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ヴェリタスの最終定理6:壊れた世界のやりなおしかた【2位】  作者: LIU
殺戮の街

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40/74

屠殺3:【激突!最強の飛竜現る!対話はすでに死に絶えた!】

イメージソング:ビヨンド サウンドトラック

https://youtu.be/q0oo8ttJWNo?si=-y5S8YrhbAyKl1iV

ルミナリアを倒す方法は、ただ一つ。

彼女の体内の魔力が完全に底をつくまで、VLTという名のバッテリーを持ち、ひたすら逃げ回ることだけであった。

逃げる。とにかく逃げる。


重苦しい沈黙が流れる車内の中で、ルシアンはぽつりぽつりと、ルミナリアという「悪女」の本当の目的を語り始めた。


「……ルミナリアには、かつて、シャルロッテという妹がいた」


ルシアンの声には、深く、重い感情が籠もっていた。


「シャルロッテが死んだ時、ルミナリアは、エラーラなんちゃらとかいう魔法使いと共に、世界の【過程】を力ずくで書き換えた。世界の理を捻じ曲げて、妹を救い出したのだ。……確かに、シャルロッテは助かった。だが、救えなかった」


「……どういう?……意味だ?」


ケインが尋ねる。


「【結果】は改変できなかったのだよ」


ルシアンは暗い外の景色を見つめながら呟いた。


「どのような【過程】を辿ろうと、最終的な【結果】は必ず一つに収束する。ウィロー・スミスの「収束論」だよ。名前だけでも聞いたことはあるだろう。シャルロッテは……二度目の人生においても、かつての世界と全く同じ方法で、悪漢の手によって射殺された」


ケインの背筋に、冷たいものが走る。


「世界中から憎まれ、魔女と蔑まれながらも、彼女は命をかけて戦い、世界を救ったのだ。しかし世界は……そんな彼女から、容赦なく、再び妹を奪い去った」


ルシアンはVLTのコンテナへと視線を落とした。


「そしてだ。このVLTとは何だと思う? ……これは、彼女の妹、シャルロッテそのものだ」


「な……ッ!?」


ケインは絶句した。あのガラスの中で眠る、六本腕の醜悪な赤子が……?


「二度目の人生を与えてくれた姉のために、シャルロッテは死に際にすべてを託した。『魔力電池になる』と言い残してね。そして、これから起こる全ての悲劇を予見し、ルミナリアのために、シャルロッテを、VLTというバッテリーへと改造し、彼女に託した人物がいたのだよ。それは」


ルシアンが言葉を言い終わる前に、車は激しいブレーキ音とともに停車した。

目的地に着いたのだ。

そこは、山奥の鬱蒼とした木々に囲まれた場所だった。視界に入ったのは、古びた、木造の建造物。ここまで「小屋」という単語がこれ以上なく似合う建屋も、なかなかないだろうと思えるほどに、粗末で小さな小屋だった。

ジャックスがドアを蹴開け、ケインたちは小屋の中へと足を踏み入れた。

油の匂いと、古い紙の匂い。

小屋の中には、一人の女性が佇んでいた。

彼女は衰えた竜人の女性だった。

分厚い眼鏡をかけ、背中からは極太の鱗に覆われた尻尾が伸びている。年齢は40代半ばほどに見えた。


「……来ましたね」


竜人の女性は、ストーブの小さな炎を見つめたまま、静かに言った。


「VLTを作ったのは、私ですよ」


その言葉に、ケインは息を呑んだ。この竜人が、あの過酷な兵器を作り上げた張本人なのか。


「すべてを終わらせて、平和にするために……私はあれをルミナリアに託しました」


竜人は嘲るように自嘲の笑みを浮かべた。


「けれど、世界の方がルミナリアを裏切り続けた。どれほど尽くしても、どれほど愛しても、世界は彼女を拒絶し、最後には王都諸共すべてを滅却した。ルミナリアは愛を……そして、この世界の真実(ヴェリタス)を……一人のサメ獣人から始まる因果の真実(ヴェリタス)を、そして、私の真実(ヴェリタス)を叫び続けたけれど、結局……世界が落とした爆弾の光によって、彼女は、すべての友を失いました。……無駄だったのです。すべてが」


