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ヴェリタスの最終定理6:始祖フウカ・ヴェリタスの慈愛【2位/このシリーズだけで完結してます】  作者: LIU WANPAI
世迷いの嫁はサメの姫

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美食13:【利権はいかが!医療を弄ぶ愚者たち!破滅さんこんにちは!】

イメージソング:ハロウィンⅢ サウンドトラック

https://youtu.be/39QG88pySA0?si=wYknmZa2UqxPUICR

帝都、そしてその片隅にある西都。

現在の帝都の政治体制は、洗練された恐怖政治によって掌握されていた。


もし、うっかり居酒屋で「最近、魔力使用料が高くて生活が苦しい」と愚痴をこぼしたとする。すると、その者は翌朝には「遠いところへお出かけに行き、何故か二度と戻ってこない」ことになっていた。

家族が警察に捜索願いを出しても、窓口の役人は無機質な笑顔でこう答えるのだ。「彼は自らの意志で、北方の開拓地へ、国家のための労働に向かわれました。素晴らしい愛国心ですね」と。


また、もし獣人が「魔力のせいで自然環境が破壊されている」とデモでも起こそうものなら、その瞬間に空から魔導規制局の治安維持部隊が新登場し、「国家転覆を企むテロリスト、あるいは異世界からの侵略者」として、問答無用でその場にいる全員が物理的に「処理」された。


人間が魔力政策に少しでも異を唱えれば、翌日から強制的な農村での無償労働が待っており、獣人が逆らえばその場で命を奪われる。

密告が奨励され、隣人は常に監視者であった。

言論の自由などという左翼じみた概念は、魔力という圧倒的な暴力と利権の前に、完全に圧殺されていたのである。


そんな、息の詰まるような重苦しい世界の中で。

西都警察署の片隅で、くたびれたトレンチコートを羽織った中年エルフ、ジン・ヤザワは、安煙草の煙を深く吐き出しながら、限界を迎えていた。


「……もう無理だ。何もかも、腐りきっていやがる……!」


ジンは、自らの長い耳を鏡で見つめ、自嘲気味に笑った。

エルフ。それは、この新暦の時代において、神に愛された特権階級であった。なぜなら、エルフという種族は、どれだけ無限に魔力を使おうとも、脳が内側から焼けて溶け出す「魔力障害」が一切起きないからだ。彼らは生まれながらにして魔力の器が底なしであり、それゆえに魔導規制局の上層部は、ほぼすべてエルフで占められていた。

ジンもまた、そのエルフの一人である。

だが、彼は魔力という安易な力に頼ることを嫌い、自らの足で歩き、汗をかいて市民の平和を守る生き方を貫いてきた。


「俺は、ただの腰抜けだ……。だがな……」


ジンは、机の上に置かれた、マオとフウカと、ノルンと、それから「マオによく似た、しかし、知らない白髪の誰か」が笑い合っている写真を見つめた。


「死ぬ前に一花咲かせるくらいは、この俺にもできるはずだ。あいつらが笑って生きられる、少しだけ、マシな明日を残してやらなきゃ、俺は死んでも死にきれねぇんだよ!!」


ジンは立ち上がった。

特権階級であるエルフの自分が動けば、まだ話くらいは聞かせる隙があるはずだ。

彼は単身、帝都の中枢にそびえ立つ魔導規制局の本部ビルへと乗り込んでいった。


魔導規制局本部、最高幹部会議室。

大理石のテーブルを囲むのは、冷酷な瞳をしたエルフの長老たちである。彼らは、底辺の警察官であるジンを虫ケラを見るような目で見下ろしていた。


「……ジン・ヤザワ。貴様、同胞の顔に泥を塗りに来たのか?魔力政策への反対だと?一体……自分が何を言っているのか、理解しているのか?」


議長が冷ややかに言い放つ。

だが、ジンは一歩も引かなかった。むしろ、ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、机をバン!と叩いた。


