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赤き日  作者: 溶接作業
二章

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潜入

「ところで、決着はついたか?」


 誰に問を向けたのか分からず、ニッケランは食事を中断し、長老を見る。どうしてかこちらを見ていたので、慌てて答えた。


「はい。魔操志を討つことに成功し、撤退へと追い込みました」


 長老は満足そうにうなずき、どのように打ったのかを聞いてきた。


「そうですね…奴にそこのオキタルが毒矢を打ち、衰弱したところを私とエイリが討ちました」

「そんな綺麗な終わり方じゃなかっただろ」


 エイリが笑った。


「ほう。苦戦した様じゃな?」


 長老が興味深そうに聞く。それにニッケランが答える。


「えぇ。かなり追い詰められましたよ…正直あと一歩で死んでましたね」


 苦笑いをした彼の姿に長老は笑っていた。


「そうか、そうか。しかし、勝ったことは事実。大いに勝利を喜ぼうではないか」


 それを否定するものは居ない。全員が食事を再開し、前日のような盛り上がりを見せた。

 酒を飲み、気分が良くなったところで扉が開いた。後ろを振り向くと、ラキアが立っていた。


「おお! ラキア! 生きてたんだなぁ」

「勝手に殺すな」


 すっかり酔いが回ったエイリに冷静に彼女は反応した。


「エイリも一緒に食事だ! 遠慮するな、いっぱいあるからなぁ!」


 長老もすっかり高揚している。それに小さく頷いた彼女も食事を始めた。


「敵の様子はどうだ?」


 ミャアドの質問だ。


「完全に撤退したよ。森の中に敵は居ない」


 皆が安堵した。何日間も戦うことを予想していたことを考えると戦果は十分だと言える。

 ここで気になる事が浮かんだ。ニッケランは彼女に質問をする。


「敵にとてつもない弓兵が居なかったか?」


 彼女の手が止まり、こちらを凝視した。目つきが悪いことも相まって、激怒しているようにしか見えない。

 しかし、見た目と裏腹に冷静な答え方をしてくれた。


「見たよ。勝てなかった」


 答えに皆が困惑し顔を見合わせた。勝てなかったという割には何事もなさそうだが。


「何? 死んでないとおかしい?」

「いや、そういう意味じゃ…」


 さすがに失礼な事をしたと思い、ニッケランは反省した。謝罪しようと口を開けたが、彼女の方が早かった。

 自然に溶け込むような色の服を着た彼女は腕をまくり上げ、皆の前に突き出した。


 貫通はしていないが、明らかに矢に射られた傷跡が残っている。


「大丈夫なのかそれ?」


 エイリが心配そうに聞いた。


「毒とかは無いし、中に破片とかも残ってない。後は癒えるのを待つだけ」


 射られた本人がこの中で一番冷静な状況におかしな気分になってしまう。ニッケランは謝罪をした後、質問を再度する。


「失礼な事を聞いてしまってすまなかった。それで、どうなったんだ? その戦いは」

「お互いに一射ずつだったからね。私のは外れて、相手のは…」


 そうか。と一言で会話は終わった。この話をこれ以上、掘り返すことはしなかった。

 話は今後の戦の動向へと移ってゆく。


「――それで今後はどのように?」


 ジョンが言った。それに長老が反応する。


「そろそろ、外にも兵を向けなくてはなぁ…今回でどれほど兵を失った?」

「そうですね…最低でも五百は」


 ラキアと長老は唸った。想定していたよりも相当早く戦は終わったにも関わらず、この人数だ。帝国内部に送る兵士の数は相当限られてしまうだろう。


「エイリ。考えはあるか?」

「そうですね…一般の兵を派遣することは難しいでしょう。むしろ、少数精鋭で村や町を奪還し、戦力を伸ばす方がいいかと」


 長老は話を聞き大きく頷いた。


「よろしいですか?」


 ミャアドが手を上げ、声を上げた。

 長老が一つうなずいた。


「では……ここから西に真っすぐ行くと、イクト町に着きますが、そこを帝国兵が占拠したとの報告が」

「規模は?」


