反乱軍
軍勢を率い騎乗している男。その男には見覚えがあった。
「ジョン!」
オキタルとザザンが同時に叫ぶ。ニッケランも叫びたい気分だったが骨が痛くそれどころではなかった。
二人の声を聞いてジョンは笑顔を作った。
「二人とも! 生きてたか! 良かった良かった!」
彼はそう言うと首を執拗に動かした。何かを探しているようだ。すると、ニッケランと目が合う。
彼は片腕を上げ「ニッケランも無事か?」と大声で叫んだ。
それに同じように腕を上げ反応する。それを見た彼は満足そうに笑顔を見せた。
「話している最中で申し訳ないんだが…アンタらは?」
モヤトが剣を持った状態でジョンに問う。まだ、状況がつかめていないようだ。
「あぁ、すまない。挨拶をしていなかったな」と彼は息を整え「今回、反乱軍の将軍を務めさせてもらってるジョンって言うもんだ。よろしく」
彼の言葉にモヤトは震えている。実質的に作戦が成功したことを伝える言葉だったからだ。
「勝ったぞぉ! 俺たちは勝ったんだ!」
オキタルが叫んだ。それに周囲の兵士たちも叫びをあげる。剣を放り投げ踊る者。神に祈る者。仲間と抱き合っている者。様相は様々だったが、誰一人とした落胆している者はいない。
全員がこの瞬間を噛み締めていた。
「水を差すようで悪いんだが、一つ質問しても?」とモヤト。
彼は突然我に返ったように質問を飛ばした。
「魔操志の手下が一人逃げてしまったんだ。アンタらは見かけてないか?」
ジョンはそれを聞くやいなや後ろの兵士に指示を出す。
「コイツの事か?」
兵士の波から現れた縄で縛られた一人の男。Bを警護していた兵士の一人だ。
それを認識した途端、モヤトは膝から崩れ落ちた。
「良かった…良かった…」
今にも泣きだしそうな彼の声。しかし、それは悲しみではなく安堵に包まれていた。それを見ていたゴラムも安堵の表情で冷や汗を拭いている。
すると、ジョンは下馬しモヤトに近寄った。
「もう安心してくれ。この町は自由だ」
そして彼は叫ぶ。
「聞け! この町に魔操志はもういない! この町に奴らの手下は居ない! 我々は自由だ!」
勝利の熱狂は長いこと続くと思われていたが、ジョンが即座に動いたことで状況は一変した。
彼の命令で反乱軍の兵士たちが走る。
この町の兵士たち、住人たちに状況を説明せねばならない。混乱が起こらないよう全力で駆けてゆく。
町全体が途端に騒がしく、傍観していた兵士たちが家の中や路地裏から姿を現し始めた。
「この光景、戦の終わりって感じだよな」
ニッケランの言葉にザザンがうなずいた。二人はベンチに座り、体力を回復させている所だ。
オキタルはと言うとジョンと話し込んでいた。何やら反乱軍を呼んでくれた住民にお礼が言いたいとのことだった。
彼らは話し終えると、オキタルがゆっくりとこちらへ近づいてくる。
「どうしたんだオキタル? お前のいう人に会いに行くんじゃないのか?」とザザン。
「森の基地の方で保護してるんだってさ。まぁ、そりゃそうだよね。あそこまで、まぁまぁ距離あるし」
彼はふてくされていたが、悪い気はしていないようだ。口元がほんのり微笑んでいる。
すると、彼に続いてジョンもやって来た。彼はニッケランを見るなり笑顔になる。
「拳狼ってやつを倒したんだって? 反乱軍の兵士たちが感心してるぜ?」
「その話は皆で倒したってことで終わってるの! もう勘弁してくれ」とニッケラン。
ザザンとオキタルは笑っているがジョンは状況を掴めていないようで苦笑い。
「ところでジョン。気になってたことがあるんだけどよ」
ザザンの質問に彼は首を傾げる。
「なんかお前が引き連れてきた兵士、多くないか? 反乱軍の大半を引き連れてきてるだろ?」
彼の言う通り兵士の数が異常だ。これでは本拠地の警備が手薄になってしまうのではないだろうか。
「聞いて驚くなよ?」
彼は自慢げに鼻を鳴らすと続ける。
「お前たちが戦っている間に他の町に攻め入ったのさ」
「はぁ⁉」
彼の質問に度肝を抜かれた彼らは大声を出した。まさか、軍事行動を起こしていたとは想像だにしていなかった。
「被害は?」とニッケラン。
「ゼロだよ。ゼーロ」
どおりで自慢げな訳だ。他の町を奪還するのに被害者がゼロとは恐れ入る。しかし、何らかの秘策があったはずだ。再度質問を飛ばす。
「何したんだよ? 普通じゃありえないだろ、そんな数字」
「なーに簡単な話さ。魔操志ってのは数が少ない。案外実効支配している地域ってのは広くないのさ」
「奴らの手下は?」とザザン。
「もちろん居たさ。でも町って言っても小規模も小規模。俺たちの軍勢を見てすぐ降参さ」
確かに魔操志や拳狼のような英雄級の化け物が居ない街であれば、この軍全の前ではひとたまりもない。
ましてや、魔操志の手下は忠誠を誓っているように見せかけているだけの張りぼてだ。簡単に降伏したこともうなずけた。
「こんな話はあとにしよう。俺も聞きたいことがあるしな」
彼がそういうのならば仕方がない。三人はうなずき従う。
「質問する相手ってのがニッケランなんだけどさ」
「なんだよ」
「ずっとそこ押さえてるけど、もしかして…あばら?」
「あの拳狼って化け物がやばかったんだ」
彼は奴の死体を観察しうなずいた。
「あの巨体とあの筋力。並の人間じゃ一瞬だね」
彼はニッケランへ尊敬の眼差しを送る。そして肩を一発叩くと「やるじゃん」と言いどこかへ去ろうと
する。
「どこ行くんだ」とニッケラン。
「俺はこの軍の指揮官だよ? 指示を飛ばさなきゃ」
彼は馬に乗りかけてゆく。その姿は優雅で、元貴族を思わせる風貌だった。
「あいつに馬って似合うよな」
ザザンがしみじみと言った。しかし、どうしてかニッケランと彼をしきりに見比べている。
「なんだよ」
「お前が馬に乗っても傭兵団長にしか見えねぇな」
彼は大笑いする。ニッケランは少し残念な気分になったが、今は気分がいい。ほんの少し馬鹿にされたところで何も変わらなかった。
すると、空に朝の帳が広がり始めた。端の方からゆっくりと色が混ざり合い、淡い色へと変化してゆく。
三人は空を見上げながら思った。
もしかするとこれは新しい時代の幕開けなのかもしれないと。そして、彼らはその当事者の中に居るとも。
最後までお付き合いいただき感謝いたします。
評価やコメントをいただけると、物語をより良くしていく大きなヒントになります。
ぜひ皆さまの声をお聞かせください!




