表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤き日  作者: 溶接作業
二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

82/102

 目が覚めたのは朝だった。


 まさかここまで疲れが溜まっているとは思わなかった。ニッケランは伸びをしながら空を見つめる。

 淡い色の空。昨日と同じように井戸に向かおうとすると、モヤトがテントから出てきた。


「お、起きたか。余程疲れてたんだな」

「ああ」


 擦れた声に彼は鼻で笑った。


「井戸に行くのか? 俺も行く」とニッケラン。


 寝具から出ると想像を絶する寒さに驚いた。


「さ、寒いな! 今日は一段と!」

「あぁ。本当に寒い…だがありがたいことに空気が乾燥してる。これはよく燃えるぞ」


 彼は不適な笑みを浮かべ、しきりに息を吸っている。吐く息が真っ白で、まるで煙のように見えてしまう。


「さ、井戸で顔を洗いに行こうや」


 モヤトにうなずいた。


「昨日は上手くいったか?」


 寒さ以外にも意識を向けたい。そんな考えがよぎったニッケランの発言だ。


「おう。想定以上に円滑にできたぜ。俺の準備は完璧よ! ニッケランは?」

「俺は準備ってもんは…」


 仕事量の差に苦笑いすることしかできない。しかし、気にしていないのかニッケランの様子を笑い飛ばした。


「苦笑いするなよ! ニッケランは俺以上に重要な役割を担っているんだ。休息は俺以上に必要だ」


 気が付くと井戸の目の前に着いていた。

 水をくみ上げ手にかける。外が寒すぎるせいかとても暖かく感じる。しかし、水が途切れ外気にさらされると手は凍るほど冷たくなってしまった。


「頭から被るのは止そう」とニッケラン。


 顔を洗うと、釣瓶を元に戻す。今度はモヤトが顔を洗い、そして拠点に戻ることにした。

 拠点に戻るとオキタル、ザザンも目覚めていた。


「お、二人ともお目覚めかい?」とモヤト。


 二人は気怠そうにうなずいた。モヤトが続ける。


「よし、茶を飲もう。こういう寒い朝の茶は格別だぜ?」


 二人は寝ぼけた顔をしながらも、表情は笑っている。あの茶が格別にうまかったことを考えると無理のない話だ。表情には出していないがニッケランもあの茶を楽しみにしていたのだった。

 彼がポットで湯を沸かす準備の合間に三人は情報を共有する。


「俺とザザンは武器の手入れしかしていないが…オキタルお前はどうだ? 上手くいったか?」


 まだ寝ぼけているのか「う~ん」と間抜けな声を出した。


「鍵に関しては問題ないよ。ちゃんと受け取ってここに」


 寝具から突き出た彼の手には、鍵の形をしたか細い金属片が握られていた。


「お、爺さんちゃんと仕事したな」


 ポットをトリベットの上に置き終えたモヤトが言った。

 オキタルはうなずく。しかし、どこか満足のいっていない表情だ。


「実は…反乱軍にちゃんと助けを呼べるかどうか怪しくて…」


 オキタル以外の三人が顔を見合わせた。作戦を実行する上では問題の無いことだ。しかし、もし助けを呼ばれでもしたらニッケランたちは失敗に終わり、さらし首にされることが用意に想像できた。


