仲間たち
ニッケランは飯をもらうと、自分の部屋に戻ることにした。
部屋には男が三人。
背が低く日に焼けた男。体躯の良い背の高い男。金髪で色白の細身の男。
背が低いのはもちろんオキタル。残りの二人は、ザザンとレ=ジョンだ。
部屋に入るやいなや、オキタルが興奮した様子で言った。
「なんで呼んできた本人が居ないんだよ!」
「いや、すまない。どうしても腹が減ってしまって」
「チッ」
(俺にだけ歯向かうなぁ………)
子供とはいえ、自分ばかり攻撃されれば腹が立つ。しかし、彼の子供らしい姿を見ると嬉しい気持ちもあった。
「まぁまぁ、そこら辺にしないかお前たち」とレ=ジョン。
オキタルはそっぽを向いたが、その仕草にニッケランは驚いてしまう。
自分が注意したらそっぽを向くどころか、逆に噛みついてくる。
ニッケランは軽くジョンの肩を小突くと「さすがだな、ジョン。リーダーの風格が出てたぜ」
レ=ジョンはニッケランが所属する傭兵チームのリーダーで、仲間にはジョンと呼ばれている男だ。出が貴族のため苗字がついている。
傭兵チームと言っても、ニッケラン、オキタル、レ=ジョン、ザザンの四人なのだが。
「やめろよ。リーダーって言ってもたったの四人だぜ?」
ジョンは耳を赤らめていた。
その言葉を聞き、他の三人は笑い出す。
「いつも、恥ずかしいって言うけどさ、俺たちがここまで生き残れたのはジョンのおかげなんだぜ?」とザザン。
オキタルも「そうそう」と頷いている。
(この光景………生きてることを実感するな……)
ジョンとは四年前に出会った。ザザンとは三年前に。そして、二年前にオキタルと出会ったのだった。
ニッケランは数々の窮地をジョンが考え出した奇策で打開していったことを思い出していた。
彼が居なければ死んでいた戦いは無数にあった。そんな絶体絶命の窮地から救い出してくれた彼に皆感謝している。
「わかったよ皆。おとなしく感謝を受け取るとするよ」
ジョンが話すと同時に、ニッケランは彼について考え込んでいた。
彼の過去は誰も詳しく知らない。
知っていることは、元貴族であること、傭兵になったのは夢を実現するためだということぐらいだ。
彼はそれを少し不満に思っている。
確かに傭兵と言うのはお互いの過去を明かさずに付き合うことも可能な職業だ。しかし、もう出会って四年になるというのに、自分や仲間に対して何も打ち明けないというのは、信用されていないように感じるのだ。
「そうそう。素直に受け取ってくれた方が俺たちも嬉しいからよ!」
現実に耳を傾けると、ザザンがジョンに話している所だった。
ザザンは元王国兵士の傭兵だ。兵士時代に上官を殺してしまったためこの職に就いたのだと言う。
なぜ、殺してしまったのか詳しくは教えてくれないが、本人が言うには、「奴は踏み込んじゃいけない領域に踏み込んだ」だそうだ。
ニッケランは攻撃重視の戦士。オキタルは索敵重視の斥候。ジョンは策を練る司令塔。ザザンは防御重視の戦士。この組み合わせでチームを組んでいるのであった。
「あーすまない。一旦座らせてもらえないか?」とニッケラン。
「ああ、飯を食いたいのか。すまない、すまない」
ジョンはそう言うと、すぐに身を引いてベッドへの道を空けた。
「すまないなジョン、みんな。俺が呼んだのに飯を食い始めてしまって」
ベッドに座り込んだニッケランは真剣な面持ちになり「いきなりだがジョン。聞きたいことがある」と。
「………なんだ?」
「今回の戦はどんな感じだ?」
彼は元貴族ということもあり、軍の戦局会議に参加を許された数少ない傭兵の一人だ。
そのため、普通であれば知ることのできない情報も彼を通じて知ることが出来た。
「二百年戦争の中で一番ひどいって話だ」
「そんなに犠牲者が出たのか?」とニッケラン。
しかめっ面。余程なのだろう。ジョンのあのような表情を見たことは一度もない。
皆が身構え終えたことを察したのか彼は口を開く。
「……三十万だ」
「三十万⁉」
部屋に乾いた音がなった。ニッケランの手からパンが滑り落ちたのだ。
小競り合いであれば百人程度、小規模の戦なら300人ほど、大規模でも一万人程度の犠牲者というのが常識だ。
しかし、今回は三十万。この規格外すぎる数字に、嫌でも王国軍の悲惨さを実感するほかなかった。
「三十万って、何かの間違いだろ?」とザザン。
しかし、ジョンは首を横に振り「今回の戦で――王国はかなり有能な人材を失った。特に常備軍から」
皆がそれを聞いて黙り込んだ。それは、王国の軍事体制に関して理解しているからであった。
王国、帝国の軍事体制の大きな違いは、常備軍をどれだけの規模で保持しているかだ。
帝国軍の場合は常に三十万人の常備軍を保持しているのに対し、王国は二万人しか保持していない。これは、国の主要産業の違いが関係していた。
王国の場合は農業が主要産業であり、主に若者が率先して働いている。それに対し、帝国の場合は軍需産業であり、若者よりも中年層の人間が主に働いている。
そのため帝国軍は中年を仕事へ、若者を兵士に雇うことが出来る。それに対し、王国軍は兵士として若者を雇ってしまうと農作業が滞ってしまい、国の経済が危うくなってしまう。よって、戦争が起こるたびに徴兵する方式を王国は取っているのだ。
そこで、王国は常備軍をかなりの精鋭として鍛えていた。帝国の質の高い常備軍に負けないように。
すると突然、オキタルが叫んだ。
「鞍替えはしない!」
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