↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴェリタスの最終定理6:始祖フウカ・ヴェリタスの慈愛【2位】  作者: LIU VANCROFT
殺戮の街

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/74

屠殺1:【復活する悪夢!恐怖!惨殺の館!】

イメージソング:ブラストファイター サウンドトラック

https://youtu.be/tFaeGhERePg?si=p_oCjGdyDm_TMxFr

人類は、長きにわたりこの星の歴史を支配してきた「魔法」という名の技術を、完全に喪失した。

いや……「切除」したのだ。


新暦110年。

事の始まりは、大陸の中央に位置する『王都』から漏れ出した一つの病原体だった。

後に「キングダム・ウイルス」と呼称されることになるそれは、人間の大脳辺縁系から前頭葉にかけてのシナプスを物理的に書き換え、特定の波長のエネルギー送受信を可能にするウイルスであった。

宿主となった人間は、物理法則を捻じ曲げる力を得た。

空間から熱を奪い、虚空から雷を喚び、大地の組成を作り変える。


人々はそれを「魔法」と呼んだ。


魔力とは、体内で異常増殖したキングダム・ウイルスが排出する生体エネルギーの残滓であり、魔法とはウイルスが引き起こす極度に変異した「症状」そのものであった。


もちろん、代償は存在した。


【ウイルスの侵食は、宿主の精神を極端に歪めていく。共感性が著しく欠如する一方で、猜疑心、攻撃性、そして選民思想が爆発的に増幅されるのだ。魔法という力を得た者たちは、やがて、持たざる者を迫害し始めた。魔法による生産革命は既存の経済システムを破壊し、世界中に未曾有の貧困と失業を蔓延させた。ウイルスによる精神汚染は国家間の猜疑心を煽り、幾度となく血みどろの戦争を引き起こした。差別、偏見、貧困、大量虐殺。】


【新暦の、あらゆる災厄の根源を辿れば、必ずキングダム・ウイルスに……すなわち「魔法」に行き着いた。世界が泥沼の混乱と飢餓に沈む中、発祥の地である『王都』だけは違った。彼らはウイルスと完全に共生し、魔法という名の超常的な技術を独占し、他国の貧困を肥やしにして黄金の繁栄を謳歌していた。分厚い防壁と完璧な魔法障壁に守られた王都は、外の世界で何百万人が飢え、殺し合おうとも、決して手を差し伸べることはなかった。彼らにとって、ウイルスに適応できない外部の人間は、淘汰されるべき旧人類に過ぎなかったからだ。】