竜人の声は、乾いた砂のようにカサついていた。


「そうして、魔法という技術も、権威も、学問も……一夜にして完全に意味をなさなくなりました。ルミナリアは一瞬のうちに、絶大な『神』の座から、街角の乞食へ……いや、路傍の小石にまで落ちぶれたのです」


想像を絶する転落。全能の存在から、世界の底辺への失墜。


「すべての存在を、すべての世界を燃やし尽くそうと、彼女は思いました。……当然でしょう。ですが、それでもなお、ルミナリアには人間に対する、世界に対する『愛』が残っていたのです。彼女は復讐を捨て、この国を離れ、辺境のレインフォレストへと移り住みました。そして……ケンジ・クライフォルトと、アリア・クライフォルトという、王都から移住してきた素晴らしい人間の夫婦とともに、田舎の小さな病院で静かに暮らしていたのです」


竜人の瞳から、すっと一筋の光が消えた。


「ですが。……王都からの移住者である三人。しかも、かつて『神』として、魔力使用者として、世界中から激しく嫉妬され、憎悪されていたあのルミナリアを……この田舎の人間たちが、存在を、認めるわけがありませんでした」


ケインの胸が、激しく跳ねた。


「田舎者たちの、陰湿で身勝手な偏見と悪意。そして……ある一人の男が、身勝手な逆恨みと嫉妬から病院に侵入し、ケンジとアリアの二人を惨殺したのです」


「惨殺……!?」


ケインは声を漏らした。


「ええ。さらに厄介なことに、その男は侵入した際、病院内に保管されていたVLTの原液にうっかり触れてしまった。結果、男は、あの醜悪な怪物となったのです。……男を外に出すわけにもいきません。そして、惨殺されたケンジとアリアの葬式を出すことすら、町民たちの目を恐れて出来なかった。だから……ケンジとアリアの遺体は山奥で、ある竜人が……」


そこまで言った時だった。

竜人の女性は、言葉を詰まらせ、ボロボロと大粒の涙を流し始めた。


「……母さん、父さん……ッ!!」


彼女は顔を両手で覆い、子供のように声を上げて泣き崩れた。

その姿を見た瞬間、ケインの頭の中で、すべてのパズルが一気に組み合わさった。

眼鏡をかけたこの竜人、アスナ・クライフォルトは、自分を慈しみ育ててくれた養父母、ケンジとアリアのために……自らの体から吐き出す竜の炎で、愛する両親の遺体を跡形もなく、完全に消滅させるしかなかったのだ。

そしてアスナは、絶望と罪悪感からこの山奥の小屋に引きこもり、生活を始めた。

それによって、何が起きたか。

アスナが微量な魔力を用いて病院の地下深くに閉じ込めていたあの怪物は、アスナという重しがいなくなったことで拘束を破り、院内で脱走して暴れ出した。

そして、たまたまその現場に居合わせてしまったのが、ケインとドノヴァンだったのだ。


「あ……あぁ……」


ケインはガタガタと膝を震わせた。


ルミナリアも、アスナも、殺されたアリアも、ケンジも……誰一人として、人間を恨んでなんか言なかった! 誰一人として悪党などではなかった!


それどころか、彼らは自分たちを迫害し、裏切り続ける人間という存在を、最後まで愛していたのだ!


それなのに、身勝手な人間たちはどうだ?


ルミナリアから、妹のシャルロッテを奪った!


身寄りのない彼女を温かく受け入れてくれた恩人、ケンジとアリアを身勝手な嫉妬で奪った!


そして今また、姉を守ろうとしたシャルロッテの成り果てであるVLTすらも、国家という都合で奪い去ろうとしている。


(身勝手な人間……苦しめられてきた人たち……)


ケインの脳裏に、雷が落ちたような衝撃が奔った。

血が引き、全身の毛穴が開く。


【自分は、どうだったのか。】


ケイン・ワカバ自身、あの診療所で何と考えていた?


「こんな狂った怪物、今すぐ破壊するべきだ!」と叫び、銃口を向けたのではなかったか?


