14 アーク団
「ジャックが密猟者ってこと?」
「そんなことあるはずないわ!」
私の言葉に、メイジーはすぐに反論した。
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて。ジャックの正体をここで判断するには、あまりにも情報不足だ。追いかけてみようぜ」
オリバーがぽんぽんと私とメイジーの肩を叩いた。「そうですよね? タマさん」とも付け足す。
「オリバーの言う通りだ。追いかけてみよう」
タマちゃんの言葉に、メイジーは私の手を引っ張って、私を立たせた。
「でも、どうやって追いかけるの? ジャック、もう見えなくなっちゃったよ?」
私たちは隠れていたところから出て、あたりを見渡したが、もうジャックの姿は見えなかった。
「僕に任せて! こんな時こそ、これの出番だ!」
オリバーが制服のポケットから出したのは、入学初日に見せてくれたオリバー特製のコンパスだった。
「えっと……何ができるコンパスだっけ?」
「魔力コンパス改良型二号だ。近くで魔法を使うと、その方向に針が振れるんだ。さっきジャックは魔法を使っていたから、この方向に進めば追いつける。たぶんね」
オリバーの手の中で魔力コンパスは、ある一方向を指し示していた。
「追いかけよう」
私の言葉に皆が頷いた。
オリバーのコンパスを頼りに森をどんどん進んでいくと、パンパンという音が聞こえて、私たちは姿勢を低くした。
タマちゃんがふんふんと鼻を鳴らす。
「近くで戦闘が発生しているみたいだ」
タマちゃんの言葉に、皆ぎゅっと体に力が入った。
『だれか……助けて』
「タマちゃん、また声が聞こえた。『助けて』って言ってる」
私の言葉にタマちゃんは唸った。
「気がつかれないように、こっそり近づいてみよう。何かあれば俺様が戦う。おこちゃまたちは、隠れてるんだぞ。いいな」
皆で頷き合う。タマちゃんを先頭に、全員がしゃがみながら木の陰を選んで進んだ。
「あなたは、本当にしつこい人ですね、ジャック」
女の人の声だ!
私たちは、前の茂みの葉っぱを手でよけながら、声のした方を見た。
水色の綺麗な泉。その前には苦しそうに膝をつくジャックがいて、メイジーが飛び出しそうになった。それを私とオリバーで必死に押さえる。
「お前たちアーク団の好きにはさせないぞ。ヴェロニカ」
ジャックの言葉に、私はヴェロニカと呼ばれたお姉さんを見た。
ジャックと泉を挟んで反対側。
真っ黒なミニスカートのドレスに膝上までくる長いブーツ。
バラのような真っ赤な長い髪を三つ編みにして前に垂らし、頭には黒いつば広の三角帽子。顔には目元を隠す黒い羽のマスクをしている。
ヴェロニカの赤い口紅を塗った唇がにやりと嫌な笑みを浮かべた。
「あれ、見て!」
オリバーが小声で指さす。ヴェロニカの横には、檻に入った真っ白なユニコーンがいたのだ。
「あのユニコーン!」
「知ってるのか?」
タマちゃんの声に私は頷く。
私は掻い摘んで、日本にいた時、夜に知らない森に飛んで、ユニコーンと出会った話を皆にした。
「杏は、魔法動物と親和性が高いのかもしれない。だから、今回も杏だけに声が聞こえたのかもしれないな」
「じゃあ、助けを呼んでたのって」
「あぁ、あのユニコーンに違いない」
そんなことを話しているうちに、ジャックとヴェロニカの方にも動きがあった。
「あなたとは、いくら語り合っても分かり合えないようですね」
ヴェロニカが赤い杖を振ると、地面から棘の生えたツタがまるで生き物のようににょろにょろと生えてきた。
「さようなら、ジャック。『ソーン』」
「ジャック!!」
棘の生えたツタが一直線にジャックへ向かって伸びる。
「アクア!」
私とオリバーの制止を振り切って飛び出したのは、メイジーだった。
泉の水から、水の刃が飛び、ヴェロニカのツタを切り落とした。
「行くぞ、杏」
「オッケー、オリバー!」
オリバーと私も杖を抜いて、メイジーの横に立つ。タマちゃんは、やれやれとでも言わんばかりにため息を吐いてから、私たちの前に立った。
「き、君たちは」
ポカンと口を開けているのはジャックだ。
「説明は後です。あの人から、ユニコーンを取り返せばいいんですよね?」
「……そうだ」
ジャックはふらつく足取りで立ち上がった。
腕にけがをしているのか、片方の手でぎゅっと腕を押さえている。
私はすぐにジャックに腕に『ヒール』を使った。明るいミントグリーンの光がジャックを包み、ジャックは怪我した方の腕をぐるぐると動かす。
「ありがとう。痛みが引いたよ」
やった! 成功だ!
私は、初めて自分の魔法がまともに使えたことを実感して、胸が熱くなった。
「どうしてこんなところに子供がいるのかしら。困ったわ」
ヴェロニカは、手を頬に当てた。
「どうして、ユニコーンを捕まえるんですか」
よく見るとユニコーンは足にけがをしているみたい。
あの人がやったとしたら、絶対に許せない!
「捕まえているんじゃないのよ。保護しているの」
「保護?」
ヴェロニカはにっこりと微笑んだ。
「えぇ、そうよ。では、未来の仲間になるかもしれない子供たちに、わたくしたちの活動をご説明いたしましょう」
ヴェロニカの声で、木の陰から五人の男たちが出てきた。どいつもこいつもヴェロニカと同じように黒い羽の仮面をつけている。
「我らはアーク団。失われゆく魔法動物たちを守る者」
ヴェロニカの声に合わせて、他のアーク団がポーズをとる。
「魔法動物を保護することが、私たちの使命。そのためなら、どんな犠牲もいとわない」
正義の味方とでも言いたいの?
でも、檻の中のあの子は、私に助けを求めてる。
「魔法動物たちは、皆貴重な生き物なの。だから、数が少なくなったりしないように、私たちが管理する必要があるの」
周りの男たちがヴェロニカの言葉にうんうんと頷く。この人たちは、自分たちの考えが正しいって信じてるんだ。
「でも、その子は嫌がってる。私には、その子の『助けて』って声がはっきりと聞こえた!」
私はぎゅっと自分の杖を握り直した。
「その子を解放しなさい! 間違ってるのは、あなたたちの方だよ!」




