一人
「俺は! 俺は帝国兵と戦うために傭兵になったんだ!」
「オキタル……」とニッケラン。
「みんながもし帝国軍についても、一人で戦う」
「オキタル! たとえ帝国軍人を殺せたとしても、行きつく先は何もないぞ!」
オキタルはニッケランを睨み付けた。しかし、諭すような表情に目を背けてしまう。
「お前らやめないか! こんなところで争っても仕方がないだろ!」とザザン。
しかし、二人は一歩も引かない。お互いに引き下がるような性格ではないのだ。
「お前ら、もし俺が王国につくと言ったら付いてきてくれるか?」とジョン。
脈絡のない言葉に皆、固まっていた。オキタルに関しては期待の目をしているが。
「オキタル以外のお前らは、帝国軍に付こうと考えてるんだろ?」
彼らは見合わせ、うなずいた。
「そうだな。だが無理だ。」
「なぜ⁉」とニッケラン。叫ばずにはいられない。
「帝国は傭兵を雇わない方針を取ったそうだ」
ジョンの声は冷え切っていた。
傭兵は負け戦には参加したくない。
報酬が支払われる確証のない王国側に、これ以上従軍したくないのだ。
しかし、優勢の帝国は雇ってくれない。それは、傭兵として死を意味する。
「てことは、王国軍として戦うしかないってこと?」
空気を読まずに、嬉しそうに言うオキタルにニッケランは怒鳴りつける。
「いい加減にしろ!」
「どう思ってるか、ニッケランだって知ってるよな!」
オキタルは少し泣きそうになっている。
「知ってるさ…。だがな、今の王国に従軍し続けたら死ぬだけだ」
「でも、なんで急に雇わなくなったんだよ?」
ザザンは流れを変えようとしてくれたのか、話を先に進めた。
「帝国が言うには、傭兵は信用できないそうだ」
「傭兵が信用できないって…なんか言い訳みたいだな」
その言葉にジョンはニヤリと笑う。
「そう、そこが問題なんだ」彼は続ける。
「帝国の本当の狙いが魔法技術の流出を防ぐことだとしたらどうだ?」
「そうか………王国が弱ってる今、魔法技術の独占は当然か……」とザザン。
「さて、この場合。俺たちはどうすればいいと思う?」
三人が顔を見合わせるのをみて「俺たちは王国軍に付くべきなんだ」とジョン。
「帝国につくメリットはないからな」
「…ないのか?」とニッケラン。
「今回の戦で十分に理解したつもりだが、王国に先は無さそうだぞ?」とザザン。
「そこなんだよ。もし俺たちが帝国軍に打撃を与えたらどうなる?」
オキタルが自信なさげに呟く。
「多く報酬がもらえる?」
「そう! それが答えなんだ」
(確かにな………だが………)とニッケラン。
「なぁ、ジョン。王国側につくってことは、さらに過酷になるってことか?」
「そうだ。まさに死線をくぐるような戦になるだろうな」
その言葉に全員の顔が強張った。
死線と聞き、そこに無いはずの肉が焦げた匂いを感じる。
ニッケランは頭を掻きむしりながらジョンに意見を募った。
「帝国の正規兵になるのはダメなのか?」
「それじゃぁ夢がないだろ」
「そうかぁ…」
強風が吹き荒れたのかドアから風笛が鳴った。
すると「俺は王国につく!」とザザンが叫んだ。
「なんで、王国側につくことにしたんだ?」
「もう正規兵になるのはごめんだ」
三対1。今まで助け合った仲間を捨ててまで他の道を歩もうとは思えなかった。
覚悟を決め、叫ぶ。
「俺も王国軍につく!」
「別に無理しなくていいんだよ? おっさん」とオキタル。
鼻を鳴らしながら、ニッケランは嘲笑の目をみせる。
「お前もな、オキタル。死線を簡単に乗り越えられると思うなよ?」
会話を聞いていたジョンが、ニヤつきながら話し始めた。
「よし! これからどうするか話始めようか。まず、次の侵攻は三か月後を予定しているそうだ」
「帝国は準備期間に攻めてこないのか?」とニッケラン。
「帝国は魔法技術で戦争をいつでも終わらせられると思ってるらしい。」
「どこからの情報なんだよ」
「王国には優秀な諜報機関があるらしい。まあ、偵察兵いわく、軍を展開したまま棒立ちらしいからな、諜報以前の問題さ」
すると、突然ジョンが手を鳴らした。
「よしっ! 話はこれぐらいにしよう。ニッケランも疲れているだろうしな」
「それじゃぁ、俺らはテントに戻るとするか!」とザザン。
「ちょっとまった! 俺はテントに行かなくていいのか?」
「弱ってるやつをテントに寝かせるわけにはいかないだろ?」とジョン。
「…すまん。ありがとう」
その言葉に、他の三人は笑顔を見せてくれた。珍しくオキタルも笑っていたのが少しうれしかった。
ニッケランは皆が部屋を出ていった後、ベッドの上で一人、言葉を転がしていた。
「次の戦。死ぬかもなぁ…」
初めて魔法を見た時を彼は思い出していた。
そこにないはずの焼死体の焦げた匂い。プスプスと肉の焼ける音が聞こえる。
「まさに死線をくぐるような戦になるだろうな」
ジョンの言葉が頭の中をどんどんと支配する。
彼は自分の腕を強くつかみ、ベッドの上で丸まった。
「うう…」
一人は怖い。怖くて怖くて、耐えられない。
「ダメだ俺…怖いよ父さん」
かすれた声を出しながら、部屋で一人、ニッケランは丸まっていた。
死が目前に迫るのを感じながら。
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