「まぁ、無理な話だよな…住人にしたら、命を投げ出すような行為だもんな」


 腕を組み渋い表情を浮かべたニッケランが言った。ザザン、モヤトも同じようにうなずいている。


「でも、もしかすると請け負ってくれるかもしれないんだ」

「ていうのは?」

「考えさせてほしいって言ってたから…多分、作戦を決行する前に反乱軍の元へ行くかも…」

「ちなみに誰に頼んだんだ?」とモヤト。

「リエホって言う人」


 モヤトは「あぁ~」と言うと即答した。


「この町の領主の娘ね」


 オキタルの選択は正しいように感じる。責任感が強く、行動を起こせるような存在。この町の領主だった者の娘以外に適者は居ないだろう。


「まぁ、どうせ作戦自体一か八かだ。やってやろうじゃないの」


 モヤトのセリフに全員が笑うと同時にポットの笛が鳴いた。


「昨日と同じ茶?」


 笛の音と共に起き上がったザザン。それに彼は首を横に振った。


「昨日の奴よりも高価な茶さ」


 他の三人が感嘆の声を漏らすと「期待してもいいぜ?」と言った。


 彼がテントの中から取り出したのは一つの木箱だった。木箱と言っても武器を運ぶような粗野な箱ではなく、木を削りだし、磨いた高価そうな箱だ。


「これはまた、高そうだな」と箱を見下ろすニッケラン。


 彼は自慢げに「かなりの品物だからな。味わって飲めよ」と蓋を開けた。


「おお…いい香りだな」


 箱を開けただけで強烈な香りが鼻を抜ける。思わずニッケランは呟いた。


「眠気も吹き飛ぶな」とザザン。


 しきりに鼻を鳴ら彼とオキタル。


 モヤトは箱を傾けるとポットの中に緑色の粉末を注ぎ入れた。湯気すら惜しくなってしまうような香り。この茶を飲んでしまったらどうなってしまうのだろうかと恐怖すら感じてしまう。


 ポットの中を覗き込むと、水が緑色に染まっていた。


「緑! お茶で緑色って見たことないや」


 オキタルの言う通り、茶と言えば木の色に近い茶色が多い。そのイメージとかけ離れた色に好奇心が刺激される。


 彼がカップの中に茶を注ぎ入れると、さらに濃い茶の香りが辺りに充満した。


「ほら。味わって飲めよ」


 ニッケランはカップを受け取ると鼻を近づける。


「いい香りだ…フルーツのような香りではないが、茶のいい香りだな」


 全員が同じように嗅いでいた。そして、同時に口をつける・


「ん。旨いな…甘い訳じゃないけど、茶の渋みを感じないうま味が強い茶だな」とザザン。


 皆が茶に集中する。

 甘い訳でも、味付けがされている訳でもない。茶特有の味が口いっぱいに広がっている。


 しかし不思議と落ち着いて仕方がない。体が求めていたような、体にどんどんと吸収されていくような聖水と言ってもおかしくない茶だ。


 ポットから茶が無くなるのに、そう時間はかからなかった。


「ふう。茶をこんな勢いで飲むのは初めてだぜ」


 ザザンの言葉に皆が笑っていた。モヤトが箱をテントに片付けながら言った。


「不思議な茶だろ? 遠い国からやって来た茶だそうだ」

「異国の茶なのか! そんな高価なもん飲ませてもらって…金は?」


 ニッケランに彼は大きく笑った。


「いらねぇよそんなもん! 作戦成功を祈る酒の代わりみたいなもんよ」そう言うといつもの箱に勢いよく座った。


「じゃぁ、最後に作戦の全貌をもう一度説明するぞ?」


 カップに付着する茶の残り香を嗅ぎながら頷く。


「A担当はオキタル、番兵、あわよくば俺も参加したいね。次にBはもちろん俺。Bは煙に紛れて人数でごり押しする予定だ。次にCはニッケランとザザン。Cだけを殺して拳狼は後回しで頼む。全員で畳みかけるぞ」


 全員がそれぞれの顔を確認する。目に希望が宿っていた。今までにないやる気を感じ、ニッケランは立ち上がる。


「配置に着くか!」

「おう!」


 全員の声が重なり、全身の血が沸騰するような気分になる。誰一人として歩いて向かう者はいない。


 今すぐにでも暴れ出したい気分だった。


最後までお付き合いいただき感謝いたします。

評価やコメントをいただけると、物語をより良くしていく大きなヒントになります。

ぜひ皆さまの声をお聞かせください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