表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤き日  作者: 溶接作業
二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

98/102

英雄たちの生還

「なんだか懐かしく感じるぜ」


 ザザンの言葉にニッケランは共感した。目の前に広がる上戸の森。生い茂っている木々のせいで中は暗く、湿っぽい。しかし、ニッケランたちにとっては最早、我が家のような場所であった。


 彼らは森を思う存分感じながら奥へと進んだ。木の根に足をすくわれないように慎重に歩を進める。


 ある程度進むと先頭を歩くジョンが立ち止まった。


「おかしいなぁ…ここら辺で集合のはずなんだが…」

「どうしたんだジョン、道に迷ったのか?」とニッケラン。

「いや、俺たちは間違っちゃいない。ミャアドが迎えに来てくれる予定なんだが…もしかするとアイツ迷ったかも」


 始めてこの森を訪れた時も奴は道を迷っていた。そのことを思い出すとニッケランは突然不安に苛まれる。


 彼は今、森の中で彷徨い腹を空かしているのではないかと。


「おい、お前たち! ここだ!」


 誰かが囁いた。


 仲間の誰かが言ったのではないかと思い、ニッケランは様子を窺がう。全員が周囲を見渡し、声の出所を探っている。この中には居ないようだ。


「ここだよ、ここ!」


 ニッケランは足元を見る。小さな四角形の蓋がほんのわずかに開いており、隙間から誰かが顔を覗かせ

た。


「ミャアド!」


 最初に声を発したのはオキタルだ。


「シ! 声が大きい! もし敵が居たらどうする!」


 彼は地下トンネルを通ってここまで来たようだ。ニッケランの心配は安心へと変わる。


「さ、トンネルの中に入ってくれ。基地に戻るぞ」


 ミャアドは蓋をさらに開くと、招く仕草をした。全員が彼に従う。


 トンネル内部に入ると松明を持ったミャアドの姿が見えた。表情は笑顔に包まれ、ニッケランたちを嬉々とした目で見ている。


 暗闇の中で浮かび上がる笑み。喜ばしい状況のはずなのに不気味に見えて仕方がない。


「お前たち! よく生きて戻ってくれた! 皆、英雄の帰還を待ってるぜ!」


 不気味な表情で彼が言った。喜ばしい言葉のはずなのに嬉しくないのは雰囲気のせいだろう。


「基地に変わりはないか?」とジョン。


 ミャアドは大きく頷き先へと進み始めた。


「何の問題も発生してないさ。森の中に見張りを立ててるけど、敵が入って来たっていう情報もないぐらい平和さ」


 ジョンは安心した表情で息を漏らしている。どうやら、他の町を奪還しにゆく間、手薄な基地の存在が気がかりだったようだ。


「そういやオキタル。お前に客人が居るぞ」

「え? 僕に?」


 驚いた顔を見せた彼はミャアドの顔を見入った。そして考え込むようにうつむく。


「あ! もしかして…リエホさん?」

「大当たりー」


 オキタルは突如その場でしゃがみ込み叫んだ。


「うわー!」

「うわ! なんだよ!」とミャアド。


 彼と同じように全員が驚いた。こんな暗闇で叫ばれては心臓に悪い。


「どうしたんだ!」


 ニッケランは彼の肩を掴み問う。顔を見ると目にはうっすらと涙がにじみ出ている。


「どうしよう…実は―――」


 彼が事のてん末を説明する。


 聞き始めはどうしたのかと心配したが、最後には呆れた表情で皆が彼を見ていた。


「それはお前が悪い」


 ザザンが言った。


「ひどいよザザン! みんなのためを思ってやったことなのに!」

「でも嘘はなぁ…」


 ニッケランは苦虫を噛んだような表情で言った。彼の言い分も筋としては通っているが、あの町の状況を考えると彼女へついた嘘は毒と同じようなものだ。


「ニッケランまで!」


「まぁ皆。こんな所で話していても何も変わらない。どうせ最後にはリエホさんだったか? その人と会うことになるんだ」とジョン。オキタル以外の全員が賛同するようにうなずいた。


「そうだけど…ひどいよぉ」

「まぁ、頑張りたまえ、オキタル君」


 気取った貴族のような話し方でニッケランは言った。彼の肩をポンッと叩きながら。



「よし。蓋を開けるから、松明を持っていてくれ」


 ミャアドからニッケランは松明を受け取る。地上へ上がれば目と鼻の先に基地が現れるそうだ。彼が案内をしたことを考えると疑わしいものだが。


 蓋が開き、太陽の光が差し込む。目を細めながら地上へ全員が這い上がった。


 外に出ると新鮮な空気を肺へと押し込む。トンネルは便利だが空気の重苦しさが玉に瑕だ。


「ニッケラン。松明を消すから貸してくれ」


 渡すと彼は土を松明へと被せた。その光景を横目にニッケランたちは前を向いた。


「今回はお前の案内も正しかったみたいだな」


 ザザンの言葉に皆がうなずいた。ミャアドは不満そうな顔で彼を見ていたが。


 目の前にはニッケランたちが唯一安心できる場所。反乱軍の本拠地が見えた。


「なんか家増えてないか?」とジョン。

「あぁ。イトク町以外の町とか村とかから兵士が派遣されたからな。今までの数じゃ足りなくなったんだ」


 イトク町の兵士は一切入ってこないが収穫はあったらしい。魔操志と拳狼を始末しただけでも十分かもしれないが。


「そんな話はいつでもできる! さ、主役はとっとと会場へ行かなきゃな」


 彼は大げさに手を広げると案内を進める。その大げさな姿に恥ずかしい気持ちになる。

 彼が「ここだ」と言うと目の前には長老の家。


「やっぱりここかよ」とザザン。

「雰囲気って大切だろ! お前たちをせっかく盛り上げてやろうと思ったのに…」


 四人は家の中へと足を踏み入れようとする。しかし、一人だけ動かない者。


「中にリエホさんって…いる?」


 ミャアドは呆れた表情で彼を見た。


「知らないが…少なくともどこかでは会うことになるんだ! 腹をくくれ!」


 そう言われ彼の顔が青白くなる。どうやらかなりの罪悪感を抱いているようだ。


「なぁオキタル。確かにお前のしたことは道徳に反するぜ? だが作戦はお前のおかげで失敗しなくて済んだわけだ。そ追う考えると、リエホさんも案外、怒ってなかったり?」


 ミャアドが励ましの言葉を送る。しかし、どうやら彼の耳には届いていないようで、彼は上の空だ。


「仕方がない…」


 ザザンはそう言うと彼を抱え込んだ。


「やめろ! 離せぇ!」


 我を忘れたように暴れ出した彼にニッケランが一言。


「俺が肩に風穴を開けられた時、お前は無視したよな…どうだ気分は?」


 悪魔のような笑みにオキタルは睨み返す。しかし、彼はそのまま連れられ家の中へと入ることになる。


最後までお付き合いいただき感謝いたします。

評価やコメントをいただけると、物語をより良くしていく大きなヒントになります。

ぜひ皆さまの声をお聞かせください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