再起動0:【家なき少女に花束を:前編】
イメージソング:怒りの日
https://youtu.be/GkdSa84pv0o?si=USJONHRXx5NI8wVH
因果。
それは、極めて数学的であり、同時に、極めて残酷なシステムである。
例えば。
サイコロを振るとしよう。
一回振って「1」が出るか、「6」が出るかは誰にもわからない。運命は常に不確定のように見える。
だが。
振り続ければ、どうなるか。
出目の「平均値」は必ず「3.5」という定数に収束していく。
収束。
「過程」が異端であっても、試行回数を引き伸ばせば、「結果」は最初から決められた『ひとつの点』へと向かい続ける。
世界を巻き戻そうが、ルートを変えようが、「真理の最終定理」から逃れることは、いかなる超越者にも不可能である。
かつて、新暦110年前後の世界に、グリッチ・オーディナルという一人の少女がいた。
弱冠18歳にして学術界の頂点に立ち、同時に世界の軍事力を単独で凌駕する魔力を有していた、「最強の矛」。
白髪を揺らし、赤い瞳で無邪気に笑う彼女は、正真正銘の天才であった。
彼女には、エラーラ・ヴェリタスという愛する女性学者がいた。元婚約者であり、それが彼女のすべてであった。グリッチは彼女と共に生き、共に老い、そしていつか、彼女の手を握りながら穏やかに死ぬことだけを夢見ていた。
だが、世界は彼女の存在を許容しなかった。
ある凄惨な事故により、グリッチは次元から完全に消滅させられ、ただの「魔力という概念そのもの」へと変質させられたのだ。
それでも、グリッチは諦めなかった。
幾度となく、この世への帰還を試みた。次元の壁をこじ開け、肉体を再構築し、エラーラのいる世界へ戻ろうと足掻いた。
だが、その度に「因果の収束」が彼女を襲った。
どれほど奇跡的に帰還を果たそうとも、サイコロの出目が「3.5」に収束するように、宇宙はあらゆる不条理を引き起こし、強制的に彼女をこの世から抹消した。
「でも、無駄だよ!私最強だから!何百万回殺されたって、絶対にエラーラのところに帰るんだからね!」
一方、グリッチが虚無の世界でもがき苦しんでいる間、現実世界ではひとつの「特異点」が生まれていた。
ケイン・ワカバ。
かつて地獄を目の当たりにし、人間性を完全に喪失した結果、「究極の論理的思考」を手に入れた完全異常者。彼は、静かなるテロリストとして、世界から「魔力」を根絶するための活動を水面下で続けていた。
彼は政治を裏から操り、魔力発生装置を次々と破壊し、魔法使いの血統を暗殺によって断絶させていった。
まるで人類がウイルスを根絶したように、この世の魔力はみるみるうちに減少していった。
そして、ある雨の降る夜。
王都の汚い裏路地で、最後の「魔法使い」であったケイン・ワカバは、ルシアン・ヴァレンタインとの対峙の末に、自らのこめかみを撃ち抜いて死亡した。
この瞬間、世界で起こった現象を物理的に説明しよう。
ケインの死により、この宇宙に存在する魔力の総量は、ついに、完全に0となった。
魔力というエネルギーが、宇宙の端から端まで、完全に消滅したのである。
それは、グリッチ・オーディナルにとって、待ちに待った「帰還の扉」が開かれたことを意味していた。
世界から魔力が消え去ったことで、次元を隔てていた反発力が失われ、虚無の世界と現実世界を繋ぐポータルが自然発生したのだ。
「……あ、開いた。やった!やっっっっと開いた!私の勝ち!宇宙の法則なんかに、この天才が負けるわけないんだから!」
無限の虚無の底で、グリッチは歓喜の声を上げた。
彼女の魂が、光の射す方へ、懐かしい現実世界の方へと跳躍した。
その帰還への道程は、生易しいものではなかった。
虚無。
それは、絶対の暗黒空間。
存在そのものが溶解し、「個」の概念すら保てない文字通りの無の世界である。
グリッチ・オーディナルがその地で潜り抜けてきた戦いは、筆舌に尽くし難い修羅の道であった。
暗黒の果てから、幾億もの「拒絶」が彼女を襲う。
それは概念の群れであり、宇宙の理から外れた異物であるグリッチを完全消去しようとする、世界の免疫反応だった。
虚無の荒野で、彼女の肉体は何度も引き裂かれ、粉々に砕け散った。
だが、グリッチは退かなかった。
「来るなっ……!私には、まだ帰らなきゃならない理由があるの!あんたたちみたいな塵芥に、私の『希望』を奪われてたまるかぁっ!!」
少女の叫びが、虚無の空間を物理的に切り裂く!