王都は、世界の癌細胞であった。

そしてある日、世界はついに「治療」を決断した。

新暦110年の冬。王都の上空に、所属不明の爆撃機が飛来した。王都が誇る無敵の魔法障壁は、なぜかその機体を迎撃しなかった。投下されたのは、たった一発の兵器。

強烈な閃光が網膜を焼き、遅れて空を切り裂くような轟音が大陸全土を震わせた。

それは、魔法の源であるキングダム・ウイルスのみを選択的に焼き尽くす、広域指向性熱気化弾頭。

王都は、彼らが築き上げた魔法文明のすべてと共に、一瞬にして地上から消滅した。

ガラス化した巨大なクレーターだけを残して。

魔法を、キングダム・ウイルスを、そしてすべての元凶たる王都を消滅させるための、絶対的な火の洗礼。世界の人々は、この日を歓喜と共にこう呼んだ。


『滅菌』と。


魔法という病は消え去った。人々は再び自らの手で鉄を打ち、油を燃やし、歯車を回して、泥臭くも確かな現実の世界を再構築し始めた。

世界は救われた。誰もがそう信じて疑わなかった。


それから10年の歳月が流れた。新暦120年。


かつて王都があった巨大なクレーターから何千キロも離れた西方の大国、ガリア共和国。

その、さらに片田舎に位置する辺境の街レインフォレスト。

絶え間なく降り続く雨が、警察車両のフロントガラスを激しく叩きつけている。

助手席に座る若き巡査、ケイン・ワカバは、窓の景色を物憂げな瞳で見つめていた。

今年で22歳になるケインは、警察学校を卒業してまだ半年の新人である。

短く刈り込んだ黒髪。

鋭さの中に、どこか神経質な色を宿した瞳。

真新しいネイビーブルーの制服の上には、防弾ベストを着込んでいる。

彼の右太ももに固定されたホルスターには、ガリア警察の正式採用拳銃であるハンドガンが収まっていた。


「おいおい、そんなにグリップばかり撫で回してると、いざって時に暴発させるぜ」


運転席でハンドルを握っていたベテラン警官、ドノヴァン・キリクが、安煙草の煙を吐き出しながら言った。

無精髭を生やした彼は、ケインの指導役である。


「癖です。ただの。緊張しているわけではありません。」


ケインは短く答え、視線を前方に向けた。


『こちら本部。暴行事件発生。ユニット4。応答せよ』


ダッシュボードの無線機から、ノイズ混じりのオペレーターの声が響いた。


「ユニット4。こちらドノヴァン。場所と状況は」


『西地区郊外、クライフォルト診療所。通報者は当該施設の職員。「錯乱した男が暴れており、手がつけられない」とのこと。凶器の有無は不明。臨場されたし』


「了解。急行する」


ドノヴァンが無線機を切り、深いため息をついた。


「土曜の夜だってのに、ヤク中は運動会かあ。田舎の診療所に担ぎ込まれるような連中なんて、ろくなやつはいないんだ。……行くぞ、ケイン」


「了解」


ドノヴァンはアクセルを踏み込んだ。

パトカーは加速した。

山道に入るにつれ、雨足はさらに強くなっていった。

暗闇の先には、鬱蒼と生い茂る木々が亡霊のように立ち並んでいる。


「ああ。着いたぜ。あそこだ」


ドノヴァンの声にハッと我に返る。

パトカーがヘッドライトで照らし出したのは、森の斜面に張り付くように建てられた、古びた診療所だった。外壁は黒ずみ、至る所にひび割れが走っている。「滅菌」の時代よりも前から存在するであろうその建物は、まるで巨大な墓石のように雨の中に鎮座していた。

