13 森は危険!?
その後何日もエイデンは、ことあるごとに私に絡んできた。
「そんなこともできないのか」とか
「親の七光りだな」とか……
親の七光りって、なに?
「最近エイデンのやつ、やたらと杏に絡んでくるよな」
オリバーだ。
「ほんとそれ。もしかして、あいつ、杏に気があるんじゃ」
「メイジー、冗談でもやめてよ。笑えない」
帰りのホームルーム前。オリバーとメイジーが心配してくれたのか、声をかけてくれた。
「実際のところ、最近のエイデン、なんか変だよ。前から鼻につくとは思ってたけど、誰かに嫌なこと言うようなやつじゃなかったんだ」
オリバーは、そう冷静に分析した。
私は、私が入学する前のエイデンがどんなだったかを知らないから、なんともいえない。
「もういい。エイデンのことは気にしないことにするよ」
私には、向いている魔法を見つけるっていう、もっと大きな悩みがあるからね。
「はーい、皆さん座ってください」
ブラウン先生が教室に入ってきて、立ち上がっていた生徒も皆席に座った。
「さようならの挨拶をする前に一つ連絡があります」
連絡? 珍しいな。
「学校の近くの森に魔法生物の密猟者が出たという連絡が学校にありました」
「密猟者ってなに?」
私は小声で机の上のタマちゃんに聞いた。
「密猟者っていうのは、違法に魔法動物を捕まえるやつらのことだ。魔法動物を売ったり、毛や羽をむしって、悪い薬の材料にしたりとか……そんなやつらだよ」
私はタマちゃんの言葉に息を飲んだ。
「下校の時は、できるだけ一人にならないこと。あと、森には絶対に近づかない。いいですね」
先生の真剣な言葉に皆こくりと頷いた。
帰りのホームルームが終わると生徒たちは我先にと教室から飛び出していった。
「杏、今日は皆で帰ろう。私もオリバーもオークランドに住んでるから」
メイジーは、やっぱり優しい。
オリバーもメイジーの言葉に頷いてくれた。
「ありがとう、二人とも」
生徒玄関前で自分の箒に跨る。
相変わらず、私の箒の操縦はタマちゃん任せだ。
「何度見ても、タマさんが箒に跨るのって不思議だよな」
オリバーはタマちゃんのことをなぜかタマさんと呼ぶ。
「私がうまく箒に乗れないの。タマちゃん、さまさまだよ」
タマちゃんは私の言葉にゆったりと尻尾を振った。
「おこちゃまたち、ついてこい。俺様が安全に街まで送り届けてやろう」
タマちゃんの箒を先頭にオリバーとメイジーが続く。
足元には、広い森が広がっている。
この森のどこかに、魔法動物を捕まえる悪い人たちが潜んでるの?
オークランドの街までは、まだまだ遠い。
私は不気味な思いで森を眺めていた。
『だれか……助けて』
「なに!?」
私は急に聞こえた声に、きょろきょろと辺りを見渡した。
「どうかしたの? 杏」
メイジーが箒で私に並ぶ。
「メイジー聞こえなかった? 今、助けてって声がしたよね?」
「え? 聞こえなかったよ。ね、オリバーは、聞こえた?」
オリバーも「聞こえなかった」と首を振って、私の横に並ぶ。
「空耳じゃないか?」
『だれか……早く、助けて』
「ほら、また聞こえた!」
だけど、メイジーもオリバーも聞こえないみたいで首を傾げるだけだ。
「タマちゃんは聞こえたよね?」
「いいや、聞こえない。でも、そう何度も聞こえるとなると空耳とは言い難いかもな」
「さすが、タマさん! 勉強になります!」
タマちゃんの意見にオリバーが目を輝かせた。
「あそこ……あの大きな木の近くで、私を呼んでいる気がする」
なぜかは分からないけど、お腹の中がムズムズして、そんな感じがするのだ。
「タマちゃん、あそこに向かって。助けないと!」
「杏、落ち着いて、先生は森に入っちゃダメって言ってたよ。ねぇ、オリバーからも何とか言って」
メイジーは私を引き留めようと話をオリバーに振った。
「いやでも、僕たちにはタマさんがついてる。僕はタマさんの活躍を見たい!」
オリバーの目には、もうタマちゃんしか写ってないみたい。
「タマちゃん、お願い! 困っている人がいるなら、ほうっておけないよ!」
タマちゃんは、腕を組んでしばらく悩んでから頷いた。
「分かった。見に行ってみよう。ただし危険だと判断したら、すぐに学校へ戻って報告する。いいな」
「うん、それでいいよ! 早く行こう!」
タマちゃんは私の言葉で箒の高度を下げ始めた。
もちろんオリバーも迷わずついてくる。
メイジーだけ、箒でぐるぐる飛んで悩んでから、「もう! どうなっても知らないからね!」とついてきた。
森の中へ降り立ち、私たちは大きな木の陰に身を隠した。
森の中の木は高く、昼間なのに薄暗い。
地面には青白く光るキノコ。
ピンク色に光る蛍が木の間を縫うように飛んでいる。
それにしてもこの森……なんだか見覚えがある気がする。
――とその時、シュンと音がして、目の前を青い光が飛んだ。
私たちは慌てて、その場にしゃがみこんだ。
森の中を走る足音がして、私たちは木の陰から顔だけを出した。
「あ、あれ、メイジー!」
森の中を走る人を見て、私は隣で真っ青な顔をしているメイジーの肩を掴んだ。
「う、嘘でしょ……ジャック……?」
プラチナブロンドの髪に、空色の瞳。
森の中を走っていたのは、メイジーが大好きな大人気アイドル。
ジャックだった。