次元の裂け目を素手で殴り抜く!
群がる敵の群れを、引き裂き、投げ飛ばし、噛み千切る!
彼女は、戦い続けた!
幾千の死を越え、幾万の絶滅を素手で叩き潰し、グリッチはついに、現実世界へと繋がる最後のゲートをこじ開けたのだ。
彼女は勝ったのだ!
凄惨な無の地獄で、全宇宙の意志を相手に、単身で勝利をもぎ取ったのである!
だからこそ、彼女は信じて疑わなかった。
この死闘をくぐり抜けた自分なら、どんな過酷な現実が待っていようと、必ずすべてをひっくり返して見せると。
満面の笑みを浮かべたグリッチ・オーディナルは、愛する世界へと飛び込んだ。
【それが、真の「希望」の産声であるとも知らずに……。】
グリッチが、現実世界に降り立った。
王都の裏路地。血溜まりの中に倒れるケインの死体のそばに、白髪の少女が、光を纏いながら実体化した。
「ただいまーっ!……」
グリッチが笑顔で周囲を見渡した、その「刹那」であった。
彼女の圧倒的な頭脳が、ひとつの破滅的な結論を弾き出した。
(魔力が……完全に、ゼロ?)
──終局、である。
ここから起こった出来事は、極めて単純な力学の法則に従っている。
例えば、深海の底から、密閉されたカプセルを宇宙空間へと一瞬で転送したとしよう。カプセルの中の空気は、無限の真空に向かって爆発的に膨張し、カプセルを粉微塵に粉砕する。
今、グリッチ・オーディナルという存在は、虚無の世界で自己を保つために「無限の魔力生成装置」と化していた。彼女の体内には、極限まで圧縮された超高密度の魔力が渦巻いている。
一方、彼女が降り立ったこの現実は、「魔力完全ゼロの無限の真空」となっていた。
魔力密度がゼロの空間に、無限の魔力密度を持った特異点が突然出現したのだ。
無限の膨張と、無限の収縮。
宇宙そのものが、この圧倒的な「圧力差」に耐えられるはずがなかった。
「やば」
グリッチが短く呟いた瞬間。
世界が、彼女の無限の魔力を一気に「吸い込もう」とした。
魔力ゼロの真空状態である宇宙空間全体が、グリッチという無限の水源から一斉にエネルギーを奪い取ろうと、空間の構造そのものを彼女に向けて「引き延ばし」始めたのだ。
空間が、ゴムがちぎれるように悲鳴を上げた。
すべてが、グリッチの放つ無限の魔力に引っ張られ、ねじれ、極限まで薄く引き延ばされ……。
宇宙は、無限の魔力に耐えきれず、自らの空間を維持する限界値を超え、完全に「破裂」して消滅した。
誰一人として、自分が死んだことすら認識できなかった。恐怖も、絶望も感じる暇もなく、人類も、星も、歴史も、すべてが一瞬にして無へと還った。
彼らは幸せだった。痛みを感じずに消滅できたのだから。
後に残されたのは、「無限の魔力を放出し続けるグリッチ・オーディナル」と、彼女が存在するための、有の「無の空間」だけ。
今まで、世界が存在していて、グリッチだけが無の世界に追放されていた。
だが、今は逆である。
世界が完全に無となり、グリッチ・オーディナル『だけ』が、そこにいた。
「……」
グリッチは、立ち尽くしていた。
無の世界を「真っ黒な闇」だと想像する者は多い。
だが、それは、間違っている。
闇とは、光が欠如しているという状態を示すベクトルであり、そこにはまだ物理法則が存在している。
真の無とは、黒ではない。
白である。
ただ、焼き尽くすような白々しい光だけが、無限に広がっている空間。
それは、「完全なる可能性」であり、「純粋な希望」そのものだった。
「おーい!誰かー!?えっ、うそ、私……壊しちゃった?え……」
グリッチは、真っ白な空間を走り出した。
