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赤き日  作者: 溶接作業
一章

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置き土産

 オキタルが部屋を出て数分。ニッケランは逃亡生活を始めて今に至るまで、まともな食事を取れていないことを思い出し、部屋を後にする。


「くぅ~腹が減った…」


 胃どころか体中の細胞が食料を欲しているのが分かる。


 しかし、食料を探すと言っても適当な部屋に侵入し、棚や保管している場所をあさるわけではない。


 ここは、ヘールズ駐屯地。非公式とは言え、従軍した傭兵に対し飯を提供しない軍はいないだろう。


 適当に兵士か女中を捕まえて、飯を提供してくれる場所を聞き出すことにする。


「おおっ! ここまで熱が伝わってくるな」


 部屋を出ると目の前には巨大な営火。


 まさに、戦争特有の光景。それを横目に、近くを歩いていた兵士に声をかけた。


「そこのあんた、ちょっといいかい?」

「ん?」 


 兵士はいきなり声を掛けられ体が飛び跳ねていた。

 しかし、ゆっくりと振り向き、声の主を見た途端に食いつくように話しかけてきた。


「おお! あんたか!」

(え?)


 明らかに自分を知っている口調。


 そんな口調で話しかけてきたために彼は焦っていた。


(ヤバイ、マジで誰だ)


 必死に頭を回し、特定を試みるができない。  


(くそぉ………聞くしかないなこりゃ)


「いや、申し訳ないのだが――すまない、気を悪くしないで聞いてほしい」

 

 兵士は首を傾げ不思議そうな顔をした。

 

「俺は病み上がりでな。 その―まだ本調子ではないからなかなか人の顔と名前を思い出せないんだ。そう、病み上がりだから」


 さすがに言い訳がましくて、思わず顔を隠したくなる。


 兵士の顔を恐る恐る伺うと、腑に落ちたような顔に変化していた。


「ああ、すまない。今の話し方だと俺とアンタが面識あるような話し方だったな」


 その言葉がさらに脳みそを空回りさせる。


(じゃぁ、マジで誰だよ)


 兵士から見ればニッケランは明らかに困惑している顔をしていただろう。


 そんな顔を見てか兵士が彼の肩を叩きながら話し始めた。


「アンタがこの基地に着いたときに対応したのが俺だったんだよ」


「あぁ~」


 (ややこしいことしやがって)と内心では思っていたが、錯乱した状態の自分を助けてくれた恩人に、失礼な態度を取るわけにはいかない。


 腹が減っているから上手く理解できなかったと自分に言い聞かせることにした。


「その感じ、あんた腹減ってんだろ?」

「え? ああ、そうなんだよ」


 なぜ腹を空かしていることが分かったのだろう。


 他人から見たら、よほど自分はやつれた姿になっているのだろうか。


「飯なら、あの営火の奥におる簡易テントの中で配ってるぞ」

「お? ああ、そうなのか。悪いな」


 自分を助けてくれた兵士との会話をここで終わらせていいのだろうか。彼は不安になり、続ける。


「ところで、今回の戦。どんな感じになってんだ?」


 彼は最前線より少し下がった場所で戦闘を繰り返していた。


 最前線は見えていたが、敵との戦闘を繰り返しながら、しっかりと観察する余裕はなかった。


「あんた、長いこと傭兵やってんだろ?」


 兵士の顔は強張り、口元か震えていた。


「え? ま、まぁな。でもなんで分かったんだ?」

「アンタみたいな雰囲気の奴は大概手練れだ。」


 まずいことを聞いたのかもしれない。

 心臓が紐で締め付けられるような圧迫感を覚えた。 


「じゃぁ、アンタも見たことあるんだろ? 魔法」


 嫌な予感が的中した。


「あ、ああ。」


「俺は前線に居たんだ」


 ニッケランは、何を兵士が話そうとしているのかを漠然と理解していた。



「始まりは流れが良かった。こちら側が優勢で、一番槍の騎士が敵を蹴散らして、士気も最高潮で………」


「…ああ、そうだな」


 兵士が思い出に囚われ始めたとき、彼も思い出の中へと引きずり込まれていった。


 戦も後半。大地が敵の血で染まり、勝利まで目前だった時に魔法使いが現れた。


 奴が隣で戦っていた騎士に手を向けて何かを打ち出した瞬間、騎士がまるで巨大なロウソクのように火柱を上げながら燃えた。肉が焦げ、油の匂いか漂い、熱が頬をなでた。


「目の前で! 目の前で人が燃えたんだ!」

 あまりの叫び声に現実に引き戻される。

「おい、落ち着け」

「あんなのどうしろってんだ!」


 彼の言葉がニッケランに刺さる。魔法は彼にとっても恐ろしいものだった。


「剣とか矢とかで死ぬのはいい! 覚悟はできてる。だがあんな死に方はないだろ!」


 恐怖におののいている姿。それを見てもニッケランは何も言えずにいた。


 魔法は恐怖そのものだ。


 火の玉が飛んできたかと思えば、いきなり人が燃えてしまう。そんな人知を超えたものに、勝つどころか生き残れる自信もなかった。


 兵士は頭を抱え、地面に崩れ落ちる。


「あんな死に方じゃセイレムに行けない!」


 何をすればいいのか分からない。硬直し、呆然と眺めているニッケランに「そこのお前! 何をした!」と誰かの声。


 彼らの様子を見ていた兵士が突然話しかけてきたのだ。話しかけてきたというよりは、問い詰めてきたと言った方が正しいだろう。


「何がって何がだ?」

「目の前の男に何をしたのかと聞いている!」

「戦況について聞いたら錯乱し始めたんだ」


 理由を聞いたとたん兵士は打って変わって、落ち着いた様子になった。

 しかし、威圧感はそのままだ。


「…話題には気をつけろ。今回の戦は、ただの負け戦ではないのだから。」


 問い詰めてきた兵士はそれだけ言うと、乱心した彼を引っ張って、そそくさと兵舎の方へと移動していった。


 それを遠い目で見ていたニッケランは飯がもらえる場所へと歩き始めた。

 自分もあの兵士のように壊れてしまうのだろうか。


 目の前で燃え上がっている営火が、なぜだか体を冷やす。


 ニッケランは自分の未来を思いながら、目的地へと歩を進めていった。


2日に一回投稿と言ってましたが、ある程度のところまでは毎日投稿しようかなと考えました。変に短い話だと一日に二回投稿するかもしれないです。


最後までお付き合いいただき感謝いたします。

評価やコメントをいただけると、物語をより良くしていく大きなヒントになります。

ぜひ皆さまの声をお聞かせください!

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