パトカーが砂利の駐車場に停まる。回転灯の赤と青の光が、周囲の濡れた木々を照らし出していた。

診療所の窓には明かりが一つも灯っていない。通報があったというのに、建物の周囲は不気味なほどに静まり返っていた。


「おいおい、なんだ、真っ暗じゃねえか。ブレーカーでも落とされたか?」


ドノヴァンが舌打ちをしながらエンジンを切り、車のドアを開けた。

ケインも助手席を降りる。冷たい雨が容赦なく制服を打ち据え、瞬く間に体温を奪っていく。ケインはライトを左手に構え、右手をホルスターの留め具に添えた。


「ドノヴァン先輩。静かすぎます。通報者が外に出てこないのは……何か……」


「怯えて奥の部屋にでも隠れてるんだろ。まあ……行くぞ。ライト、照らせ」


ドノヴァンは懐中電灯を取り出し、診療所の正面玄関へと歩き出した。ケインは周囲の森にライトの光を走らせながら、彼の背中を追う。

玄関のドアは半開きだった。

ドアの隙間から、ひんやりとした空気が漏れ出してくる。

それは、消毒用アルコールの匂い。そして、強烈な鉄錆の匂い。血の匂いだった。

ケインの全身の筋肉が硬直する。


「先輩、これは……」


「……ああ、どうやらただの酔っ払いじゃあ、なさそうだ」


ドノヴァンもようやく事態の異常性に気づいたのか、腰から警棒を引き抜いた。

二人は無言で頷き合い、半開きのドアを力任せに押し開けて待合室へと足を踏み入れた。

ライトの強烈な光が、暗闇を切り裂く。

待合室は、凄惨な有様だった。椅子は散乱し、受付の窓は粉々に粉砕されている。床には、黒黒とした液体が点々と、奥の廊下へと引きずられたように続いている。

争った跡……という生易しいものではない。まるで巨大な獣が暴れ回ったかのような破壊の痕跡だった。


『……ぁ……ぁぁ……』


不意に、奥の廊下の暗闇から、くぐもった呻き声が聞こえた。

ケインは親指でホルスターのロックを外し、拳銃を引き抜いた。銃口を床に向けたまま、セーフティを解除する。


「警察だ!両手を頭の後ろで組んで出てこい!」


ドノヴァンが懐中電灯を廊下の奥に向けながら、鋭く警告する。

足音が近づいてくる。

ライトの光芒の中に、不気味なシルエットが浮かび上がった。

それは、男だった。

男はうつむいたまま、両腕をだらりと下げて立っていた。その白衣は、赤黒い血液でべっとりと染まり切っている。


「おいお前……怪我をしてるのか?今救急を……」


ドノヴァンが一歩、男へ近づこうとした。


「あ……!?……先輩、下がって!!」


ケインが叫んだ。彼の本能が、生存への警鐘を最大音量で鳴らしていた。

あれは、暴れる患者などではない。ドラッグの中毒者でもない!


あれは……!


男が、ゆっくりと顔を上げた。

その顔面には、皮膚がなかった。

内側から何かが爆発したように筋肉の繊維がむき出しになり、両の眼球は異様な光を放っていた。


あれは……!


10年前に根絶されたはずの……!


「嘘だろ……」


ケインの口から、絶望の呟きが漏れる。


「『魔法』、じゃないか……!?」

 

ドノヴァンが、怪我人を介抱しようと一歩を踏み出した、まさにその瞬間だった。男は、重力を無視して垂直に跳躍し、天井のコンクリートに「張り付いた」。

ドノヴァンが驚愕に目を剥き、首を跳ね上げた時には、すでにすべてが終わっていた。

天井から振り下ろされたのは、たった二本の、人間の腕であった。

湿った一音。

ドノヴァンの身体が、まるで水風船が弾けるように四散した。頭部も、胸腔も、太い骨すらも、綺麗に切り刻まれ、肉の粒子となって待合室の空間にぶちまけられた。床に落ちたのは、ドノヴァンが身につけていた警察バッジと、切りちぎられたタクティカルベストの切れ端だけだ。

文字通り、肉片すら残らぬ粉微塵。


「…………ッ!?」


声にならぬ絶叫が、ケインの喉を焼き切る。

血の雨が、顔面に温かく降り注ぐ。視界が真っ赤に染まる。全身の細胞が、命の危険を察知して激しく脈打っていた。手足を縛られたかのように、体が動かない。


ケインの知る「魔法」とは、こんなものではなかった。

『滅菌』の前、幼かったケインの記憶に残る魔法は、もっと華やかで……美しく……それこそ、おとぎ話のような「技術」だった。

祭りの夜に空を彩る色鮮やかな光の尾。

手品師が帽子から出してみせる、熱を持たない幻想的な炎。

水を空中に浮かべ、生き物のように躍らせるサーカス団の技。

人々を笑顔にし、生活を豊かにするための、高尚で高度な文脈を持つ力。


だが!


今、目の前で繰り広げられた現象はなんだ?

そこには、美学も、洗練された技術のかけらも存在しなかった。

あるのは、ただひたすらに効率よく獲物の肉を解体し、命を奪い去るためだけに特化された、剥き出しの純粋な「暴力」。


血の霧の中で、男がゆっくりと着地した。

男の瞳が、ゆっくりと首を曲げ、次の標的であるケインへと向けられた。

思考よりも早く、生存本能がケインの指先を動かした。

ケインは右手に握りしめた拳銃の銃口を異形へと向けた。

狭い室内で、硝煙の爆音と閃光が炸裂する。

9ミリ弾丸の連続射撃。だが、異形は弾丸の軌道をあざ笑うかのように、信じがたい速度で跳躍した。壁を蹴り、天井を蹴り、残像を残しながらケインへと肉薄してくる。

爪が振り下ろされる。空間が音を立てて裂けた。


「クソがぁッ!!」


ケインは引き金を引くのをやめ、足元のスチール製受付デスクに肩からぶち当たった。

火事場の馬鹿力が破破的な重量の机を傾け、横倒しにする。直後、不可視の刃がスチール机の天板を紙のように叩き切った。激しい金属音と火花が散り、ケインの目の前で鉄板が真二つに引きちぎれる。