走っているのかどうかもわからない。足音も鳴らない。風も感じない。
彼女は無限の魔力を持っている。魔法を使えば、火を出し、水を作り出し、星を創り出すことすらできるはずだった。
グリッチは指先を鳴らした。
だが。
何も起きない。
「……え?魔法式は完璧なのに!?」
当然である。
魔法とは、「対象」に干渉して事象を「書き足す技術」である。
だが今、干渉すべき「キャンバス」そのものが消滅してしまったのだ。
絵の具を無限に持っていようと、描くべき紙がなければ絵は描けない。
ただ、すべてを許容する「希望」だけが彼女を包み込んでいた。
「何でもできる」。
グリッチは今、宇宙で唯一の存在であり、全能の神であった。
だが、「何でもできる」がゆえに、「何をしても意味がない」。
対象が存在しないのだから。
愛するべき他者がいない。
憎むべき敵がいない。
悲しむべき喪失対象すらない。
怒り狂おうにも、ぶつける壁が存在しないのだ。
「あはは…………。私、ずっと頑張ってきたのに。それでも戦い続けたのに……?」
グリッチの瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
痛みや、憎しみや、嫉妬を向けられたら、まだ救いがあった。
人間は、マイナスの感情を「怒り」というエネルギーに変換し、精神を維持することができるからだ。
だが、この白い世界にあるのは、圧倒的に無関心な「希望」だけである。
「あなたは、自由だ」
「あなたには、可能性がある」
「あなたは、解放された」
世界が、沈黙の光で彼女にそう語りかけてくる。
何を希望しようと、すべてが不可能。
すべてが無駄。
誰にも会えない。何も見えない。
「……死」
グリッチは、自らの無限の魔力を暴走させ、己の存在を消し去ろうとした。
自己破壊の呪文を心臓に打ち込む。
しかし、彼女の肉体は傷つかない。
そもそも、今の彼女は「魔力そのもの」であり、「死」という概念が存在する世界はすでに消滅している。死が、存在しないのだ。
死ねない!
生きられない!
ただ、永遠に、ここに「在る」ことしかできない!
これが、因果のシステムが最終的に弾き出した『答え』!
真実の最終定理とは、「希望」という名の、【終局】であった!
グリッチが世界への帰還を望み続けた結果、システムは彼女の願いをきちんと叶え、同時に……すべてを奪い去った!
「うあ……ああ……あああああぁぁぁぁっ……!!」
グリッチは、白い虚無の中で頭を抱え、膝から崩れ落ちた。
どこに、帰ろうとしていたのか?
自分は、何と戦っていたのか?
無は、彼女の記憶の輪郭すらも曖昧にしていく。
忘れたくない。
忘れてはいけない。
だが、何を?
だが、彼女の記憶は、参照する対象を失い、「最初から知らなかった」状態へと再フォーマットされていく。
「いやだ……いやだ!いやだ!思い出せ、私、天才だろ?思い出せええええっ!思い出したい!私の……私の、一番大切な…………誰?誰だっけ!?私は…………私は……誰に褒めてほしかったの……?誰……誰????」
誰も答えない。
だが、その問いかけが引き金となった!
グリッチの脳髄が、かつて彼女がこの世界で観測したあらゆる日常のログを猛烈な速度で再生し始めた!
忘れてたまるか!
忘れてたまるかよ!
幼い頃、路地裏で転んで膝を擦りむいた時に、泥だらけのハンカチを黙って差し出してくれたあの、見知らぬ少年の……手のひらの温度!
学生時代、図書館で、いつも窓際の同じ席でよだれを垂らして爆睡していた先輩の呆れた寝顔と……古本の紙の匂い!
