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赤き日  作者: 溶接作業
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勇敢な男

 ザザンたちは部屋を出ると、軍が用意してくれた簡易テントへ向かっていた。

 彼は二人の前を歩きながら、振り向かずに声を出す。


「この基地の兵士たち明らかに挙動不審だよな?」


 後ろにいる二人は何故か反応を示してくれない。


「なんでだと思う? ジョン」


 喉の奥から詰まったような音が聞こえ、ジョンはひとつ咳払いをした


「この話はテントに着いてからにしよう…。周りの兵士が気の毒だ。」


 周囲を見渡す。


 営火を見て体を震わせ怯えている者。体を丸めてブツブツと何かを呟いている者。酒におぼれている者。ザザンたちをニヤニヤしながら見ている者。


 魔法が出る以前の戦では見たことのない光景だ。


 心の中に一気に罪悪感が湧き出てきた。敵ならまだしも、味方の兵士を馬鹿にした発言をした自分に反吐が出る思いだ。


 ザザンはうつむきながら拳を握る。


「すまない、軽率だったな」


 その言葉に、ジョンが柔らかい口調で言ってきた。多分後ろで微笑んでいるだろう。


「別にいいんだ。次から気を付けてくれよな」


 その言葉に静かに無言でうなずいた。


 いつもなら煽ってくるオキタルが何も言ってこないことが余計に重苦しくのしかかってくる。


 重い沈黙の中、三人は足音だけを響かせながらテントへ向かった。気まずい空気のせいか、道のりが妙に長く感じられた。


 テントに着くと、ザザンは逃げ込むように入った。そのあとをジョン、オキタルと続く。


 ザザンは自分の寝具に座ると、ため込んでいた息を吐いた。


 屋根と床を布と撥水性のある動物の皮で雑に作ったテントが自分の世界を作り上げているように感じた。


 ジョンとオキタルが同じように寝具に座ったのを確認してからゆっくりと口を開く。


「なんで壊れた兵士がこうも多いんだ?」


 ジョンは目を閉じ、腕を組みながらうなり始めた。

 考えをまとめているというよりは、意見を述べるかどうか迷っている様子だ。


 すると、突然、目を開き答え始めた。


「多分魔法だろう」

「うむぅ…」


 やはりかと思うと同時に、嫌な思い出が蘇って来た。


 例の戦では最前線で敵兵の攻撃を必死に盾で防いでいた。


 すると隣で戦っていた兵士が高らかに声を上げ、敵の元へ走り始める。ザザンは敵の攻撃を必死に防ぎながら、兵士が突撃していった先を目で追った。


 ちょうど騎士に対し剣を振り下ろそうとしている瞬間だった。その騎士が剣を抜き去り迎え撃つかと思ったその時、剣ではなく、手を兵士に向けた。


 鋭い風切り音のようなものが聞こえ、それと同時に兵士の握っていた剣がずり落ち、膝から崩れ落ちていく。

 次の瞬間、首が滑るように落ち、ゴトッという鈍い音が耳に嫌に響いた。


 現実味のない光景にザザンの体は凍り付いた。なにが起きたのか理解できず、人知を超えた何かが目の前で起こっていると本能が悟っている。


 脳が叫ぶ。逃げろと。だが、足は地に縫い付けられたように動かない。


 騎士がこちらを向く。不気味な笑みを浮かべながら、手のひらをゆっくりと向けてきた。

 

 この先のことは、ほとんど覚えていない。生き延びることだけが頭を支配し、思考は霧に包まれていた。覚えているのは、無意識に背を向け、逃げ出した瞬間だけだ。


 嫌な思い出に、やけに拳に力が入る。変な汗をかいて気持ちが悪い。


 ザザンは必死に記憶を振りほどき、剣の形をした十字架を首元から取り出し、ジョンに話題を振った。


 思い出に入り浸るより、別の話をした方がましだ。


「人がおかしくなる魔法でもあるのか?」

「――どうなんだろうなぁ。なにせ、魔法はここ最近出てきたばかりだしな」


 ザザンもジョンも腕を組み、唸り始めた。

 突然オキタルが小さく呟いた。


「それはないんじゃないかな?」


 ジョンが「え?」という間抜けな声を出した。


「俺も思い出すんだ。あの日の事」


 言葉に二人ははバツの悪そうな顔をした。

 しかし、ジョンは話を続けた。


「すまないオキタル。それとこれがどう関係しているか詳しく教えてくれないか?」


 すこし暗い顔を見せたオキタルだったが話してくれた。


「心が壊れる音がするんだ」


 その言葉を聞いてジョンは肩を落としていた。

 ザザンはこれ以上語らせるのは、自分にとっても辛かったので、自分が積極的に話すことにした。


「なら、彼らは壊れてしまったって訳か…」


 その言葉に下をうつむきながらオキタルは静かにうなずいた。

 ジョンも同じ考えなのか、話を積極的に進めてきた。


「思い出したくない反動かもな…」


 その言葉を聞いて妙に納得した。

 自分も魔法の事を思い出すと脂汗が出てくる。それと一緒なのだろう。


「もしかすると、ノマギア神信仰も関係があるかもな」


 オキタルは眉をひそめ、ジョンの顔をじっと見つめた。ノマギア神という言葉に、聞き覚えがないようだった。

 ザザンは首に掛けられた剣の形をした十字架を強く握りしめ、ノマギア神に思いをはせる。


 ノマギア神信仰は、王国や帝国に根付く千年の歴史を持つ宗教であり、剣や槍など伝統武器による勇敢な死を美徳とし、これを守れば一生戦わずに済むセイレムへ、魔法や妖術で死ぬ者はバルハラという永遠の戦場に送られるとされている。


 ザザンのように、剣の形をした剣十字とも呼ばれる十字架を持っていると、ノマギア神を信仰していることになる。



「最近は、宗教と言うよりも文化に近い扱いになっているらしいがな。もちろん、信仰している人も多いぞ」


 ふと耳を傾けると、ジョンがオキタルにノマギア神信仰について語っていた。聞き手のオキタルはしわを寄せて難しい顔をしている。 


 すると会話がひと段落つき、テントの中は静まり返った。聞こえる音は外の音だけだ。


 少しの時間が経った後、沈黙を破るように、オキタルが口を開いた。


最後までお付き合いいただき感謝いたします。

評価やコメントをいただけると、物語をより良くしていく大きなヒントになります。

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