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赤き日  作者: 溶接作業
二章

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キルタ

 住人街に着くと、真っ先にオキタルは信用できる人物の元へと向かう。


 空は晴れているというのに地面はぬかるみ、小汚い木製の家ばかりが立ち並ぶ。この場所は長くいるほどに生気を失ってゆくように感じる。


「絶対に助けなくちゃ」


 オキタルは目的の場所に着くと、勢いよく戸を叩く。叩いた後に戸が壊れてしまわないか心配になったが、中から柔らかな声で「どうぞ」と聞こえ安心した。


 今度は優しく戸を開き、中へと足を踏み入れる。


「どうしたのキルタ君。こんな朝早くから」


 思わずウットリとしてしまうような優しい声。声の主である少女にオキタルは早速、事のてん末を説明した。


「―――と言うことがあって、だから、リエホさんに頼みたいんだ!」


 神に祈りを捧げるように、懇願する。しかし、相手は首を縦に振らない。


「とても魅力的な作戦だわ…でもね、その作戦がもし失敗したら? この町の住人は皆、殺されてしまうわ」


 彼女の言い分は最もだ。彼女はこの町の領主の娘。この町を支えてきた父の姿を見て育ってきたのだ。彼女の行動一つで住人たちの命運が決まってしまうことは養子に想像できるだろう。