 先ほどの様子とは打って変わって冷静なエイリが聞いた。


「二千ほどと」

「そんな規模の町じゃないだろう? ……基地か」


 どうやら敵は上戸の森へ進軍するための基地として町を占領したようだった。


「内部の様子は?」


 長老の質問に彼は続ける。


「潜入したわけではないので何とも…しかし、市民が一度、抵抗した際、見せしめで殺されたものが大勢いるとの報告が」

「なぜそれが?」

「さらし首がズラ―と…」


 ミャアドの言葉に嫌な想像が膨らむ。帝国内部でも特に軍は魔操志の手によって腐ってしまったようだ。


「魔操志は?」

「居ないらしい」


 ジョンの質問にミャアドは即座に答えた。しかし、それが言える理由が分からない。

 彼が言う。


「今回倒した魔操志があの町を牛耳っていた奴だ。つまり、今いるのはその下の、力に屈した者たちだ」


 ジョンが「一般の兵は?」と質問。


「上の奴を殺せば、こちら側につくだろう。恐怖によって支配されているだけだからな」


 村を攻めるには十分な条件だ。では、誰が向かうのか。


「ウーム…エイリお前は残るとして…ジョン殿にも残ってほしい…あなたは指揮が得意そうだ」


 長老の言葉に二人はうなずいた。どうやら、今回新たにこちら側についた兵士たちを練兵して欲しいとのことだ。


「俺は残るぞ。大して強くないし、足手まといだ」


 ヤクトンが大きく言った。それにミャアドも同調する。


「じゃぁ、俺もだな」


 ヤクトンが一瞬、ミャアドを見たが特に反対する様子もない。

 これで残るはニッケラン、ザザン、オキタル、ラキアの四人だ。

 長老が口を開く。


「ラキア。町の位置は分かるか?」


 彼女は小さく頷いた。

 ニッケランは最初から参加する予定だった。オキタルとザザンも同じなのか、特に何かを言おうとする様子もない。


「決定だな」


 ニッケランが参加の意を示す。それにラキア、ザザン、オキタルもうなずいた。

 長老が一つうなずくと、口を開く。


「こういったことは出来るだけ早い方がいいじゃろう…明日にでも出立してくれ」


 ラキアが頭を下げた。すると、こちらを向き、話始める。


「作戦を立てよう。二千人相手に正面から行くわけにはいかないでしょ?」


 ニッケランはうなずいた。すると、ジョンが口を開いた。


「そのイクト町はここからどのぐらいの距離に?」

「半日ほど」


 ラキアの回答に、ジョンは何かを考え始める。


「この上戸の森の隣に町はあるのか?」

「いや、名のない平野が間にある」


 彼女の回答に何かを考えついたのか、彼は話を進める。


「帝国軍の中に紛れ込むってのはどうだろう? 何人か捕虜として装備はあるわけだし、紛れることは可能だろ?」

「確かに、一般の兵士たちの名前を記した資料なんぞ無いしな」


 長老の言葉が後押しする。ジョンの作戦は町を内部から崩壊させるにはうってつけだ。


「潜入は出来るとして、その後はどうする」


 ザザンの質問だ。


「大まかには決められるが、内部がどう動くかは予想でしかない。俺の案が不可能そうなら、お前たちで臨機応変に対応してくれ」


 四人はジョンにうなずいた。彼は続ける。


「予想では、町のトップは魔操志ではなく、腕の立つ人間が立っているはずだ。そいつを暗殺し、その仲間も消してしまえば、お前たちが町を支配できる」


「そんな簡単にいくかね?」


 ニッケランが言った。


「確かに、口で言うのは簡単だ。だが、最終的にはこの流れになる事は間違いないんだ。とりあえず、覚えておいてくれ。


 それで、重要なのはここからだが…ニッケランたちは町に着いたら、とりあえず何もせずに情報収集に努めてほしい。いきなり暴れられては得られる情報も少なくなってしまいそうだしな」


「情報収集って言うのは、一般の兵に対してってこと?」

「そうだ」


 ラキアの質問に彼はうなずく。


 一般の兵士に紛れて潜入することを考えると、位の高い兵士に近づくことは難しいだろう。そのことを考えると、帝国の内情をある程度知っている一般の兵士たちに内情を聞くことが正しいことは明白だ。