真相も知らず、彼らがどれほどの痛みを抱えて生きてきたかも知ろうとせず、ただ「なんか、自分たちにとって異物で、なんか、害がありそうで、なんか、気味が悪いから」という身勝手極まりない理由で、彼はシャルロッテに、ルミナリアに、引き金をかけようとしたのだ!


あの病院に押し入り、夫妻を殺した男と、はたして、自分になんの違いがあるというのだ?


ケインは、自分の両の手を見つめた!


その手は、冷たく、醜く、救いようのないほどに汚れて見えた!


小屋の壁には、一枚の褪せた写真が飾られていた。

木製のフレームに収められていたのは、黒い狐獣人の女性と、快活な笑みを浮かべる人間の青年だった。

膝をついたままのケインは、濡れた床からその写真をじっと見つめていた。


「……ルル・ヴァンクロフト。そして、ゴウ・オータム」


アスナが、ポツリと言った。


「二人もまた……王都からこの地に流れてきた移民でした。私やルミナリアの、かけがえのない友人だった」


アスナの瞳に、静かな怒りと悲しみが揺らぐ。


「ですが……この街は、彼らを許さなかった。移民というだけで害悪だと決めつけ……最後は、差別意識に狂った一人の刑事の手によって、背後から撃ち殺されました。二人は何ひとつ、悪いことなどしていなかったのに」


その言葉を聞いた瞬間。

ケインの隣でショットガンを抱えていたジャックスが、顔を背け、拳を握り締めながら、絞り出すような声で言った。


「……俺だ」


その一言が、小屋の空気を凍りつかせた。


「俺が……殺した。あの二人を撃ち殺したのは……俺だ」


ジャックスの太い声が、響いた。


「いやちがう!当時の俺は……ただ、上からの命令に従っただけだと言い聞かせていた!でも、移民の流入で街の治安が悪化していたのは事実だった!だって、規則上、仕方がなかった……!謝るわけにはいかない!なぜなら、べつに俺自身は、差別なんて……っ」


『差別なんてしていない』


そう言いかけたジャックスの言葉は、最後まで続かなかった。


「……すまなかった。……本当に、すまなかった……!」


土下座をするベテラン刑事の背中を見つめながら、ケインは何も言えなかった。

重苦しい沈黙を破ったのは、アスナだった。


「……もう、いいのです」


アスナの声には、怒りも、憎しみもなかった。あるのは、すべてを受け入れた者の諦念と、どこまでも深い愛だった。


「謝罪など、何の意味もなさない。けれど……あなた方がその罪を自覚したのなら、お願いです。とにかく、逃げてください。元女神と、ただの衰えた竜人……私が彼女と戦って勝つ方法など、万にひとつもありません。だから……逃げて。それが、私の最後の願いです」


