英雄たちの生還
「なんだか懐かしく感じるぜ」
ザザンの言葉にニッケランは共感した。目の前に広がる上戸の森。生い茂っている木々のせいで中は暗く、湿っぽい。しかし、ニッケランたちにとっては最早、我が家のような場所であった。
彼らは森を思う存分感じながら奥へと進んだ。木の根に足をすくわれないように慎重に歩を進める。
ある程度進むと先頭を歩くジョンが立ち止まった。
「おかしいなぁ…ここら辺で集合のはずなんだが…」
「どうしたんだジョン、道に迷ったのか?」とニッケラン。
「いや、俺たちは間違っちゃいない。ミャアドが迎えに来てくれる予定なんだが…もしかするとアイツ迷ったかも」
始めてこの森を訪れた時も奴は道を迷っていた。そのことを思い出すとニッケランは突然不安に苛まれる。
彼は今、森の中で彷徨い腹を空かしているのではないかと。
「おい、お前たち! ここだ!」
誰かが囁いた。
仲間の誰かが言ったのではないかと思い、ニッケランは様子を窺がう。全員が周囲を見渡し、声の出所を探っている。この中には居ないようだ。
「ここだよ、ここ!」
ニッケランは足元を見る。小さな四角形の蓋がほんのわずかに開いており、隙間から誰かが顔を覗かせ
た。
「ミャアド!」
最初に声を発したのはオキタルだ。
「シ! 声が大きい! もし敵が居たらどうする!」
彼は地下トンネルを通ってここまで来たようだ。ニッケランの心配は安心へと変わる。
「さ、トンネルの中に入ってくれ。基地に戻るぞ」
ミャアドは蓋をさらに開くと、招く仕草をした。全員が彼に従う。
トンネル内部に入ると松明を持ったミャアドの姿が見えた。表情は笑顔に包まれ、ニッケランたちを嬉々とした目で見ている。
暗闇の中で浮かび上がる笑み。喜ばしい状況のはずなのに不気味に見えて仕方がない。
「お前たち! よく生きて戻ってくれた! 皆、英雄の帰還を待ってるぜ!」
不気味な表情で彼が言った。喜ばしい言葉のはずなのに嬉しくないのは雰囲気のせいだろう。
「基地に変わりはないか?」とジョン。
ミャアドは大きく頷き先へと進み始めた。
「何の問題も発生してないさ。森の中に見張りを立ててるけど、敵が入って来たっていう情報もないぐらい平和さ」
ジョンは安心した表情で息を漏らしている。どうやら、他の町を奪還しにゆく間、手薄な基地の存在が気がかりだったようだ。
「そういやオキタル。お前に客人が居るぞ」
「え? 僕に?」
驚いた顔を見せた彼はミャアドの顔を見入った。そして考え込むようにうつむく。
「あ! もしかして…リエホさん?」
「大当たりー」
オキタルは突如その場でしゃがみ込み叫んだ。
「うわー!」
「うわ! なんだよ!」とミャアド。
彼と同じように全員が驚いた。こんな暗闇で叫ばれては心臓に悪い。
「どうしたんだ!」
ニッケランは彼の肩を掴み問う。顔を見ると目にはうっすらと涙がにじみ出ている。
「どうしよう…実は―――」
彼が事のてん末を説明する。
聞き始めはどうしたのかと心配したが、最後には呆れた表情で皆が彼を見ていた。
「それはお前が悪い」
ザザンが言った。
「ひどいよザザン! みんなのためを思ってやったことなのに!」
「でも嘘はなぁ…」
ニッケランは苦虫を噛んだような表情で言った。彼の言い分も筋としては通っているが、あの町の状況を考えると彼女へついた嘘は毒と同じようなものだ。
「ニッケランまで!」
「まぁ皆。こんな所で話していても何も変わらない。どうせ最後にはリエホさんだったか? その人と会うことになるんだ」とジョン。オキタル以外の全員が賛同するようにうなずいた。
「そうだけど…ひどいよぉ」
「まぁ、頑張りたまえ、オキタル君」
気取った貴族のような話し方でニッケランは言った。彼の肩をポンッと叩きながら。
「よし。蓋を開けるから、松明を持っていてくれ」
ミャアドからニッケランは松明を受け取る。地上へ上がれば目と鼻の先に基地が現れるそうだ。彼が案内をしたことを考えると疑わしいものだが。
蓋が開き、太陽の光が差し込む。目を細めながら地上へ全員が這い上がった。
外に出ると新鮮な空気を肺へと押し込む。トンネルは便利だが空気の重苦しさが玉に瑕だ。
「ニッケラン。松明を消すから貸してくれ」
渡すと彼は土を松明へと被せた。その光景を横目にニッケランたちは前を向いた。
「今回はお前の案内も正しかったみたいだな」
ザザンの言葉に皆がうなずいた。ミャアドは不満そうな顔で彼を見ていたが。
目の前にはニッケランたちが唯一安心できる場所。反乱軍の本拠地が見えた。
「なんか家増えてないか?」とジョン。
「あぁ。イトク町以外の町とか村とかから兵士が派遣されたからな。今までの数じゃ足りなくなったんだ」
イトク町の兵士は一切入ってこないが収穫はあったらしい。魔操志と拳狼を始末しただけでも十分かもしれないが。
「そんな話はいつでもできる! さ、主役はとっとと会場へ行かなきゃな」
彼は大げさに手を広げると案内を進める。その大げさな姿に恥ずかしい気持ちになる。
彼が「ここだ」と言うと目の前には長老の家。
「やっぱりここかよ」とザザン。
「雰囲気って大切だろ! お前たちをせっかく盛り上げてやろうと思ったのに…」
四人は家の中へと足を踏み入れようとする。しかし、一人だけ動かない者。
「中にリエホさんって…いる?」
ミャアドは呆れた表情で彼を見た。
「知らないが…少なくともどこかでは会うことになるんだ! 腹をくくれ!」
そう言われ彼の顔が青白くなる。どうやらかなりの罪悪感を抱いているようだ。
「なぁオキタル。確かにお前のしたことは道徳に反するぜ? だが作戦はお前のおかげで失敗しなくて済んだわけだ。そ追う考えると、リエホさんも案外、怒ってなかったり?」
ミャアドが励ましの言葉を送る。しかし、どうやら彼の耳には届いていないようで、彼は上の空だ。
「仕方がない…」
ザザンはそう言うと彼を抱え込んだ。
「やめろ! 離せぇ!」
我を忘れたように暴れ出した彼にニッケランが一言。
「俺が肩に風穴を開けられた時、お前は無視したよな…どうだ気分は?」
悪魔のような笑みにオキタルは睨み返す。しかし、彼はそのまま連れられ家の中へと入ることになる。
最後までお付き合いいただき感謝いたします。
評価やコメントをいただけると、物語をより良くしていく大きなヒントになります。
ぜひ皆さまの声をお聞かせください!