だが、その隙が死角を生んだ。

ケインは倒れた机の陰から半身を乗り出し、衝撃で体制を崩した胸部に向けて、残りの弾丸をすべて叩き込んだ。

スライドがホールドオープンし、薬莢が真鍮色の雨となって床に転がる。

男の身体が大きくのけぞり、ドスンと背中から床に倒れ込んだ。

静寂が、待合室を支配した。

雨音だけが、半開きのドアの外から重々しく聞こえてくる。


「ハァ……ハァ……ハァ……ッ!」


ケインは膝をつき、激しい嘔吐感と戦いながら荒い息を吐いた。

予備のマガジンを叩き込み、スライドを戻す手が、酷く震えていた。

直感した。

脳髄の芯を焼き切るような、絶対的な理解。


これが【キングダム・ウイルス】。


これが【魔力】。


美しき技術などというものは、人類が己の狂気を覆い隠すための耳ざわりの良い嘘に過ぎなかったのだ。

本質は、感染者の思想を歪め、理性というブレーキを叩き折り、生存と他者の破壊のみを命じる最悪の遺伝子兵器。


だからこそ!


だからこそ世界は、10年前、あの王都を地上から完全に消し去らなければならなかった。魔法という名の癌腫を、それを育む病原巣を、数億の命と共に『滅菌』しなければ、人類という種そのものが壊滅していたのだから。


「こちらユニット4!本部応答しろ!重大事態発生!繰り返す!重大事態発生!」


ケインは無線機のマイクを掴み、叫ぶように報告を入れた。

冷静になろうと務めれば務めるほど、手袋にこびりついたドノヴァンの血の温もりが意識を狂わせる。


『こちら本部。ユニット4。状況を説明せよ。ドノヴァン巡査長は?』


「ドノヴァン先輩は殉職した。容疑者は……容疑者は『魔法使い』だ!魔法を使用、巡査長を殺害した!俺が容疑者を射殺!現在現場を確保している!」


『何だと?魔法使いだと……?滅菌から10年……』


「すぐに応援を寄こせ!」


ケインは無線を切ると、ライトを握り直し、血の臭いが充満する診療所の奥へと足を進めた。

胸の奥で、肝が冷え切るような感覚がずっと消えない。

背後に迫る暗闇のすべてが、あの異形に見える。壁の影が揺れるたびに、心臓が跳ね上がる。それでも、警察官としての責務が、そしてこの狂気の現場で真実を確かめなければならないという強迫観念が、ケインの足を前へと押し動かしていた。