雨の日に、傘を持たずに駆け込んだ軒先で、タオルと一緒に不格好な飴玉をくれた八百屋のおばさんの……温かい笑顔!
研究室の機材を巡って、取っ組み合いの大喧嘩をした挙げ句、最後は一緒に床で笑い転げたあの同期の……生意気な声!
それらが、白い光の中でチカチカと点滅し、端からシュワシュワと泡のように溶けて消えていく!
いやだ!
いやだ!
そして、絶対に手放してはならない、彼女の宇宙の中心!
いつも背中を追いかけていた、大好きなあの白衣の匂い!
呆れながらも結局は世話を焼いてくれた、黒いドレスのあの人の鋭い声!
どんな時でも温かいお茶を入れて微笑んでくれた、金色の髪のあの人の眼差し!
いつもため息をつきながら、それでも最後には一緒にいてくれた、眼鏡のあの人の不器用な優しさ!
名前が、出ない!
声が、思い出せない!
顔の輪郭が、真っ白なキャンバスに塗り潰されていく!
「やだ!やだやだやだやだっ!待って!行かないで!消えないでよぉっ!」
グリッチは真っ白な虚無に這いつくばり、鼻水と涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、両腕を振り回した!
天才としての尊厳も、魔法使いとしての矜持もすべて投げ捨て、ただの迷子のように泣き叫ぶ!
「私の記憶だ!生きてきた証拠なんだよ!勝手に奪うんじゃない!泥棒!人殺し!死ね!死ねよ!返せええええっ!!!!」
彼女は自分の頭を両手で激しく叩き、髪をむしり、見えない敵に向かって威嚇した!
それでも、記憶の漂白は止まらない!
あの日食べたドーナツの味も、あの日見るはずだった映画の約束も、すべてが、強制終了されていく!
「お願い……お願いだから……っ!私が死んでもいい!私が死ぬ!でも、記憶だけは……みんなのことだけは、残してよ!みんな大好きなんだ!大好きなんだよぉっ!……助けて!!!!助けてよおっ!!!!思い出せないんだよ!!!!何を奪われたか思い出せない!!!!助けて!!!!誰か助けて!!!!誰か!!!!助けて!!!!」
グリッチは額を激しく打ち付け、血の出ない肉体で、体を掻きむしった!
痛みすら感じないこの絶対的な無の中で、彼女の心だけが、かつてないほどの激痛に引き裂かれ、もがき苦しみ続けていた!
「助けて!!!!誰か!!!!助けて!!!!」
誰も答えない。
ただ、真っ白な光が、彼女の悲痛な叫びを優しく、残酷に包み込むだけ。
ただ、絶対的な全能感と、何もできないという究極の無力感が、永遠に交差するだけ。
「あっはっは……あはははははっ!私、誰か、私、見てよ!私、なんだよ……!私、いるよ……ここに……」
狂ったように笑い声を上げるグリッチ・オーディナルの姿だけが、白い空間に永遠に固定された。
究極の地獄は、宇宙のどこでもなく、ただ、グリッチ・オーディナルの内側のみに、完璧な形で完成したのである…………。
顔も、名前も、声すらも。
すべて消え去った。
何も思い出せない。
だが、胸の奥の奥、魂の核に焼き付けられた「熱」だけが、どうしても消えなかった。
名前の分からない誰かを、命を捨ててでも愛していたという、絶対的な事実の残滓。
対象を失った、あまりにも巨大な愛が、行く場をなくし、真っ白な虚無の中で彼女の魂を内側から灼熱のように焼き尽くしていく。
狂いそうなほどの愛おしさと【孤独】。
それだけが、今のグリッチ・オーディナルという存在の、唯一の輪郭だった。
だが。
真理は、常に反転のパラドックスを、内包している。
完全なる「無」とは、決して絶対の終着点ではない。
それは、あらゆる事象と可能性が凝縮された、完全なる「有」の裏返しである。
いかなる地獄の底であろうと、どれほど凄惨な絶望の果てであろうと、「何もない」という余白が存在する限り、そこには必ず「次」が宿る。
希望とは、救済ではない。
時が止まり、因果が崩壊し、記憶すらも溶け落ちたこの絶対的な真空にすら、決して消し去ることのできない定理がある。
真実の最終定理!
