な融合を果たした時、彼女は世界の「真理」を完全に理解した。


【加害性こそが、未来なのだと。】


世の中を動かし、歴史を創り、頂点に君臨する支配者たちを観察してみればいい。


そこには紛れもなく、他者を侵略し、加害し、蹂躙しようとするどす黒い欲望が根付いている。


それは国家間の戦争といった大規模なものから、路地裏の小さなコミュニティに至るまで、いかなる規模であっても共通する絶対的な法則であった。


例えば、底辺の売春婦たちが身を寄せ合う掃き溜めのような界隈。そこでは、陰湿なイジメを率先して行うような加害性の強い女こそが、なぜか周囲から恐れられながらも好かれ、群れの中心に立つ。


あるいは、きらびやかな議事堂で国家の行方を左右する政治家たちの界隈。そこでもまた、他者の揚げ足を取り、政敵を社会的に抹殺し、平然と他者の人生を踏みにじる「加害者」こそが、強い指導者として大衆の支持を集めるのだ。


では、自らを「善良な市民」と称し、「性格がいいだけ」を取り柄にしている弱者たちはどうだろうか。

彼らは争いを嫌い、平和を愛していると嘯く。しかし、彼らが真に愛し、好んで庇護下に置こうとするのはどのような存在か。

盲目のエルフの少女。片腕を失った獣人の美少年。耳の聞こえない哀れな少年。

弱者たちは、自分よりもさらに弱い、欠損を抱えた者たちを熱狂的に好む。彼らはそれを「無償の愛」や「慈悲」と呼んで自らを飾り立てるが、フウカの目には、その本質が極めて醜悪なものとして映っていた。


それは愛などではない。


紛れもなく、抗うことのできない弱き者に対する「支配欲」であり、絶対的な優位性に立つことで満たされる歪んだ「性欲」そのものであった。


彼らは、自分を絶対に傷つけない、反抗する力を持たない存在を愛玩動物のように囲うことで、自身のちっぽけな自尊心を満たしているに過ぎない。


だからこそ、「性格だけはいい」などという人間は、この世に存在し得ないのだ。


弱者を愛する弱者は、ただ、加害する力を持たないだけであり、その精神の根底には支配層以上に陰湿で醜悪な欲望が渦巻いている。


基本的に、そういう輩は「性格すら悪い」のである。


知性を極めたからこそ、この社会のグロテスクな構造を解き明かし。


野性を解放したからこそ、その加害性を肯定し、自らの力として取り込むことができた。


野蛮と、知性。


その両者を兼ね備えたフウカは、今や、この世界における「完全生命体」へと昇華していた。


ここまで物語を読み進めた諸君の中には、フウカがザラキという粗暴な男の暴力に屈し、愛に溺れ、自らを安売りする愚女に成り下がってしまったと嘆く者もいるだろう。


違うのだ!


フウカの眼の奥の光は、一瞬たりとも消えてはいなかった。

フウカがザラキ・アルゴリズムに近づいたのには、明確で冷酷な目的があった。


ザラキ・アルゴリズム。

彼はただの路地裏のゴロツキではない。彼の父親は、この世界における魔力管理の最高機関「魔導規制局」の現役書記長なのだ。

エルフの支配を強固にし、獣人たちを抑圧し続ける巨大な権力機構。

その中枢にいる男の、放蕩息子(おしとやかぶたごりらちゃん)。

フウカの究極の目的は、この歪んだ世界を「学」の力で正しく破壊し尽くし、未来への種を蒔くことである。

その強大な目的のためには、魔導規制局の内部情報、それも最高機密のデータベースへのアクセス権がどうしても必要だった。


もしフウカに、下らない「プライド」だけしかなかったならば、あのように泥に塗れ、男に殴られながら媚びへつらうような真似は決してできなかっただろう。


しかし、彼女には完全なる野蛮があった。


加害を肯定し、泥を啜ることを厭わぬ強靭な精神。


そして何より、フウカは「自分自身すらも完全に騙し切る」ことができた。


スパイにとって最も恐ろしいのは、嘘が見破られることである。

どんなに巧みに演じても、心の奥底に「私は本当はこんな女ではない」という冷めた理性があれば、ザラキのような野生の勘に優れた男は瞬時にその不自然さを嗅ぎ取るだろう。


だからフウカは、本当に馬鹿になったのだ。


本気でザラキの暴力に酔いしれ、本気で底辺の馬鹿女になりきり、脳の髄まで快楽と狂気に浸りきった。

理性的な計算を完全にシャットアウトし、サメとしての本能に身を委ねて、ただただ今を享楽する愚かな女としてそこに存在した。


嘘がないのだから、見破られるはずがない。


ザラキは、そして世界は、フウカ・ヴェリタスという女が完全に壊れ、自分の支配下に入ったと完全に信じ込んだのである。


ある夜。

いつものように酒場を何軒もハシゴし、安酒を浴びるように飲み、大声で笑い、くだらない喧嘩に巻き込まれては逃げ出すという、典型的な「馬鹿騒ぎ」の真っ最中であった。

ネオンサインがチカチカと点滅する薄暗い路地裏。酒の匂いと煙草の煙、そして汗と香水の入り混じったむせ返るような空気の中で、フウカはザラキの腕にねっとりと絡みついていた。