それは、身勝手な人間たちに対する、竜人の最期の愛であり、慈悲であり、そしてあまりにも切ない諦めだった。

やがて、山の端から静かに陽が登り始めた。

差し込む朝の光が、室内を照らし出す。

アスナが淹れてくれた冷めかけたコーヒーの湯気が立ち上っていた。ケインはそのカップを受け取り、一口飲んだ。

そして、朝光の中でアスナの目を真っ直ぐに見つめた。


「──それでも!──俺は、ルミナリアさんを説得してみます!」


ケインの声には、固い決意──だけではなく、ヒロイックに、ありきたりな正義に酔う者特有の安っぽい偽善性──が宿っていた。


「俺たちは。──やったことの罪深さを背負ったまま──俺は……彼女と話したい。対話の──人の可能性を──最後まで捨てたくないんです──!」


アスナは目を見開き、そして深く息を吐いた。

彼女の分厚い眼鏡の奥の瞳に、ほんのわずかな、だが確かな『最後の希望』の光が灯った。


「……愚かな人だ。けれど……あの方に、その言葉が届くことを、祈っています」


だが。

世界は、そのささやかな祈りすらも、即座に踏み潰した。


音が、遅れてやってきた。

唐突に視界を埋め尽くした極彩色の閃光。

一瞬の出来事だった。

極大の魔力光線が、山小屋の空間を一直線に切り裂いた。


「あ……」


目の前にいたアスナの左腕が、肩口から先、根こそぎ『消滅』した。血が噴き出す暇すらなく、肉体細胞が光の熱量によって直接蒸発したのだ。

そして、その光線の直線上にいたのは、後ろに立っていたジャックスだった。

光が収まった時、ジャックスのみぞおちから腹部にかけて、直径三十センチ以上の『真円の大穴』が穿たれていた。

脊髄も、内臓も、背骨も、すべてが綺麗に消失していた。


人は安易に「即死」という言葉を使う。

脳が破壊されれば即死だろう。

だが、腹に風穴を開けられた人間は、すぐには死なない。

ジャックスの上半身が、肉の重みに耐えかねて、腹の大穴から「折れる」ようにして滑り落ちかけた。だが、彼は倒れなかった。大穴の縁に残ったわずかな皮膚と筋組織だけでかろうじて繋がったまま、ジャックスは五秒間、確実にケインのことを見つめていた。


今、現在進行形で「いま、死んでいく」をしている人間を、ケインは生まれて初めて見た!


そして五秒後、ジャックスの瞳から光が消え、上半身が床へと激しく崩れ落ちた。腹から真っ二つに裂けた肉体から、一気に大量の血と臓物が溢れ出す。


「ジャックスッ!!!」


ケインの叫びが響き渡る。

左腕を失い、激痛で膝をついたアスナが、残された右腕でケインの胸元を強く突き飛ばした。


「いいから!!!!いいから逃げろッッッ!!!!!!走れッッッッ!!!!!!」


凄まじい怒号だった。


「VLTを持って車へ!!!!!!早く行けぇぇぇッ!!!!!!」


ルシアンは一切の躊躇なくVLTのコンテナを担ぎ上げると、砕け散った壁の外へと飛び出した。

小屋の外。朝日が眩しく照らす草原の向こうから、ゆっくりと歩いてくる影があった。


ルミナリア・フォン・ラプラス!


その時、壊れた小屋の中から、一筋の影が空へと飛び立った。

アスナだった。

彼女は背中に隠していた、巨大な二枚の翼を全力で広げていた。左肩から血を撒き散らしながら、衰弱したルミナリアに向けて猛烈なスピードで滑空していく。


「クソがああああああッッッッ!!!!!!」


弾丸のような体当たり!


アスナの体がルミナリアに激突し、二人は泥の上に激しくもつれ合った!


アスナがルミナリアの上に馬乗りになる。右の拳を高く振り上げた!


竜の腕力。全重みを乗せた拳。叩きつければ、魔力の枯渇した今のルミナリアの頭蓋など簡単に砕くことができるはずだった。


だが!


アスナは、拳を振り下ろさなかった!


振り上げた腕が、空中で激しく震えている。

殴れなかったのではない。殴らなかったのだ。

アスナの分厚い眼鏡の奥から、溢れんばかりの涙が溢れ出し、ルミナリアの汚れた頬へと滴り落ちた。


「……あぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


アスナは絶叫した!


「殺してやる!殺してやる!殺してやるぅぅぅっ!!」


その怒号は、けして、目の前のルミナリアに向けられたものではなかった。

愛する両親を奪い、友を奪い、優しかったルミナリアを復讐の鬼に変え、自分たちをここまで追い詰めた、理不尽で身勝手な【この世界そのものに対する、血を吐くような叫び】だった。


殺してやりたいほど世界が憎い!


だが、自分たちは人間を愛してしまった!


だから、誰も殺せない!


誰も殴れない!


ただ、泣くことしか……できないのだ!


