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赤き日  作者: 溶接作業
二章

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99/102

「よくやってくれたなお前たち!」


 最初の声は長老のものだった。他の者も彼に続く。


「ニッケラン! 拳狼を殺したらしいな!」とエイリ。

「いや、俺だけじゃない。俺たちで倒したんだ」


 ニッケランの言葉に彼はうなずくと「違いない」と言った。


「お、英雄様たちのお帰りか! ちょうどいいタイミングだぜ!」


 奥のドアから現れたのはヤクトンだった。ドアを開いた途端、食欲を刺激する香りが鼻をくすぐった。

 『いいタイミング』とは飯をちょうど作り終えたという意味だろう。


「立ち話はなんだ、ささ、皆座ってくれ。武勇を是非聞かせてほしい」


 長老の一声に皆が従う。皆が席に移動するとそこには先客がいた。


「お腹すいたー」とエルノ。

「エルノちゃん。お腹すいたよね~~すーぐヤクトンがご飯を運んできますからねぇ~」と長老。


 彼のあんな甲高い声は初めて聴いた。ミャアドを見ると苦笑いを見せていることから日常的な風景らしい。

 するとエルノはオキタルを見た。


「オキタル雰囲気変わったね」

「え? そうかな? ねぇ、ニッケラン。雰囲気変わったかな?」


 彼をよく観察するが特に見た目が変った様には見えない。しかし、一つだけ違うとすれば、澄んだような目に変わったことだろうか。


「エルノちゃん。どう変わったんだい彼は?」

「なんか…優しい雰囲気になった!」

「優しい雰囲気ね…」


 ニッケランの表情は自然と笑顔へ変わった。オキタルの心境が変ったことで彼の雰囲気が温和になったようだ。彼にはできればまともな人生を歩んでほしい。そう考えているニッケランにとってこの変化はうらしいことだ。


 それを他人も感じ取れると分かればなおのこと。オキタルもどこか嬉しそうな表情を浮かべていた。


「お待たせ! 御馳走だぜ!」


 奥の部屋から現れたヤクトンの手にはお盆が乗せられている。その上に大きなクローシュが被せられ、中からは香辛料の匂いが漂っている。


「うまそうな匂いだな…今回は何の料理なんだ?」とミャアド。

「まだ全部揃っちゃいないんだ。それまでのお楽しみさ」


 彼はそそくさとキッチンへと移動してゆく。まだまだ飯が運ばれてくるようで、ニッケランは心躍った。


 料理がすべて揃うと机の上には食い物がいっぱいだった。メインの料理はまだクローシュで隠れているものの他の料理だけでも十分な御馳走だ。


 色々な食材の混ざったサラダ。蒸した芋。魚のすり身をふんだんに使用したパイ。これだけでも十分な量と質だ。


「よーし、これで全部だ!」


 もう一度現れた彼の手には鉄製の大なべが握られている。御馳走にスープは欠かせないだろう。

 しかし、予期せぬ人物が彼の後ろから現れた。


「食器はどこに置けば…ってキタル君! なんでこんなところに?」


 どうやら彼女がリエホらしい。オキタルの青ざめた表情を見ればすぐにわかった。


「あの町の住人じゃなかったのね…食事中、会話が弾みそうねぇ…」


 彼女の冷えた目にニッケランまで肝を冷やした。まるで蛇にでも睨まれたような気分だ。睨まれている張本人の彼は生きた心地がしないだろう。


 彼女は食器を配り終えると全員が席に着いた。同時にヤクトンがクローシュを持ち上げた。


「おお……」


 全員が感嘆の声を漏らした。前回の食事も豪華だったが今回の食事はそれ以上だ。


「猪肉、鹿肉、ウサギ肉…それにサギとか…とにかく色んな肉の炒め物だ。見た目はあれだが、味は保証

するぜ」


 ヤクトンが説明をしている様だがニッケランたちには届かない。彼らがまともな食事を取れるのは久しぶりだからだ。


 ヤクトンがそれぞれの皿へ取り分ける。ニッケランは今にも飛びつきそうになるが耐える。食事はやはり全員同時でないと楽しくなくなってしまうからだ。


 皆が均等に分けられた。そして同時に食事を開始する。


「うまい! ヤクトンは本当に料理が上手いな!」


 ミャアドの言葉に彼は鼻を鳴らした。


「へへッ。まぁ、このぐらい余裕ってことよ」


 ニッケランは彼らの会話を聞き流し、舌に集中する。前回と同じようにラヴァル葉で包んで調理をしたのか口の中で肉汁が溢れ、香ばしい肉の香りが広がる。前回と違うのは香辛料をふんだんに使用している点だ。


 しっかりとした味付けがつかれた体に染み渡る。ニッケランは柔らかい肉を何度も何度も噛み、味わい続ける。


「このスープもやっぱりうまいのな」とミャアド。


 彼の言葉に好奇心が刺激され、スープに手を伸ばした。赤い色をしたスープ。珍しい見た目だ。


 血を連想させる色に少し恐ろしく感じる。しかし、ミャアドの言葉を信用し口に流し込む。


 想像とは違った味が広がった。野菜の甘みとほのかな酸味が絶妙なバランスで合わさり、肉の油を綺麗に洗い流してくれる。どれだけでも食事に手を伸ばしてしまうような口直しにぴったりのスープだ。


 ニッケランはサラダやパンにも手を伸ばした。どちらも想像通りの味付けだったが、興奮した脳を落ち

着かせるにはちょうど良かった。ゆっくりと体をいたわりながら、彼は食事を続けた。


 すると横でリエホがオキタルに話しかけている所が見えた。聞き耳を立てながら続ける。


「で、キタル君。あなたはなんでここに居るの? イトク町の住民でしょあなたは」


 彼は気まずさからスープをしきりに飲んでいる。緊張で喉が渇いて仕方がないようだ。


「えーと…実はあの町の住人じゃないんだ…」


 彼女は彼の顔を覗き込んだ。心情を読み取ろうとするような恐ろしい目で彼を覗き込んでいる。


「町の住人じゃない? 私を騙したの?」

「…うん」


 ニッケランは思わずオキタルを見る。彼は顔面蒼白で食事が喉を通っていないようだ。可哀想で仕方がないが、彼に助け舟を出すことは出来ない。ニッケランは完全に部外者なのだから。


「じゃぁ名前も?」

「本当はオキタルって名前なの…」


 彼女は呆れたようにため息をつくと「…そう」と言った。

 少しの間、二人の間で沈黙が流れた。彼女が動くたびに彼は体をビクつかせ神経質に反応している。


「貴方がしたことは人として最低なことよ。正直軽蔑してる。でも、あの町を救ったことには変わりない。だから、ありがとうとだけは言っておくわ」


 彼女の顔をオキタルは驚いた表情でみていた。もっと罵られるのではと思っていたようだ。


「うん…わかった」

「ただ、これだけは約束してほしい。今後、同じようなことが起こっても私にしたような嘘はつかないで」


 オキタルの体はすくみ、小さく頷いた。今回の出来事は相当心に来ているようだった。


 二人はその後、一言も喋らず食事を続けた。ニッケランは結末がどうであれ、彼らの問題が一段落ついたことに安堵した。


最後までお付き合いいただき感謝いたします。

評価やコメントをいただけると、物語をより良くしていく大きなヒントになります。

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