「俺はただ文句を言いに来たんじゃねぇ。あんたらに『儲かる話』を持ってきてやったんだよ!」


「儲かる話だと?」


「あぁ!『魔導病院』の設立だ!!」


幹部たちがざわめいた。

ジンは続ける。


「この世界に、魔力によって破壊された脳や身体を治療する専門機関は存在しねぇ。なぜなら、あんたらが『魔力は安全だ』と言い張っているからだ!だが、裏では魔力障害で苦しむ奴らが溢れ返っている。こいつは、巨大市場だぜ?」


「馬鹿な。病院など作れば、魔力の危険性を認めることになる。大義が崩れるではないか」


「大義より『実利』だろうが!」


ジンは声を張り上げ、熱弁を振るう。


「いいか?魔導病院を作るってことは、そこには新しい国家資格が必要になる!その資格を発行するのは誰だ?あんたらだ!さらに、『魔導薬剤』の認可、販売ルート!これにまつわる新しい税と利権の額は、今の魔力使用料の比じゃねぇぞ!!」


幹部たちの目の色が変わった【ように見えた】。彼らは絶対的な権力者であると同時に、底なしの強欲な資本家でもあったからだ。だが、まだ首は縦に振らない。


「確かに、莫大な金は動く。だが、誰がその危険な『魔導治療』を行うのだ?医者自身が魔力障害で死んでは意味がない」


ジンは、ここで最大のカードを切った。


「だからこそ、エルフの出番じゃあねぇか!!」


ジンは両手を広げた。


「エルフは魔力障害を起こさねぇ!つまり、魔導医師になれるのは事実上エルフだけだ!これは、エルフという種族が生命の根幹を完全に独占し、他種族を永遠に支配し続けるための、最強の『特権階級システム』の完成なんだよ!!」


会議室に、沈黙が落ちた。

エルフによる医療の完全独占。それは、長老たちの傲慢な選民思想と支配欲を、これ以上ないほど完璧に満たす甘美な響きだった。

【全てを興味なく聞き流していた】議長が、最後に、【鋭い視線】をジンに向けて、【深刻そうに口を開いた】。


「……理論は完璧だ、ヤザワ。だが……机上の空論にすぎん。病院を全国に展開し、未知の薬剤を流通させるには、帝都全土を網羅する完璧な【物流網】が必要だ。……ヤザワ。これが解決されない以上、我々にはどうすることもできん……」


ジンは、ニヤリと笑って、入り口の巨大なマホガニーの扉を振り返った。


「それなら心配無用だぜ。なんせ、最高の『運び屋』を連れてきてるんでな!」


ジンの合図とともに、重厚な扉が派手な音を立てて開け放たれた。


「ごきげんよう、腐りきった俗物の皆様方!!」


そこへ現れたのは、二人の少女だった。

一人は、漆黒の豪奢な洋風ドレスに身を包み、サメの半獣人特有の鋭い牙を覗かせて不敵に笑う、西都の裏社会の元女王、フウカ・アギト。

そして彼女の隣には、赤いチャイナ風のエプロン姿でキョトンとした顔で立っているマオ・チェンリー。


「な、なんだ貴様らは!?警備兵!」


幹部が立ち上がるが、フウカは扇子をバサァッと広げ、高らかに笑った。


「オーッホッホッホ!テロリストですって? 笑わせないでくださる?わたくしは、これから皆様の懐に莫大な富を運び込む、黄金の女神ですわよ!」


フウカは、自信に満ちた足取りで会議室の中央へと進み出た。


「確かに、わたくしのアギト一家という組織は解体されましたわ。でもね! 帝都の裏の裏まで繋がる水路、陸路、そして何より、現場で汗を流す『商人たちとの繋がり』は、このフウカ・アギトがすべて握っておりますの!わたくしが、あなた方の魔導薬剤を届けて差し上げますわ!」