 オキタルも十分に理解している。彼女に作戦の一部を託す意味を。


「でも、このままじゃ! ―――このままじゃ何も変わらないよ?」


 彼女は顔を曇らせ、睨んだ。


「分かっているわ! そんなこと! …貴方みたいな子供に何が!」


 無意識に怒鳴っていたことに気が付いたのか、彼女は驚いた顔で口をつむいだ。


「出て行って…出て言ってちょうだい!」


 目に涙を浮かべている姿におオキタルは何も言えなくなった。

 これ以上何を言っても無駄だろう。素直に従い家を後にした。




「はぁぁぁ。どうしよう。ニッケランたちに合わせる顔がないよぉ」


 オキタルは次の目的地へトボトボと歩いてゆく。

 もし、他の町から援軍が来てしまえば、確実に作戦は失敗する。そのことばかりが頭をよぎり、他の事に集中できない。


「痛ッ」


 何かとぶつかり、尻もちをついてしまった。


「すまない。大丈夫か?」


 泥だらけの体から目線を声の主へと移す。

 よれた服を着た青年が手を差し伸べてくれていた。


「あ、ありがとう」

「君、リエホさんの所から出てきたけど、なんの用で行ってたんだい?」

「え?」


 作戦を不用意に説明するわけにはいかない。どうにかして理由を探す。


「兵士たちに生活の質を上げるように懇願できないか頼んだんだ…でも怒らせちゃった」


 すると、青年は笑い出し「それは無理もないな」と言った。


「俺はマイグってんだ。彼女の護衛をさせてもらってる。と言っても最近は住人の手伝いばかりさ」


「え? 彼女の護衛さんなの?」


 彼は笑顔を浮かべ大きく頷いた。


「じゃぁ、仲がいいとか?」

「え? まぁ、リエホさんとはずいぶん前から認識もあるし…他の住民の方とは少なくとも会う機会は少なくないから…仲は悪くはないかな」


 一か八かの作戦がオキタルの脳裏をかすめた。


「お願い! リエホさんに頼むの手伝って!」





「マジでやるのか?」


 マイグは顔を引きつらせ、同じ言葉を何度も繰り返す。


 目の前にはリエホの家。戸の前で立ち往生しているのだ。


「さっきまで『任せろ!』なんて言ってたくせに意気地なし!」


 彼は苦笑いを浮かべ下がろうとする。それをオキタルが後ろから押す。これの繰り返しだ。


「ねぇ、家の前で何なの?」


 戸が少し開き、隙間から彼女が顔を覗かせた。二人は気まずさから立ち尽くしている。


「はぁ…入りなさい」


 戸が閉まると二人は顔を見合わせた。


「君のせいだぞ」とマイグ。

「ごめん」


 言葉だけだ。内心はほくそ笑みオキタルの作戦通りに進んでいる。


 マイグはため息をつき「入ります」と言い戸に手を掛けた。


 彼の後に続いて入ってゆく。


「しつこい子は嫌いよ? キタル君」


 リエホの顔を見ると少し腫れぼったくなっている。かなり泣いたようで胸が痛んだ。


「その…リエホさん。彼の頼みを聞いてやってくれないですか?」

「マイグまで! キタル君、アナタどんな頼み方をしたわけ?」


 特段変なことはしていない。「この町を良くしたい」と言っただけだった。しかし、ここで問題が一つ。彼女と彼に話したことは全く異なっていることだ。


 リエホには町の奪還作戦。

 マイグには住人の質の向上。


 内容も違えば、住人が殺されるリスクの度合いも違う。このことがマイグにバレてしまえばオキタルの作戦は失敗する。


「ちゃんと説明したよ? この状況を打開したいって」


 彼女は睨みを移した。


「マイグ! 貴方はキタル君の説明をしっかり聞いていたの? どれだけ危険な作戦か分かる?」


 彼はバツが悪い顔を見せ、オキタルの顔を何度も確認する。


 先ほどまでの威勢はどうしたと思ったオキタルは彼に睨みを利かせる。これで逃げ場はなくなった。ここからは彼がいかにうまく事を運ぶかにかかっている。


「リエホさん…町のみんながどんな生活を送っているか知ってるだろ?」


 リエホは唖然としている。まさか、彼が完全にオキタル側に着くとは思っても居なかったようだ。


「ええ…もちろん。奴隷のような生活よ…食料も無い日の方が多く、毎日がどの日暮らし」

「そうだ。その通りだなんだ。君がこの状況に人一倍苦しんでいることも承知している。だけど、この状況を打開するにはリスクを負うしかないんだ!」

「簡単に言わないで!」


 鼓膜が張り裂けそうなほどの大声。彼女の姿からは想像することも出来ない悲痛な叫びだ。彼女は続ける。


「私だってそんなこと分かってる……分かってもなお、そのリスクは取れないの!」

「ワヤオが殺された」


 口を覆った彼女は息を飲み込んでいた。オキタルには心当たりのない人物だった。


「嘘よ…彼女はまだ十三歳よ…?」

「嘘じゃない。バヒに殺されたんだ」


 心当たりのある名前だ。ターゲットの一人。Aだ。


「理由は! 理由は何だって言うの!」


 彼女は靴も履かないまま三和土におり、彼の肩をがむしゃらに掴んだ。


「兵士に石を投げたそうだ…」

「嘘よ…あの子はここから兵士街に行くことなんてなかったじゃない」


 途端に二人はうつむき黙り込んでしまった。ふと三和土を見ると、彼女の下だけ二粒の雫の痕が残っている。


「考えさせてちょうだい…するかどうかはまだ…決められない」

「行こうか」


 顔を伏せたままの彼女を残し、二人は家を後にする。




「顔を洗いたい」


 彼は戸を静かに閉めると言った。オキタルは何も言わずにうなずく。

 井戸へ移動すると彼は水をくみ上げ、勢いよく頭から被った。


「――君、この町の子じゃないだろ?」


 突然の質問に全身が汗ばんだ。彼は協力してくれた。にもかかわらずここで言う意図が分からい。


「落ち着け。君が兵士だと言っている訳じゃない。反乱軍って所かな? 俺は昔から勘が良いんだ」


 彼の目を見ると、踏みするような目で見ていた。ゾッとするような、深みが分からない目だ。


「なら、なんで協力したの?」

「君はこの町を救おうとしているんだ。 そうだろ?」


 ゆっくりと確実にオキタルはうなずく。


「やはりね。 正直彼女の言い分は正しいよ。生き残る上で敵に回していい奴と悪い奴がある。魔操志は悪い奴さ」


 彼はもう一度水を汲み始めると続ける。


「でも、僕はもう我慢できない。彼女のように現実から目を背けることは僕にはできなかった。何度も一人で魔操志を殺す計画を立てたほどだからね」


 バカにするような笑いを含んだ言い方だ。しかし、心では自分を卑下しているのか、言葉に温かみを感じない。


「任せてほしい。絶対に成功させるから」


 彼は鼻で笑うと「やっぱり町を良くしたいって話も嘘だったのか」と言った。


「俺たちを救ってくれよ」


 彼の言葉に大きく頷く。彼はオキタルを見ていなかったが、どうやら伝わった様で拳を天高く掲げた。

 オキタルは次の目的地へと向かってゆく。今までにないほどやる気に満ちた歩みだった。


最後までお付き合いいただき感謝いたします。

評価やコメントをいただけると、物語をより良くしていく大きなヒントになります。

ぜひ皆さまの声をお聞かせください!

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