16 森の中のジャックの家
ジャックの家は、十分と歩かない森の中にあった。
大きな丸太を組んだログハウスのような家で、どこか可愛らしい。
私について来てしまったユニコーンに、ジャックが桶に水を入れて飲ませてくれた。
「入ってくれ。今、お茶とクッキーでも出そう」
ジャックの案内で家の中に入る。
私たちはジャックに示された木の長椅子に三人並んで座った。
この家にはタマちゃんサイズの足の長い椅子がないので、タマちゃんは私の膝の上に座る。
「どうぞ。口に合うといいんだが」
ジャックは、奥のキッチンから皆の分の紅茶とクッキーをテーブルに並べた。
「このクッキー……もしかして、ジャックの手作りですか?」
メイジーだ。
クッキーをまるで黄金のメダルのように、うっとりと見つめている。
ジャックが「そうだ」と答えるとメイジーはクッキーをハンカチに包んで制服のポケットにしまおうとしたので、私とオリバーが止めた。
「ジャックさんは、アイドルなのにどうしてこんな森の奥に住んでいるんですか?」
アイドルだから、てっきり大都会の高層マンションとかに住んでるんだと思ってたよ。
「実はこの森は、俺の一族が代々守ってる森なんだ。アイドルより森の管理の方が本業といってもいいかもしれない。森を整備したり、魔法生物たちを密猟団から守ることをしているんだ」
「え! そうだったんですね! ……じゃあ、なんでアイドルに?」
質問したのはメイジーだ。
「姉がいるんだけど、大のアイドルオタクなんだ。勝手に履歴書を送られてな」
ジャックは肩をすくめながら、紅茶を飲んだ。
「さすが、ジャックのお姉さま。先見の明があります!」とメイジーはポケットから取り出したメモ帳に勝手にメモを始めた。
「あのアーク団っていうのは、なんなんですか?」
オリバーがぼりぼりとクッキーをこぼしながら聞く。
「アーク団っていうのは、ここ最近この森に出るようになったやつらなんだ。最初は、俺の家を訪ねてきて、『魔法動物の保護に協力してほしい』と言ってきてな」
「保護……でも、ユニコーンは嫌がってました」
「あぁ、そうなんだ。だから俺もアーク団のやり方には反対なんだ。魔法生物たちは、本来の住処で暮らすのが一番だと俺も考えている。だから、アーク団とは、それ以来もめてるんだ」
そういうことだったのか。だからジャックは一人でアーク団と戦っていたんだね。
「俺からも聞いていいか?」とジャックが言葉を繋ぐ。
私たちは、ジャックの言葉に頷いた。
「どうして君たちは、森の中に助けに来たんだ? この辺が学校から近いっていうのは分かっているけど、空から箒で飛んでいるだけでは見つけられないと思う」
ジャックの言葉に私たちは顔を見合わせた。
タマちゃんを見ると、「話しても問題ないだろう」というので、私はユニコーンの声が聞こえて、助けに向かった話をジャックに聞かせた。
「君は、魔獣語りなんだね」
「何ですか? それ」
「魔法動物の声が聞こえたり、心を通わせやすい人のことを魔獣語りって言うんだ。うちの先祖にも昔いたと聞いたことがある。すごく珍しんだ」
「魔獣語り……」
「普通、魔法動物は人に懐いたりしないからね。ユニコーンが君にぴったりくっつくことはすごいことなんだよ」
ジャックが視線を窓へ送る。窓の外には、さっき助けたユニコーンが窓の外から部屋の中を覗いていた。
「もし良ければなんだけど、またたまに遊びに来てくれないか」
「え、いいんですか!?」
メイジーは椅子からぴょんぴょんとおしりを浮かせた。
「もちろんだ。というか、こっちからお願いしたい。たまに魔法動物たちが揉めたりして、俺だけだと手に負えないことがあるんだ。手伝ってくれると助かる」
「もちろんです! ぜひ、お手伝いさせてください!」
メイジーが勝手に答えたので、私とオリバーが顔を見合わせた。
「君たちも来てくれるかい? 魔獣語りの力も魔道具の力もあるとありがたい」
「仕方がないですね。そこまで言われたら断れません」
オリバーはちらちらとタマちゃんを見ながら答えた。タマちゃんの活躍を見たいって、また思ってるのかも……
「私もお手伝いします!」
魔法学校に入って、初めて私の特技を見つけられたのだ。この特技を磨くためには、これ以上の場所はないだろう。
「三人とも、ありがとう」
ジャックはきれいな顔をくしゃっとして笑った。
ジャックの笑顔にメイジーがくらっとして倒れそうになったのは、言うまでもない……
* * *
「どうしよう! 結局何も対策できなかった!」
迎えたマラソンテスト当日。
私は、教室の中で右往左往していた。
だって、回復魔法も魔獣語りの能力もマラソンでは何の役にも立たないんだから。
「まぁまぁ、杏。落ち着けって。別に試験は今回だけじゃない」
そう言うオリバーは、スニーカーから謎の羽が生えたブーツにはき替えていた。
「もう、いいよね、オリバーとメイジーは。なんとかなりそうなんだから」
私は二人をじっとりした目で見た。
メイジーは、エイデンほどじゃないけどクイックがそれなりに使えるし、オリバーは魔道具を装備して、準備万端だ。
私は、普通に走るしかできないんだから、きっとビリに決まってる。
「さぁ、Year 5の皆さん。試験の説明をしますので、校庭に出てください」
ブラウン先生の声で、皆ぞろぞろと移動を始める。
メイジーとオリバーは、私の肩をとんとんと叩いて励ましてくれたが、私の肩は下がったままだった。