「よし、とりあえず、細かいことは潜入してから俺たちが調節するってことでよかったか?」


 ザザンが言った。それにジョンは大きく頷いた。


「では、支度を進めるとするかな。何か欲しいものがあれば何でも言ってくれ。と言ってもこの森の中で手に入れられるものだがな」


 長老の言葉にオキタルが反応する。


「魔操志に使った毒の調合に必要なものを探してほしい」


 長老は気前よくうなずくと、オキタルと共に外へと出ていった。

 ジョンはエイリ、ミャアド、ヤクトンと共に帝国の地図がある部屋へと、ラキアは弓の手入れと矢の調達に。ニッケランとザザンは武器の手入れのために自分たちの家へと戻ってゆく。


 道中、ザザンが口を開いた。


「それにしても魔操志との戦い、無様だったな」

「うるせぇなぁ」


 ザザンは嫌な笑みを見せ、からかってくる。


「魔操志を二度も倒した英雄だってのに、実情は泥試合だったな」

「現実ってのはそういうもんだろ」


 ザザンは「ちげぇねぇ」というと大きく笑った。


「でも、やっぱりわからないことがあるんだよな」


 ニッケランは疑問をこぼす。


「エイリが奴の顔に剣を突き刺して、終わらせた後、奴の顔から煙が出始めたんだよな」

「お前殺した魔操志も燃えたらしいよな?」


 今回の魔操志は燃えカスになってしまったわけではないが、少なくともかなりの発熱はしているようだった。何が原因かはわからない。もしかすると、今後、倒したにも関わらず、大爆発を起こすような者が出てくるかもしれない。


「まぁ、考えても仕方ねぇよ。そのうち分かる事さ」


 ザザンが諦めたように言うと、ニッケランもそれに合わせた。

 話し終えるとちょうど家の前だった。中に入り、それぞれの部屋に戻る。


 ニッケランはロングソード、ハーフソードを共に抜き去り、手入れを開始した。

 ロングソードはいつも通りの様子で、特に何かが壊れている様子もない。


 しかし、ハーフソードは違う。


 特に切れ味が変わった様子もなければ、欠けたとか、変形してしまったわけでもない。

 色が変わってしまったのだ。銀色の刀身が所々、青色に反射するようになった。


 あの電流女が触れたことが原因なのだろうか。正確なところは分からないが、性能に問題は無さそうだ。ニッケランは気にせず、手入れを続けた。


 無心に続けていると、ドアがノックされる。


「どうぞ」


 ニッケランの声が届き、ドアが開く。そこにはジョンが立っていた。


「どうしたんだ?」


 先ほどの集会で話は終わったものと考えて居た。にもかかわらず、ジョンがやって来るということは何かがあるのだろうか。


「いや、どうってことは無い。お前に帝国兵の装備を渡しに来たんだ」


 すると、ドアの横に立てかけていたのか装備一式彼は持ち上げた。

 帝国の一般的な装備だ。これを着てしまえば、ニッケランが反乱軍であると見分けのつくものは一人も居ないだろう。


 それを部屋に置き終えたジョンは、隣に腰を掛けた。


「出立は明日の朝いちばんだ。出来るだけ、奴らと同じタイミングで町に入りたいだろ?」

「まぁ、怪しまれたくはないな…でも、もし何かを聞かれたら?」

「その時は反乱軍の追ってから隠れるのに時間を食ったとでも説明しろ」


 ニッケランがうなずいたのを見て、ジョンは満足そうに微笑んだ。すると、立ち上がり部屋を後にする。


「それじゃぁ、町を奪還して来いよ」

「任せろ」


 ジョンはドアを閉め、去ってゆく。ニッケランは適当に支度を済ませ、明日に備えて寝具に体を沈めた。


 戦闘の後ということもあり、意識は一瞬で遠のいていった。


最後までお付き合いいただき感謝いたします。

評価やコメントをいただけると、物語をより良くしていく大きなヒントになります。

ぜひ皆さまの声をお聞かせください!

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