診察室。処置室。入院病棟。

ライトの光芒が暗闇を照らし出すたび、ケインの絶望は深く塗りつぶされていった。

生存者など、最初から存在しなかったのだ。


「……くそっ……なんだってこんな場所で……」


ケインは吐き気を押し殺しながら、最後の病室を出た。

建物の中に、生きている人間はケイン一人だけだった。

外へ戻ろう。この異常な空間から一刻も早く抜け出し、本部の到着を待つべきだ。

ケインが血に濡れた廊下を通り、待合室の玄関へと戻った時、雨音の中に新たなエンジン音が混じっていることに気づいた。

砂利を踏みしめるタイヤの音。ドアが閉まる硬質な音。

玄関の半開きになった自動ドアから、雨の匂いと共に二人の男が足を踏み入れてきた。


一人目の男を見て、ケインは銃口を下げた。

ガリア共和国警察の重装甲に身を包んだ、大柄な男。太い首に、削りだした岩のような厳めしい顔つき。両肩には特殊戦術部隊のワッペンが刺繍されている。

圧倒的な場慣れ感。修羅場を幾度も潜り抜けてきた本物の「プロの兵士」の匂い。


問題は、その隣に立つ二人目の男だった。

彼は警察の制服も、防弾ベストも着ていなかった。

高級な仕立てであることが一目でわかる、漆黒のダブルのチェスターコート。雨に濡れることすら拒むように、完璧に整えられたブロンドの髪。細身の体に、透きとおるような白い肌。そして、すべてを見下すような冷ややかな青い瞳。

警官どころか、現場の凄惨な血の臭いとはおよそ不釣り合いな、あまりにも浮いた存在の優男。

その口元には、この地獄絵図を前にしてなお、不快な笑みが浮かべられていた。


「いやはや……なんとも酷い匂いだ。田舎者のネズミが腐った匂いが空気に混じっている」


優男はポケットからシルクのハンカチを取り出すと、鼻元を優雅に覆いながら言った。


「……何者だ」


ケインは警戒を解かず、低い声で問いかけた。


「応援にしては早すぎる。それに、その私服の男は誰だ?」


ショットガンを持った大柄な男、ジャックス・バーンズが、ケインのネームプレートに視線を落とした。


「お前がワカバ巡査か。通信を聞いて、『たまたま』近くの国道から急行した。俺は市警特殊班のジャックスだ」


ジャックスの声は重く、低かった。


「……災難だったな。良い奴だったんだろう?」


「答えになっていません。その隣の男は?」


ケインが優男を睨みつけると、優男はハンカチを折りたたみ、薄い唇を歪めた。


「自己紹介が遅れたね、新人君」


優男は胸ポケットから一枚の身分証を取り出し、ケインの目の前に提示してみせた。そこにはガリア政府直属の特殊機関の紋章と、魔導規制局・特務調査官:ルシアン・ヴァレンタインの名が刻まれていた。


「見ての通り、君たちの雇い主の上級組織から派遣された人間さ。……ふむ、君が一人でこの『検体』を処理したのかい?すごいねえ。案外、田舎者も、捨てたものではないね」


ルシアンは倒れている異形の死体へ近づくと、革靴の先で無造作に男の顔を突いた。


「やめろ!」


ケインは思わず叫んだ。


「そいつは感染者だ! 触るな!」


「いやね、見りゃあ分かるよ」


ルシアンは意に介さず、冷ややかな瞳で死体を観察している。


「だからこそ私がここにいる。……滅菌から10年。王都の遺産が、なぜこんな辺境の診療所で発芽したのか。それを調べるためにね」


その時、ケインの腰の無線機が鳴り響いた。


『……ケイン・ワカバ巡査、聞こえるか』


スピーカーから流れてきたのは、普段のオペレーターではない、重々しい高官の声だった。


「ワカバ巡査です。指示を」


『ルシアン特務調査官、およびジャックス巡査部長の指示に従え。権限は、これより魔導規制局へと移管される』


ケインは目を見開いた。


「は?……待ってください! 現場は凄惨を極めています。生存者はゼロ、ドノヴァン先輩も……」


『知っている』


高官の声には、血の通った温もりが一切なかった。


『その診療所の地下には、旧王都系の未登録研究ブロックが存在する。感染の発生源はそこだ』


「地下……未登録研究ブロック!?」


『ワカバ巡査、および現場の二人。直ちに地下へと潜入し、ウイルスの漏洩源を特定、および、VLTの回収、または処分を実行せよ』


ケインの背筋に、氷のような寒気が走った。

この血と肉片にまみれた地獄のさらに下に、この惨劇を生み出した狂気の根源が眠っているというのか。

ルシアンは満足げに鼻で笑うと、コートの懐から洗練された黒塗りの小型サプレッサー付きピストルを取り出した。


「新人君。お仕事の時間だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。