アスナの慟哭と、その震える拳に込められた絶望の深さは、確かに、ルミナリアの魂に届いていた。

ルミナリアの無機質だった虚無の瞳に、温かな光が戻った。

彼女はそっと右手を伸ばすと、自分を押し倒しているアスナの、涙に濡れた冷たい頬を……優しく、愛おしそうに撫でた。


『……ごめんなさい、アスナ』


ルミナリアの口唇が動いた。声にはならない、かつて神と呼ばれた慈愛に満ちた呟き。


『ごめんなさい、【偽の飛龍】……そして、友よ……』


直後。

ルミナリアの撫でていた手から、ゼロ距離での魔力砲撃が放たれた。

轟音も、衝撃波もなかった。

それは、物質の最小単位である魂のレベルで、存在を光の粒子へと還す『分解』であった。

苦痛も、痛みも、何ひとつ存在しない。

アスナは最期に、ルミナリアの、温かな母のような優しさと愛を肌で感じながら、光の粒子となって朝の風の中に溶けて消えていった。

残されたのは、泥の上に一人横たわる、ボロボロの悪女だけだった。


「ケイン、アクセルを踏め!!」


ルシアンの叫び声で、ケインは正気に戻った。

装甲車の運転席で、ケインは狂ったようにアクセルを踏み込んでいた。


(だけど……なぜだ?なぜ対話ができないんだ!?)


ケインの思考が、無意識のうちに逃げ道を探し始める。


(【俺たちは「謝ってあげた」じゃないか!ジャックスだって自分の「罪を認めてあげた」!俺だって、俺たちの身勝手さを認めて「涙を流してあげた」んだ!なのになぜ!?まだ……まだ話し合えば、彼女の悲しみを分かち合えば、可能性はあるんじゃないのか!?「謝られたら、許すべきだろう」!?「何かをしてもらったら、何かで返すべきだろう?」「彼女だって馬鹿じゃない」!人間を愛していたんだから、むしろ謝るのは……】)


その瞬間!


ケインの胸の奥底から、ドス黒い罪悪感が津波のように押し寄せ、彼の思考を完全に叩き潰した!


ケインは肺の中の空気をすべて吐き出すような、猛烈な嘔吐感に襲われた!


ハンドルを握る手が激しく歪む!


(ち、違う……!違う、違う、違う!!)


ケインは、自分の内側から湧き上がってきた『甘い考え』の正体に気づき、戦慄した!


説得できるかもしれない?


対話の可能性があるかもしれない?


謝ったのだから分かり合えるかもしれない?


それは、何だ?


【それは、被害者に対して苛烈な強姦や、日常的な家庭内暴力を加え、相手の尊厳も、人生も、心もすべてをズタズタに踏みにじっておきながら、後になって勝手に涙を流し、「じゃあ、やり直そう」「まあ、君もたぶん僕を愛してくれていただろう」「でも、君にも問題はあるから、話し合えば分かり合えるはずだ」……と、被害者をさらに非難しつつ復縁を迫る、最悪な加害者のロジックそのものではないか!!!!】


自分たちがやってきた残虐な加害の歴史を、たかが一回の土下座や涙で帳消しにできると思い上がっている!


「自分は反省した良い人間だ」と思いたいがために、被害者に許しを強制しようとしている!


そうして、「謝ってやったのに、許さないお前が悪い」と突きつけて、さらなる加害をしようとしている!


それこそが、ルミナリアたちを、ついにここまで追い詰めた、人間どもの真骨頂『無自覚な自己保身と傲慢さ』そのものではないか!!!!


(俺は……俺はどこまで醜いんだ……!!)


ケインは自分の内側に潜む、底なしの邪悪さに恐怖し、号泣した!


強姦をして、謝罪という「エサ」をチラつかせて、相手が近寄ってきたら、あわよくばおかわりの強姦をしようとしているのだ!


卑劣!


涙と鼻水で顔をグシャグシャにしながら、ケインはアクセルを踏み続けることしかできなかった。

自分という人間の身勝手さに、吐き気が止まらなかった。


だが。


その絶望と混乱の渦中にある車内で、まったく泣いていない者が一人いた。

助手席のルシアンだ。


「まあその、泣くのは後にしてくれないか、新人君」


ルシアンは胸ポケットから一本の煙草を取り出し、ライターで火をつけた。紫煙が車内にくゆり、血の匂いをわずかに覆い隠す。


「対話が不可能なのは最初から分かっていたことだ。当たり前だろう?我々は加害者。彼女は被害者。そこに交わされるべき言葉など……最初から存在しない!」

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