3 ニュージーランドへ行くことになりました
寝間着のまま一階のリビングへ下りていくとママがパパと話をしていた。
五歳の妹のエマがあっけに取られているみたいで、トーストに乗った目玉焼きの黄身がぽたぽたと皿に滴っている。
「ね! だから、急いで準備しないと」
「……そうだね。またいつ勝手に魔法を使ってしまうか分からないなら、早く魔法学校で勉強して、使い方を身に着けたほうがいいか」
は? 魔法学校?
「ねぇ! 魔法学校ってなに!?」
パパとママが私の声で振り返った。
パパは屈んで、私と目を合わせる。
「杏、ママから話は聞いたよ。昨日の夜、自分では気がつかないうちに魔法を使ったそうじゃないか」
「昨日の不思議な夢は、魔法だったってこと!?」
ママが頷いて、にっこり笑ってくれた。
「魔女や魔法使いになったばかりの子供は、まだ自分の魔力を自分で操るのが難しいの。だから寝ぼけている間に使ってしまったりしちゃうのよ。杏もきっと魔法生物の住む遠い森に昨日は飛んでしまったのよ」
そう言うことだったのですね、ママ。
パパがママの言葉をつなぐ。
「だから杏も魔法学校に入って、魔力を操るやり方を勉強しないといけないって話してたところだったんだよ」
なんとなくだけど、パパとママの話は分かった。昨日みたいに突然知らない場所にいたら、危ないかもしれないもんね。
たぶん昨日の漢字テストも同じなんだろうけど、それは内緒だ!
「分かった。それで、魔法学校ってどこにあるの?」
できれば近所にあるとありがたい。小学校の友達と離れるのは、やっぱり寂しいから。
「ニュージーランドよ」
「え?」
ママの口から出た言葉に、私は自分の耳を疑った。
「今が十一月だから、急いで準備をすれば一月の入学に間に合うわ。パパのお仕事もニュージーランドへの転勤希望を出してもらって、家族で引っ越しましょう」
食卓であんぐり口を開けていたエマが持っていたトーストを皿に落とした。
そこからは、本当にあっという間だった。
パパかママかは分からないけど、すぐに私が通っている小学校に電話したみたいで、月曜日に学校に行くともうクラスメイトはお別れモード一色だった。
クラスメイトは、「ニュージーランドに行っても元気でね」とか「オンラインでまた一緒にゲームしようね」とか言ってくれたけど、私の気持ちは置いてけぼりだ。
皆毎日、いつも以上に私に優しくしてくれたし、お手紙やプレゼントもたくさんもらった。
でも、そんなのちっとも嬉しくない。私はもっともっと皆と遊んで、この学校で卒業式をしたかった。
「杏、いつまでもすねないの。仕方がないでしょ」
飛行機の角の丸い窓から、ふわふわの雲と離れていく日本を見ていると隣のママがそう言った。
私はふんと鼻で息を吐いた。
ママとパパの言い分も分かるよ。
私のために日本での生活とかお仕事とか、なんとかしてくれたんだよね。
分かっていても、私の胸のもやもやは晴れないんだもん。
ふと家族が座っている席を見る。
私の隣の黒いシートにはママが座り、その隣の妹は飛行機のお姉さんにもらったぬいぐるみにすっかり夢中だ。茶色いふわふわで嘴が長い鳥のぬいぐるみ……こんな鳥、日本にはいない。
パパは飛行機の通路を挟んだ隣の席に座って、英語の文字がびっしり書かれた新聞を読んでいた。
ママの話によると、ママは生まれも育ちもニュージーランドで、魔法学校で勉強した魔女だ。
パパとは、パパがニュージーランドにお仕事に行っていた時に知り合って結婚したんだって。だからパパは、ママが魔女なのも知ってたし、英語だってペラペラなんだって。
ママもパパもエマも、私と違う世界の人みたい。
隣に座っている家族がなんだか遠く感じた。
読んでいただき、ありがとうございます!
一話に漢字テストのシーンを一つ書き足しましたm(_ _)m
ご報告でした!