それは、「希望」が、自らの力で立ち上がるための【発端】だということ!
だからこそ、神頼みだけの日々の、【終局】なのだ!
だからこそ、何も恐れる必要はない!
全てが消滅し、ただ、真っ白な空間だけが、取り残されたとしても!
グリッチ・オーディナル。
彼女は知っていた。
明日、自分が宇宙の王になる可能性も、明日、この無の空間が完全に終わる可能性も、限りなくゼロに近いということを。
だが、可能性はゼロではない。
未来を変えたいなら、祈っている暇などない。
未来を変えたいなら、徹底的な反省と、血を吐くような改善を繰り返し、熱く戦うのだ。
「熱血」だ!
冷徹な論理と狂気的なまでの執念が融合した「熱血」こそが、ゼロに張り付いた確率の針を、力ずくで「100%」に近づける、唯一の武器なのだ!
宇宙が、何もない虚無から突然始まる理由なんて、なかった!
キミが、この世界に生まれてくる理由なんて、なかった!
だが!
グリッチは顔を上げ、その狂気の赤い瞳を見開いた。
いま、生きている!
「そんなわけがないこと」だとしても起きるのだ!
生きているキミがいるという、あり得ない、動かぬ証拠があるからだ!
「……会いたい」
それは論理でも、魔法式でもない!
ただ、すべてを失った少女の胸の奥で燻っていた、あまりにも純粋で、泥臭い執念の着火!
「もう一度……みんなに、会いたい!」
その、強烈な愛の熱源が、無限の無の中心で、ついに『特異点』として覚醒した!
その時!
無の地獄の底で、突如として、途方もない地鳴りが響いた!
それは、この空間に存在するはずのない「意志」の衝突!
誰の声でもない!
しかし、一つの巨大な意志となったその熱量が、絶対の虚空を内側から粉砕した!
存在しないはずの空間で、ありえない「大爆発」が起きた!
物理法則の限界すら超越した「意志」が、純白の無を吹き飛ばし、引き裂き、塵一つ残さず蒸発させた!
それは、救済などという……生易しいものではない!
無の地獄そのものを消し飛ばす、暴力的で、あまりにも熱い「外からの衝撃波」だった!
「うわああああああああああああああああああああああああっ!!!!」
吹き飛ばされたグリッチ・オーディナルの全身を、凄まじい光と熱の奔流が貫く!
地獄が爆散し、失われていた記憶の欠片が、熱を帯びた鉄の釘のように、脳髄へと叩き込まれる!
そこがどこなのか?
何があるのか?
誰も定義は、もう、しない!
ただ、圧倒的なエネルギーが、彼女の砕けた精神を強制的に再起動させ、ついに、その狂気の赤い瞳を見開かせたのだ!
「あはっ……!あはははははははっ!!」
彼女は笑った!
泣いていたのか、怒っていたのか!
それすら分からない!
ただ、魂の底から湧き上がる熱血が、彼女の全身の細胞を焼き尽し……暴れ回っていた!
「あ……あああ……っ!」
脳髄に叩き込まれた記憶の濁流の中で、彼女の瞳に、大好きな白衣の女性の姿が、温かい仲間たちの笑顔が、鮮明に蘇る!
消えていなかった!
奪われてなんていなかった!
最強の天才は、全身の力を抜き、子供のようにポロポロと大きな涙を溢ぼした!
「エラーラ!?……思い出したよ!……思い出した!……みんな……っ!あはっ……あははははははっ!!」
泣きながら!
泣きながら!
泣きながら、それでも、彼女は、世界で一番誇らしげに笑った!
無すらも吹き飛んだ爆発のなかで、少女の背後に、次なる「何か」を告げる無限の希望が……
希望が!
希望がいま、荒々しく、そして美しく、キミのもとに展開されたのだった……!




