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赤き日  作者: 溶接作業
二章

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覚悟

 剣を振り回している最中と言うこともあり、奴はランプを避けられなかった。ランプの油が顔にかかり叫び声をあげる。


「ぐあぁぁぁぁ!」


 肉の焼ける音と共に奴は手で顔を覆った。それを見たオキタルは短剣を両手で強く握り、腹めがけ、かけてゆく。


 足音だけが聞こえる状態。奴は恐怖心が煽られたのか、がむしゃらに剣を振り回した。


「近寄るなぁ! 近寄るなぁ!」


 不格好に剣を振るっているが速度はかなりのもの。この剣幕を避ける自信はオキタルにはまだない。


 彼は刀身の先を片手でつまむと、奴の剣幕を目で追ってゆく。集中し、水切り遊びのようにナイフを移動させる。


 マリキュが落としたランプの光が奴を照らす。手の隙間から覗く目とオキタルの目が合った瞬間、ナイフの先端は奴の首めがけて飛んでいた。


 剣幕を避けてゆく羽のようなナイフ。次には、奴の喉を赤黒い色で染め上げていた。


 ナイフの痛みに耐えかね、奴はしりもちをついた。


 血が多く流れている。しかし、致命傷には至っていない様子だ。


 とどめを刺そうとオキタルは駆け出そうとする。しかし、彼の足は恐怖と言う名の釘を足に打ち付けられてしまった。


 足と床がくっついたように動かなくなった彼の視線の先には、顔の半分がただれ、異形の笑顔を見せた化け物。


 その魔性に引き込まれ彼は大事なことを忘れていた。奴の手に握られる剣の存在を。


 奴が剣を矢のように投げつけた時には遅かった。その一瞬の遅れにオキタルは対応が出来ず、無理やり避けたせいで体勢を崩してしまう。背後で格子と剣がぶつかる甲高い音が響いた。


 形勢逆転。奴は笑顔を深め、その醜悪な顔を見せつけるようにオキタルに襲い掛かった。


「やめろ!」


 彼は必死に蹴りを入れるが、大人の力には抗えない。首を締めあげられ、どんどんと苦しくなる。


「死ね! ククク」


 耳に飛び込んでくる奴の息遣いと声に脳が混乱する。頭がどんどんと熱くなり、血が頭で止まっていることが伝わる。おまけに息も出来ず集中力も散漫になってゆく。


 歪んだ視界で打開策を模索するが、周囲に武器として使えそうなものは無い。オキタルは諦め、このまま死を迎えるかに思えた一瞬。奴の首元で光る何か。


 ランプの光を反射させるそれは、赤黒く染まったナイフだった。


 奴は痛みのあまり我を忘れ、同時に首に突き刺さる急所のことも吹き飛んでしまったようだ。


 振り絞っためい一杯の力で、ナイフを掌で押し込む。途端に掌に大量の血が流れ落ち、奴はオキタルにのしかかるように崩れ落ちた。


 痙攣している体を押しのけ、即座に離れる。


 少しの間様子を見ていたが、再び起き上がる様子もない。途端に安堵が押し寄せ彼はその場に崩れ去った。


 手には人を殺めた感触。その余韻に深く浸る。


 自分の手で人を殺した。そのことばかりを考えてしまう。


 帝国兵を殺すことが夢だったにもかかわらず、彼の心は満たされない。それどころか不快感が湧き上がってくる。


 気が付くと彼の目には涙が溜まっていた。


「どうして…どうして…」


 すると階段を駆け下りてくる足音が響いた。


「おい! なんの音だ!」


 姿を現したのはモヤトだった。彼の手にはランプが握られており、彼の顔を優しく照らしている。


「おい! オキタル! 大丈夫か…って何だこの状況は!」


 目の前に広がる悲惨な光景に彼は周囲を何度も見渡している。しかし、すぐさま格子の中に入るとマリキュの元に駆け寄った。


「おい! しっかりしろ!」


 返事は無い。


 オキタルは立ち上がり、彼の元へ駆ける。


「マリキュさん…生きてる?」


 涙ぐんだ顔を見てか、モヤトはすぐに顔を伏せた。しかし、返事は無い。


「ねぇ! モヤトさん」

「死んでるよ」


 気が付くとオキタルはその場でうずくまって泣いていた。


 人を殺すことがこんなにも恐ろしいことなんて思ってもいなかった。そして、仲間を失う悲しみも。


 モヤトはそっとオキタルの肩をさすると言った。


「お前のせいじゃない」


 オキタルは鼻をすすりながら「うん」とかすれた声を出す。しかし、この行き場のない閉塞感は無くならない。


「さぁ行こう。こんな場所に長くいたらおかしくなっちまうよ」


 彼に支えられながらゆっくりと地下から這い出る。そして、外に出た。


 空を見上げると月がそこにはあった。だが、今日の月は不気味で仕方がない。一人の男の末路を傍観しているような、そんな不気味な雰囲気を帯びている。まるで、オキタルをあざ笑っているように見えた。


「おい! しっかりしろ! 月なんて眺めてどうした」


 鼻を勢いよく鳴らしながら答える。


「人を…帝国兵を殺せば気が晴れると思ってた…でも全然違ったーーーこんなにも辛いだなんて」


 泣きじゃくっている彼の姿にモヤトは衝撃を受けた顔をしている。何度も口を開けては閉じを繰り返し、何を言えばいいのか模索している。


「お前に何があったのか、俺は知らない。だが、一つ言えることは暴力に正義を見いだすことは間違っているということだ。この国を見てどう思った? 暴力にすがった者たちの醜悪な姿はどうだった?」

「あんな風にはなりたく…ない」


 回答にモヤトは彼を撫でた。髪が散らかるまで何度も撫でた。


「そうだ。少なくともお前は今日、それを学んだんだ。この国は最早、暴力でしか変えられない。だが、この先。この国が滅びる時が来れば……きっと暴力にすがらない時代が来るはずだ。それを祈って俺たちは戦うんだ」

「うん!」


 大きく頷いたのを見て、彼は安心したように肩を落としていた。


「あ、ザザンの盾。取ってこないとな」

「まって…僕が行く」


 彼は目を見開きオキタルを見た。しかし、その信念の宿った目を確認し「取ってきてくれ」と言った。


 彼はもう一度、暗闇に足を運ぶ。


 地下に降りると、血の匂いと共にランプのほのかな光が見えた。


 彼は死体を睨むと一喝。


「絶対に負けないからな!」


 決意の籠った声。あの憎しみに満ちた少年はもういない。そこには希望に満ち、世の中を変えようと動く光があった。


 盾を見つけると彼は走った。闇から逃れるように必死に走った。闇が追い付けないような速度でとにかく走った。


 ドアを勢いよく開くと「このまま届けてくる!」


 さすがに彼の行動を予測できなかったモヤトは必死に後を追いかける。


「ま、待て! 危ないだろ!」


 しかし、彼は止まることはしない。彼の物語は今始まったばかりなのだから。


最後までお付き合いいただき感謝いたします。

評価やコメントをいただけると、物語をより良くしていく大きなヒントになります。

ぜひ皆さまの声をお聞かせください!

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