勇敢な男
ザザンたちは部屋を出ると、軍が用意してくれた簡易テントへ向かっていた。
「この基地の兵士たち明らかに挙動不審だよな?」とザザン。
どうしてか二人は反応を示さない。彼は続ける。
「なんでだと思う? ジョン」
喉の奥から詰まったような音が聞こえ、ジョンはひとつ咳払いをした
「この話はテントに着いてからにしよう…。周りの兵士が気の毒だ。」
周囲を見渡す。
営火を見て体を震わせ怯えている者。体を丸めてブツブツと何かを呟いている者。酒におぼれている者。ザザンたちをニヤニヤしながら見ている者。
魔法が出る以前の戦では見たことのない光景だ。
心の中に罪悪感が湧き上がる。
敵ならまだしも、味方の兵士を馬鹿にした発言をした自分に反吐が出る思いだ。
「すまない、軽率だったな」
「別にいいんだ。次から気を付けてくれよな」
ザザンは静かにうなずいた。
いつもなら煽ってくるオキタルが何も言ってこないことが余計に重苦しくのしかかってくる。
重い沈黙の中、三人は足音だけを響かせながらテントへ向かった。気まずい空気のせいか、道のりが妙に長く感じられた。
テントに着くと、ザザンは逃げ込むように入ってゆく。そして、自分の寝具に座ると、ため込んでいた息を吐き出した。
屋根と床を布と撥水性のある動物の皮で雑に作ったテントが自分の世界を作り上げているように感じる。
「なんで壊れた兵士がこうも多いんだ?」とザザン。
「多分魔法だろう」とジョン。
「うむぅ…」
最前線で敵兵の攻撃を必死に盾で防いでいた時だった。
すると隣で戦っていた兵士が高らかに声を上げ、敵の元へ走り始める。ザザンは敵の攻撃を必死に防ぎながら、兵士が突撃していった先を目で追った。
ちょうど騎士に対し剣を振り下ろそうとしている瞬間だった。その騎士が剣を抜き去り迎え撃つかと思ったその時、剣ではなく、手を兵士に向けた。
鋭い風切り音のようなものが聞こえたと同時に、兵士の握っていた剣がずり落ち、膝から崩れ落ちていく。
首は滑るように落ち、ゴトッという鈍い音が耳に嫌に響いた。
脳が叫ぶ。逃げろと。だが、足は地に縫い付けられたように動かない。
騎士と目が合う。不気味な笑みを浮かべながら、手のひらをゆっくりとこちらへ向けた。
この先のことは、ほとんど覚えていない。生き延びることだけが頭を支配し、思考は霧に包まれていた。覚えているのは、無意識に背を向け、逃げ出した瞬間だけだ。
ザザンは記憶を抑え込もうと、剣の形をした十字架を首元から取り出し、ジョンに話題を振った。
「人がおかしくなる魔法でもあるのか?」
「……どうなんだろうなぁ。なにせ、魔法はここ最近出てきたばかりだしな」
「ーーそれはないんじゃないかな?」
「それは、どうしてなんだ?」とザザン。
「俺も思い出すんだ。あの日の事ーーー心が壊れる音がするんだ」
話を聞いていた二人は彼から目を背ける。
「彼らは壊れてしまったって訳か…」とザザン。
その言葉に下をうつむきながらオキタルは静かにうなずく。嫌な空気がテントを満たす。
「もしかすると、ノマギア神信仰も関係があるかもな」とジョン。
オキタルは眉をひそめ、ジョンの顔をじっと見つめた。ノマギア神という言葉に、聞き覚えがないようだった。
ザザンは首に掛けられた剣の形をした十字架を強く握りしめ、ノマギア神に思いをはせる。
ノマギア神信仰は、王国や帝国に根付く千年の歴史を持つ宗教であり、剣や槍など伝統武器による勇敢な死を美徳とし、これを守れば一生戦わずに済むセイレムへ、魔法や妖術で死ぬ者はバルハラという永遠の戦場に送られるとされている。
ザザンのように、剣の形をした剣十字とも呼ばれる十字架を持っていると、ノマギア神を信仰していることになる。
「最近は、宗教と言うよりも文化に近い扱いになっているらしいがな。もちろん、信仰している人も多いぞ」
現実に戻るとジョンがオキタルに説明しているところだった。しかし、話題を変えたところで嫌な空気は流れ続けている。
(何か話題は無いか……この空気感で沈黙はキツイぞ…)とザザン。
すると、オキタルが口を開いた。
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