5 杖を作るぞ!
十二月二十三日。
今日は、パパは朝からお仕事。朝ごはんを食べて、歯を磨いて、ママとキスをしてから大急ぎで家を出て行った。
「さ、杏。今日は杖を作るわよ」
ママは、白いエプロンのポケットから自分の杖を出した。
新しい鉛筆くらいの長さの小さな杖。オレンジ色でつやつや光っている。こんなに小さいから日本にいた時には見かけなかったのかな?
ママの杖を見たエマが「エマも作る!」と言って、ぴょんぴょんとはねた。
ママと私とエマは、家の横のガレージに移動する。
ガレージには、大きな作業台があって、のこぎりだとかトンカチだとかが壁に掛けられていた。
「この中から、好きな枝を選んでね」
ガレージの隅に白いジャカランダの枝がいっぱい積んであった。ママの話によると、乾燥させるのにおばあちゃんが切った枝をよけておいてくれたんだって。
エマが手前にあった一番小さい枝を拾った。私はどれがいいのか悩んでしまう。
「選び方のコツとかないの?」
「そうねぇ……コツは気に入る枝を選ぶことかな。一番大切なのは、選んだ枝を大好きになることなの。ゆっくり選んでいいのよ」
横にいるエマは、もうすっかり自分が選んだ枝が気に入ったのか、枝を振って見えない何かと戦っている。
「分かった。じっくり選んでみるね」
私はコンクリートの床に腰を下ろして、枝を一本一本品定めした。
細い枝は軽いけど、なんだか落ち着かない。
大きな枝は持つだけでも一苦労だ。
枝を持ってはよけ、持ってはよけを繰り返していると、ガレージの一番隅に一番真っ白な枝があることに気がついた。大きさも小さすぎず、大きすぎない、私にピッタリの大きさだ。
「これだ! これがいい!」
私が枝を決めるとママがパンと手を叩いた。
「じゃあ決まりね。木の皮を剥ぐのは危ないから、ママがやってあげるわね」
ママが私とエマの枝を受け取り、作業台に乗せる。
エプロンのポケットから自分の杖を取り出して、枝に向かって鋭く杖を振った。
するとシュッと音がして、作業台の上の枝が一瞬はねる。ふわっと枝の皮が剥がれて、中から白くて細い木材が出てきた。
「ママすごい!」
私もエマも自分の枝を手に取って驚く。ママの魔法は初めて見た。
「さぁ、ここからは自分たちでやるのよ」
ママが私とエマにギザギザのでこぼこがついた金属の棒を手渡す。棒やすりって言うんだって。それで枝を削って好きな形にするのだ。
私とエマは時間を忘れて作業に夢中になった。
エマは、がっと削っては休み、またがっと削る。
私は時々手で撫でてみて、引っかかるところがないように隅々まで削った。
棒やすりの次は紙やすりだ。
紙やすりは茶色くて硬い紙に灰色のざらざらした塗料が塗ってある紙だ。これで擦るともっとつるつるになるんだって。
必死になって削っていくと、私の枝はもうすっかり杖の形になってきた。
長さは私の手首から肘の長さと同じくらい。形は太鼓をたたくばちに似ている。細さは人差し指と同じくらいだ。
「二人ともいい感じね。最後に塗料を塗って完成よ。あ、塗料って言うのは、木を雨や傷から守るための絵の具みたいなものよ」
ママは色々な種類の塗料が入った大きな箱を持ってきて、床に置いた。
つんと鼻を刺すような臭いがして、私もエマも鼻をふさぐ。とてもじゃないが、この匂いは耐えられない。
「あら、こっちは苦手かしら。なら水性のもあるわよ」
ママは臭い箱をしまって、今度は別の箱を出してきた。
箱を開けると、中には黒い蓋のついたガラスの瓶がぎっしりと詰まっていた。この箱は全然臭くない。試しに一つ出してみると、瓶の中にはマヨネーズみたいな色のとろりとした液体が入っていた。ラベルには杖の絵と英語の文字で『Wand Colour《杖の色》』と書かれている。
「ピンクもある!」
エマはピンク色の液体が入った瓶を見つけて大喜びだ。
私は何色にしようか、また悩んでしまう。
「ママ、白はないの?」
「あるわよ。ほら、これとこれと」
ママは、白い液体が入った瓶を箱から出して、コンクリートの床に並べる。
一口に白といってもいくつか種類があるみたい。
ママが箱から出したのは、アイボリー、オリーブグレー、グレイッシュグリーン、スモーキーラベンダー、バンブーベージュ、ホワイトの六種類。私は種類の多さに頭を抱えた。
ママはそんな私を見て、ふふっと笑う。
「ゆっくり悩んでね。杏の杖だから」
ママはそう言うと、エマの杖にエマと一緒にピンク色を塗り始めた。
どうしよう……どの白もかわいいなぁ……
どの色も塗ったらきれいなんだろうなと思うと捨てがたい。
私が悩んでいるうちに、エマの小さな杖は可愛らしい淡いピンク色に染まっていた。乾かす時間がいるらしく、エマの杖はママに没収されて、今は作業台の上に置いてある。
白い瓶を眺めていると、私はふと森の中で見たユニコーンを思い出した。あんな色ならずっと見ていたい気がした。
「決めた」
私が結局選んだのは、ホワイトだった。
これが森で見たユニコーンに一番そっくりな色だからだ。
銀の器にママが瓶の中の液体を出してくれた。
私はそれを筆で丁寧に塗り重ねていく。
「できた!」
真っ白な杖。木目の模様が見えて、そこも素敵だと自分で思えた。
お気に入りの世界に一本だけの、私の杖の完成だ!




