11 皆、得意不得意がある
「杏、午後の自習は、なにかやること決まってる?」
ジャックへの愛を語り終わらないメイジーの横から、助け舟を出してくれたのはオリバーだった。
しかも、タマちゃんを抱っこして戻ってきてくれた。おかげで、オリバーの英語もタマちゃんがあくびをしながら訳してくれたので、ちゃんと分かった。
「え? 午後って自習なの?」
そうだよ、と答えたのはメイジーだ。
「皆得意なことが違うから、午後からは皆得意なことを伸ばす時間にするんだよ」
「杏は、まだ得意なこと見つけてないだろ? 皆で探そうぜ」
「メイジー、オリバー……センキュー」
二人が案内してくれたのは、図工室のような大きな部屋だった。
「この教室はなんの教室?」
「ここは魔道具を作る工房なんだ」
オリバーがじゃじゃーんと手を広げる。
「工具とか材料とか、教室にあるものは何でも使っていいんだ。あと、自分で材料を準備して、持ってきてもいい」
「へぇ」
なんだかここでは、オリバーが水を得た魚のようだ。
「ちなみにこれが僕が今作ってる魔道具、魔力コンパス改良型二号だ!」
オリバーはどうも魔道具を作るのが得意ってことらしい。
オリバーは自分のポケットから金色の丸いコンパスを取り出した。
「タマちゃん、ちょっと何か魔法を使ってみて」
「ん? 『フレイム』」
タマちゃんの小さな前足の上にぼっと火の玉が浮かぶ。タマちゃんすご!
そして、オリバーのコンパスの針がタマちゃんの方へ振れた。
「この通り! 近くで魔法を使うと、その方向を指し示すんだ!」
これがなんの役に立つかは分からないけど、私には作れないから純粋にすごいと思う。
「何か簡単なものから、杏も作ってみろよ。杏にもできるかもしれない」
「お、オッケー、オリバー」
その後私は、オリバーとメイジーの指導の下、一番基礎的な魔道具の魔導ランプを作ってみた。
「さあ、最後は完成したランプに魔力を流すだけだ」
私は手の平の上に小さな丸いランプを置いて、光れ!と念じた。
フワっと一瞬光って、すぐに消える。もう一回念じると、同じようになって消えてしまった。
「ちょっと貸して」
オリバーが魔導ランプを受け取り、自分の手に乗せる。オリバーが魔力を込めるとオリバーのくせ毛がふわっと上がって、魔導ランプも明るく光り出した。
「うん。作り方が悪かったわけじゃないみたいだ」
「オリバーすごい! どうやったの?」
「普通に魔力を流しただけだよ。やり方は、さっき杏がやってたのと一緒。杏が間違ってるわけじゃないんだ。メイジー、試しにやってみて」
メイジーは、オリバーから魔導ランプを受け取り、うーんと唸る。
メイジーの時もチカチカと魔導ランプが光るだけで、オリバーみたいには光らなかった。
「魔法使いとか魔女の魔力は、人それぞれ性質が少しずつ違うと言われているんだ。だから、魔道具と相性のいい魔力を持った人が魔道具作りには向いてるんだ」
他の魔道具とかは、魔石に魔力を溜めて、魔道具にはめて使うんだって。でもそもそも魔道具と相性のいい魔力を持ってないと魔石に魔力を溜めても、上手く魔道具が動かないらしい……オリバーは、そんなようなことを説明してくれた。
「僕も今日のレッスンでやった加速魔法は苦手だっただろ? 皆、得意不得意が違うだけだから、杏も気にしないで」
オリバーは、しゅんと落ち込む私にそう言った。
「よし、じゃあ次に行こう!」
メイジーが私の背中をバシバシと叩いた。
メイジーが案内してくれたのは、校舎と校庭の間を流れる川の前だった。
「私が得意なのは、水を使った魔法なんだよ。『アクア』」
メイジーが呪文を唱えて杖を振ると、川の水がぷっかりと空に浮かぶ。
杖を動かすと、空に浮かんだ丸い水の玉が鳥の形に変化して私とオリバーの頭の上を飛び、最後には天高く舞い上がって花火のように破裂した。細かい霧になって私たちにかかり、私とオリバーはきゃっきゃと校庭を走った。
「次は杏の番だよ。やってみて」
「……オッケー」
私はメイジーがやっていたように杖を出して、流れる川に杖を向けた。
「アクア」
私がやると、ぴちゃんと少しだけ水が跳ねた。
これも私には向いてないみたい……
「ま、まだまだ! 他にも魔法はたくさんあるんだから!」
「そうだぞ、杏。こんな、二つ試しただけで落ち込むのは、まだ早い」
メイジーもオリバーも、本当にいい人たちだ。
私は、二人の励ましにうんと大きく頷いた。
結局その日の午後いっぱいを使って、たくさんの魔法を試してみた。
火の魔法に風の魔法。
氷の魔法に植物を大きくする魔法……
他にもたくさん、呪文の教科書を開いて順番に試してみたけど、どれも成功!って喜べるできじゃなかった。