幹部たちは息を呑んだ。

そして、そのフウカの腕に、マオがギュッと抱きついた。


「フウカの言う通りアル!フウカはすごいんだヨ!あ!ついでに、魔導病院の食堂はワタシが請け負うアル!栄養満点で最高に美味しい薬膳料理で、患者たちをあっという間に元気にするヨ!」


マオは、お玉を振り回しながら、ものすごくピントのズレた、しかし最高に元気で可愛い提案を叫んだ。


「ちょっとマオ!今は食堂の話はどうでもいいですわ!わたくしの見せ場を取らないでくださいな!」


フウカは顔を真っ赤にしてマオの頭をポカポカと叩きながら、結局はデレデレになってマオのほっぺたをつねった。


「い、痛いアル〜!フウカ、ひっぱるなヨ〜!」


「ふふん、生意気な口を利くからですわ!帰ったらたっぷりお仕置きですわよ!」


二人のあまりにも無邪気で、緊張感ゼロのやり取り。


【その絶対的な「可愛さ」と「明るさ」が、会議室の空気を、一瞬にして平和でコミカルなものに塗り替えてしまったかのように見えた。】


特権階級の長老たちは、ポカンと口を開け、ジンは「やれやれ」と呆れながらも、嬉しそうに目頭を押さえた。


「……こほんっ」


議長が、気まずそうに咳払いをした。


【彼らに断る理由は、そもそも、最初から、一つもなかった。】


「……よかろう」


議長が、重々しく頷いた。


「ジン・ヤザワ。お前の提案、そしてアギト家の物流網、採用させてもらう。直ちに『魔導病院』の設立準備に入れ!」


「やったアル!!これで食堂は大儲けヨ!!」


マオがその場でピョンピョンと飛び跳ねて喜び、フウカの首に抱きついた。


「きゃあっ!ま、マオ、くっつかないでくださいな! 俗物どもが見てますわよ! ……まぁ、今回だけは特別に抱きしめ返してあげますけれど!」


フウカは顔を真っ赤にして照れながらも、マオの小さな体をしっかりと抱きしめ返した。その瞳には、かつてないほどの痛快な達成感が輝いていた。


「へっ、さすがは俺の見込んだ姉ちゃんたちだぜ」


ジンは、トレンチコートのポケットに手を突っ込み、満面の笑みを浮かべた。


その日の午後。

帝都の巨大なスクリーンに、魔導規制局の緊急会見が映し出された。


『市民の皆様に、重大な発表があります。我々魔導規制局は、長年の研究の結果……魔法の使用が、人体および精神に深刻な悪影響、すなわち、魔力障害を引き起こす危険性があることを、ここに公に認めます』


街行く人々が、驚きに足を止めた。

絶対に過ちを認めないはずの全体主義の化身が、自らの非を、魔力の危険性を、ついに公に認めたのだ。


もちろん、そのすぐ後には「最新鋭の魔導病院を設立し、市民の健康を保障する」というアピールが続いたのだが、そんなことはどうでもよかった。


重要なのは、彼らが「魔力は危険だ」と認めたこと。

リンが命を懸けて証明しようとした真実が。

ノルンが守りたかった世界の本当の姿が。

ジンという一人のくたびれたエルフと、フウカとマオという逞しい少女たちによって、ついに白日の下に晒されたのだ。


「やった……やったアル!フウカ、おっさん!ワタシたち、勝ったアルよ!!」


西都の街角で、マオが涙を浮かべて満面の笑みで叫んだ。


「当然ですわ!このフウカ・アギトと愛しのマオがタッグを組めば、世界すらも手のひらで踊らせてみせますわ!」


フウカがマオの手をぎゅっと握りしめ、青空に向かって高らかに笑う。


「俺のおかげだろうが!まぁいい、今日は大西館で、俺のおごりで宴会だぁ!!」


ジンが嬉し泣きをしながら、二人の背中をバンバンと叩いた。

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