「いあ、ねえねえ、ザラキぁ〜。あーしさ、もー疲れちゃったぁ」


フウカは呂律の回らない舌で、頭の空っぽな女そのものの声を出し、ザラキの肩に顔を擦り付けた。


「けッ、だらしねぇ女だ。金、持ってきたんだろうな?」


「もっちろん!ファインの馬鹿から、また引っ張ってきたわよぉ。でんさぁ……」


フウカはわざとらしく口を尖らせ、上目遣いでザラキを見た。


「ザラキってさ、いっつも喧嘩ばっかりしてて強くてカッコいいけど、お家の話とか、全然してくんないじゃん?アタシゃあ、ザラキのことなら何でも知りたいのになぁー」


「あぁ?親父のなんざ、お前みたいなのが知ったところで面白くもなんともねぇよ」


「えー!けちぃ!ちょっとでぃいいから見してよぉ!書記長?のお仕事の道具?とか、すっごキラキラしてたりするんしょ?見せて見せてぇ!」


完全に、ノリだった。

深夜のテンション、アルコールの酩酊、そして馬鹿が馬鹿に絡む、どこにでもあるありふれた痴話喧嘩の延長。


フウカは全身で「本気で馬鹿になっている」状態を作り出していた。彼女の瞳には、打算の光など微塵もない。ただの好奇心と、男の気を引きたいだけの浅ましい欲望しか映っていなかった。


「……うぜぇな。しゃあねぇか、ま、ちょっとだけだぞ。親父が家に置いてった端末がある。どーせお前が見ても、意味なんか分からねぇだろうがな」


ザラキは鼻で笑いながら、自身のポケットから鈍い銀色に光る小型の魔導端末を取り出した。

それは、魔導規制局の高官が使用する、強固な暗号化が施されたアクセスキー兼データストレージであった。


「わぁーっ!なにこれすっご!ピカピカしてるぅ!」


フウカは歓声を上げ、ザラキの手から端末をひったくるように奪い取った。


「おいおい、落とすなよ!」


「わかってるってばぁ!えへへ、ちょっとアタシの端末と通信させてみていい?あ、写真とか撮れないの、これ?」


フウカは興味なさそうに、おもちゃを弄る子供のように画面をスワイプしながら、自身の魔導端末をそれに重ね合わせた。

その瞬間である。

フウカの指先から、サメ獣人の「魔力」が、微細なノイズとなってザラキの端末へと流し込まれた。

それは、魔導・ハッキング・プロトコル。どんな強固な結界も、エルフの暗号式も、一瞬のうちに解体し、情報を複製する、恐るべき術式であった。


「んー、なんだぁ。数字ばっかりで全然つまんなーい」


数秒後。フウカは心底退屈そうな顔をして、端末をザラキに投げ返した。

その数秒の間に、魔導規制局の機密データ、職員の名簿、結界の配置図、そしてエルフたちが隠蔽してきた過去の禁忌の実験記録のすべてが、フウカの端末に完全にコピーされていたことなど、ザラキは知る由もなかった。


「だーら言っただろーが。お前みてえな馬鹿には分からねぇって」


ザラキは得意げに笑い、端末をポケットにしまった。


「むー!あ、そうだザラキ!あーしちょっとトイレ行くね!」


「お、おう。あくしろよ」


フウカは千鳥足でトイレの方へと向かい……そして、死角に入った瞬間、彼女の瞳から「馬鹿」の濁りが完全に消え去った。


「……さて。すべて、手に入れましたわね」


フウカは冷たい声で呟くと、トイレの窓を開け、夜の雨の中へと音もなく姿を消した。

彼女がザラキの前に二度とその姿を現すことは、永遠になかった。


雨上がりの澄んだ空気が漂う、王都の高級住宅街。

ファイン・ガバナンスが住む超高層マンションのポストに、朝早く、一つの分厚い封筒が投函された。

中に入っていたのは、かつてフウカが「手切れ金」としてファインから巻き上げた莫大な財産の全額、そして、丁寧に整った美しい文字で書かれた短い手紙であった。


『お貸しいただいた資金、誠に有難うございました。おかげで、最高の舞台を演じ切ることができましたわ。貴方の無機質な正論は退屈でしたが、その資金力だけは評価して差し上げます。ごきげんよう』


封筒をそっと投函したフウカは、夜明けの光に照らされる王都の街並みを、静かに見下ろしていた。

潜入、演技、そして奪取。


完璧であった。


彼女は、自らの内に眠る「本物の狂気」にギリギリまで身を浸したからこそ、誰にも見破られることなく、すべてを騙し通すことができたのだ。

狂気と知性の刃渡りを歩き切り、必要なカードはすべて彼女の手の中にある。


「……マオ。わたくし、やりましたわよ」


手に入れた魔導規制局の機密データ。

傘下に収めた無数の研究機関と科学者たち。

そして、フウカ自身の無限の魔力と、完全なる知性。

これらをすべて組み合わせれば、エルフたちの支配構造を、根本から叩き潰すことができる。

物理的なテロではない。

「学」という、誰にも反論できない絶対的な論理と真理による、世界の破壊を……!

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