1 魔法が使えちゃった!?
「森杏さん! これは、どういうことですか!?」
四年三組の教室に先生の驚きの声が響き渡った。
どうしてこんなことになったかというと、時間を少しさかのぼらないといけない。
朝のホームルーム。
今日は昨日やった漢字テストのテスト返しがあったのだ。
担任の先生が出席番号順にテストを返していくので、教壇に向かって一列に皆並ぶ。テストを返された子たちは、飛び上がって喜んでみたり、がっくりと肩を落としてみたりと反応は人それぞれ違う。
私は、それを列の後ろの方でそわそわしながら待っていた。
今回は、特に自信がなかったのだ。
出席番号が一つ前の前田さんがテストを受け取る。ぴょんぴょんはねたのを見て、私の不安はもっと大きくなった。
あぁもう! 私のテストも前田さんみたいだったら良かったのに!
そう強く念じてから回ってきた、私の順番。
先生は大きく目を見開いて、さっきの言葉を言ったのだ。
「森杏さん! これは、どういうことですか!?」
私は訳も分からず、びくんとその場から動けなくなった。
先生は信じられないとでも言いたげに、目をこすってから私にテストを渡す。
そこには、百点満点、花丸の漢字テストがあった。
でも、これは私もおかしいと分かる。
だって昨日のテストで、私は半分は答えが分からなくて、白いままでテストが終わったのだから。
「私が丸付けした時は、こんな点数じゃありませんでした。森さん、何かしましたか?」
先生の言葉は、責めたり叱ったりといった感じではない。ただ、信じられないことが起こって、その答えを探したいといった言い方だった。
だけど、私にも理由なんか分かるはずがない。
「……分かりません」
私と先生が困っているのを見て、前田さんが私のテストを覗いた。
「え? 森さん、私と一緒」
前田さんは、そう言って自分のテストを私のテストの横に並べた。
それを見た私はヒュっと息を飲んだ。
全問正解の百点満点も一緒。
先生の書いた花丸まで一緒。
解答欄に書かれた漢字の形まで、そっくりそのまま一緒だったのだ。
これじゃあまるで、スマホでパシャっと写真を撮ったみたい。
「まさかカンニング? でも、丸付けした時は、三十点だったし……」などという先生のひとりごとは、右耳から左耳に聞き流した。
「とにかく先生! これでいいじゃないですか!」
私は先生にテストを奪われないように抱え込んで、さっさと自分の席に座った。他のクラスメイトの目が気になったが悩んでも仕方ない。このテストを無事に持ちかえれば、ママの雷が落ちることはないだろう。
先生は、腑に落ちないという顔をしていたが、「仕事のしすぎかしら」と首を傾げるだけで済んだ。それ以上何か怒られたりはしなかった。
その日の夜、私はいつもよりずっと眠くて、普通より早くベッドに入った。
だけどほっぺたをさわやかな風が撫でて、ぱっと目を開けた。
深い森――私の背の何倍大きいのか分からないくらい、背が高くて幹の太い木が何本も生えている。
私が通っている小学校の校庭に生えている木も大きいけど、ここのはその倍はありそうだ。
木々の隙間からは、無数の星と大きな月が見えて、夜なのに森は明るい。
「ここ、どこ?」
私は、頭をひねって考えた。
思い出せるのは、いつもと同じように晩ごはんを食べて、お風呂に入って、ベッドに入ったことだけだ。
「そっか、夢だ!」
夢だと思うと、見知らぬ場所も急に楽しく感じられた。
まるで物語の世界にでも入ったみたい!
私はスキップしながら、森の中を探検した。
青白く光るキノコに、ピンク色に光る蛍。
この色を見るだけで自然と心が躍った。
一番大きな木を曲がった先。
小さな泉の水を飲んでいる生き物を見つけて、私の足はぴたりと止まった。
「え!ユニコーン!?」
真っ白な体に銀色の長いたてがみ。
額には透明でキラキラした、まるでガラス細工みたいな角が一本生えていた。
私が大きな声を出したから、ユニコーンはさっと頭をあげた。
じっと私の顔を見てから、泉の中を歩いて私に近づいてきた。
「きれい……」
私は、そのきれいな生き物からすっかり目が離せなくなってしまった。
目の前まで近づいてきたユニコーンにそっと手を伸ばすと、ユニコーンは私の手に顔をすり寄せた。
温かい。本当に生きてるみたい。
そう思った時――パン、と大きな音が鳴った。
ユニコーンの後ろの森で緑の光が花火みたいにはじけた。
「なに!?」
驚く私をよそにユニコーンが私の寝間着のえりをくわえて引っ張る。
ユニコーンは、私を木の根元の穴に鼻先で押し込むように座らせると走っていってしまった。
とたん、パン、パンと続けざまにさっきと同じ音がした。
何が起こっているの?
心臓がどくどくと早くなる。
私は、ここにきて、初めて怖くなった。
もう! 夢ならもういいよ! 早く覚めて!
ぎゅっと目をつぶって、そう念じるとお尻の下の感触が急に覚えのある柔らかさに変わる。
そっと目を開けて、驚いた。自分の部屋だ。
私は自分のベッドの上に腰かけていた。
きょろきょろと辺りを見渡すが、部屋の中にいつもと違った様子はない。
「……変な夢」
私は、パタンと体を倒して、そのままもう一回寝た。
* * *
「あーーん!! おきなさーーい!!」
ママの鬼みたいな声で、私は目覚めた。
今日は土曜日だからたっぷり寝坊しようと思ったのに……
「もう、ママ、うるさいよ」
「早く起きなさい! これはいったいどういうことなの!?」
目をこすりながら起きて、ママが指さす先を見る。
ベッドの足もと。お気に入りのピンクのラグにくっきりと土の足あとがついていた。




