10 メイジーはアイドルオタク?
「杏、エイデンの言うことは気にしなくていいからね。あいつ、新しく入って来た杏とかタマちゃんが目立つのが気に入らないだけなのよ。たぶん」
メイジーは。唖然として動けなくなっている私に、慌ててそう言った。
「あ……うん、気にしてないよ」
まぁ、建前だけどね。でも、日本の小学校に通ってた時もクラスの全員と仲が良かったかと言われると、そんなこともないから、これは仕方がないことなんだと思う。誰だって、合う合わないってある……よね?
タマちゃんはというと、私の様子を見てから、ふんすと息を吐いた。
その後の午前の授業は特に事件もなく、あっという間にランチタイムになった。
「え、もう昼休み?」
一時間目の後の休憩も長くて、二時間目の後はすぐにランチタイムなんだって。
ランチタイムになると教室の皆は、鞄からランチボックスを出して校庭へ飛び出した。
「杏、私たちも外で食べよう」
「お、オッケー」
私とメイジーも校庭へ出る。
二人並んで校庭の大きな木の下に座る。
タマちゃんは私のすぐ隣に座り、なんでか分かんないけど、オリバーは当然のような顔をしてタマちゃんの隣に座った。
「……メイジーとオリバーは、もしかして仲がいいの?」
「そうだよ。幼馴染なの」
なるほど、私が来る前から二人はいつも一緒なのね。
しかし、オリバーのタマちゃんを見る目が気になる。
オリバーはランチボックスの中のパンを食べながら、チラチラとタマちゃんを見ている。
とうのタマちゃんは、見えないふりをしているのか、自分のランチボックスを開けて、ママ特製の卵焼きをフォークで食べた。
私も深く考えないことにしてランチボックスを開ける。中にはママが詰めてくれたサンドイッチや卵焼き、オレンジが入っていた。
私がサンドイッチを口に入れた時、校舎の方からアップテンポな音楽が流れてきて、メイジーが「きゃ!」と短い悲鳴を上げた。
「メイジー、どうかしたの?」
「え!?杏、この曲を聞いて気がつかないの?!」
「ぜんぜん……まったく」
「ジャックの新曲よ!」
うーん……ジャック?どこかで聞いたことがあるような……
「ジャックはこれだよ。メイジーはジャックにお熱なんだ」
オリバーは制服のポケットから四角い鏡を取り出した。男の子なのに鏡を持ち歩いてるだなんて、意外と几帳面なのね、オリバー……
だけど、オリバーが鏡を指でタップすると鏡の中がぐにゃりと歪む。
そして、きらびやかなステージの映像と音楽が鏡に映ったのだ!
「なにこれ!? スマホ?」
「スマホってなに? これは、うつし鏡だよ。見たい映像を呼び出せる魔道具なんだ」
ユーチューブが見れるタブレットみたいな感じ?
私は、オリバーが見せてくれるライブ映像をじっと観察した。
ステージに立っているのは、淡い金髪に空色の瞳の綺麗なお兄さんだった。
この顔には、見覚えがある。
「あ! この人、箒屋さんのポスターになってた人だ!」
私の反応にオリバーは、「え、ジャック、箒の広告にも出てるの?」と首を傾げた。それを見たメイジーの目の色が変わる。
「あったりまえでしょ!ジャックは今ニュージーランドの魔法界でいっちばん人気のあるアイドルなのよ! 箒の広告以外にも、雑誌の特集とか女性向けの化粧品の広告とか! とにかくいろんな仕事をしてるんだから」
心なしかメイジーの鼻息が荒い……
そっか、箒屋さんでメイジーが見ていたポスターに、一時間目でエイデンが言ってた『アイドルオタク』……メイジーは、ジャックの大ファンってことか。
「僕はジャックの何がそんなにいいのか、分かんないんだけどね」
オリバーの言葉にメイジーの顔が鬼のようになる。
「何言ってんのよ、オリバー! ジャック以上に完璧な存在、この世にいるはずがないでしょ! 美しい見た目に、完璧なファンサービス。しかも魔法動物も大好きっていう可愛らしい一面まであるの!」
メイジーは、オリバーからうつし鏡を奪い取り、私にジャックの違う動画を見せ始めた。
猫ちゃんと戯れるジャック。馬に乗るジャック。フクロウを肩に乗せるジャック……動画が切り替わる度に、メイジーはうっとりとため息を吐く。すっごく人気のある人だってのは、十分に理解できたよ……
その後もメイジーのジャック講座は、ランチタイムが終わるまで続いた。
タマちゃんなんか、途中で訳すのが嫌になったのか、日あたりの良い芝生に転がって、オリバーのカメレオンと並んで昼寝をしはじめた。
オリバーも聞く気がないのか、そんな二匹のスケッチを始める始末……
私は、メイジーのまくし立てるような早口の英語を、ただうんうんと頷きながら聞くことしかできなかった。




