2 ママは魔女!?
「なんでラグが土だらけなの!?」
「そんなの知らないよ!」
とは言ったものの、思い当たる節はある。
昨日見た夢のことだ。あれがもし夢じゃなかったとしたら……いや、そんなことあるはずない。
うちのママは、怒ったらとにかく迫力がすごい。
ママは、日本人のおばあちゃんとニュージーランド人のおじいちゃんの間に生まれたハーフだから、普通の人より目がぎょろっとして大きいのだ。
でもこのまま何も言わなかったら、ママは「ラグのお洗濯は大変なのよ!」とか「どうして夜中に土をつけるようなことがあるの!」とか、まくし立ててきそうで怖い。いっそのこと、昨日の夢の話をしてしまおうか。
「ママ、落ち着いて聞いて欲しいんだけど、実は昨日変な夢を見たの……」
「変な夢?」
ママは意外にも私の話に乗ってきた。
私の横。ベッドに腰掛けて、いつになく真剣な顔をしている。
私は昨日夢で見た出来事をママに包み隠さず話して聞かせた。
「――それで、パンパン!っておっきな音がして、こわくなって、夢なら覚めて!って思ったら、ベッドの上に座ってたの」
ママは、口を手で押さえて、大きな目が飛び出すんじゃないかってくらい見開いた。
「え……一回整理させて。寝たはずなのに、気がついたら知らない森にいたのね?」
「うん」
「それで、ユニコーンを見たのね?」
「うん」
「その後、森で緑の光が光って」
「だから、そうだって言ってるじゃん!」
「あぁ、杏。おめでとう!」
ママは、なんでか分からないけど私をぎゅっと抱きしめた。
私は、何が何だかさっぱりだ。
「もう、ママ! 何か知ってるなら教えて!」
「あ、ごめんなさい、杏。嬉しかったからつい」
ママは私を放して、潤んだ目を手で擦った。
「杏、あなたは魔女になったのよ」
「……はい?」
冗談きついぜ、ママ。
どこかで頭でも打ったのかな。
「その顔、信じてないわね」
「うん」
信じろという方が無理がある。
ママは、ぽんと自分の胸を叩いた。
「ママも魔女なのよ」
私はママの思いがけない告白に頭が真っ白になった。
ベッドのヘッドボードに乗っている目覚まし時計の針の音だけが部屋に響いていた。
「……あぁ、それって外の景色が見える四角い」
「それは、窓」
「じゃああれだ! 驚くときにギャルが言う」
「それは、本気でしょう。魔女よ、ま・じょ!」
私はめまいがして、頭を押さえた。
「え、魔女って、箒に乗って空飛んだり?」
「懐かしいわ。私も子供のころはよく友達と箒に乗って出かけたわ」
「なんか動物とか肩に乗せて歩いちゃったり?」
「うーん。フクロウなら乗せたことがあるわね」
間違いない……ママは、私が物語の世界で読んだ魔女そのもののようだ。
「す、すごいよ、ママ! どうしてもっと早く教えてくれなかったの!?」
「もう少し大きくなったら話そうと思ってたのよ。それより杏、早くパパにもこのことを話して、留学の準備を始めないと! 善は急げだわ!」
「え? 留学?」
「あなたー!」
私の疑問に答えずに、ママは部屋を飛び出していった。
どたどたと階段を下りる音がする。
ところで留学って、なに?




