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赤き日  作者: 溶接作業
6/25

一人

 「やはりか」とニッケランは思っていた。

 オキタルは話を続ける。


「俺は! 俺は帝国兵と戦うために傭兵になったんだ!」

「オキタル……」


 ニッケランはオキタルに優しくささやいた。

 しかし、オキタルはそれを無視する。


「みんながもし帝国軍についても、一人で戦う」

「オキタル!」


 殴りたい衝動がこみ上げ、拳を握りしめた。しかし、暴力で解決することではない。感情を押し殺し、オキタルの肩に手を置いて目を見つめた。


「たとえ帝国軍人を殺せたとしても、行きつく先は何もないぞ!」

 

 オキタルが睨みつけてきた。しかし、ニッケランの目を見て顔を伏せてしまった。

 

 するとザザンが慌てて間に入る。


「お前らやめないか! こんなところで争っても仕方がないだろ!」


 しかし、二人は一歩も引かない。お互いに信念を貫き通そうとしているのだ。

 そんな一触即発の状況でいきなりジョンが語りだした。


「お前ら、もし俺が王国につくと言ったら付いてきてくれるか?」


 突拍子で脈絡のない言葉に皆、固まっていた。オキタルに関しては期待の目をしていたが。

 ジョンは目配せをしながら話を続ける。


「オキタル以外のお前らは、帝国軍に付こうと考えてるんだろ?」


 ニッケランとザザンは一瞬顔を見合わせ、うなずいた。


「そうだな。だが無理だ。」


 言葉を聞いたニッケランとザザンは目を見開いた。

 ニッケランは思わず叫ぶ。


「なぜ⁉」

「帝国は傭兵を雇わない方針を取ったそうだ」


 ジョンの声は冷え切っていた。

 それに反応してか、全身の血が冷えるように感じた。


 傭兵は負け戦には参加したくない。

 報酬が支払われる確証のない王国側に、これ以上従軍したくないのだ。

 しかし、優勢の帝国は雇ってくれない。それは、傭兵として死を意味する。


「てことは、王国軍として戦うしかないってこと?」

 

 空気を読まずに、嬉しそうに言うオキタルにニッケランは怒鳴りつける。

「いい加減にしろ!」

「どう思ってるか、ニッケランだって知ってるよな!」


 オキタルは少し泣きそうになっている。

「知ってるさ…。だがな、今の王国に従軍し続けたら死ぬだけだ」

「でも、なんで急に雇わなくなったんだよ?」


 ザザンは流れを変えようとしてくれたのか、話を先に進めた。

 ジョンが答える。


「帝国が言うには、傭兵は信用できないそうだ」

「傭兵が信用できないって…なんか言い訳みたいだな」


 その言葉を聞いてジョンはニヤリと笑いながら語り始める。


「そう、そこが問題なんだ」


 言葉を聞いて、皆が目を見合わせていた。

 すると、ジョンは部屋の中をゆっくり歩きながら静かに語り始めた。


「仮にだ。帝国の本当の狙いが魔法技術の流出を防ぐことだとしたらどうだ?」


 その言葉を聞き、ザザンが感嘆の声を漏らしている。


「さて、この場合。俺たちはどの軍に付くべきだと思う?」

「お、俺に分かるわけないだろ…」


 ジョンは突然、ニッケランに問いかけた。それに彼は焦る事しかできなかった。

 ジョンは笑いながら続けた。


「俺たちは王国軍に付くべきなんだ」


 ニッケランは疑問を含んだ目を伝え、ジョンは答えた。

 予想から外れた答えを聞き、ザザンが声を上げる。


「帝国につくメリットがないからだ」

「…ないのか?」

「今回の戦で十分に理解したつもりだが、王国に先は無さそうだぞ?」


 その言葉を待っていたかのようにジョンが飛びついた。


「そこなんだよ。もし俺たちが帝国軍に打撃を与えたらどうなる?」


 ザザンが自信なさげに呟く。


「多く報酬がもらえる?」

「そう! それが答えなんだ」


「確かにな」とニッケランは思ったが、素直には喜べなかった。

 王国につくのは博打要素が多すぎるからだ。


 少し考えた後、ニッケランはジョンに尋ねる。


「なぁ、ジョン。王国側につくってことは、さらに過酷になるってことか?」

「そうだ。まさに死線をくぐるような戦になるだろうな」


 その言葉に全員の顔が強張った。

 死線と聞き、そこに無いはずの肉が焦げた匂いを感じる。

 ニッケランは頭を掻きむしりながらジョンに意見を募った。


「帝国の正規兵になるのはダメなのか?」

「それじゃぁ夢がないだろ」


 ニッケランは腕を組み、下を向いてうなり始めた。


「そうかぁ…」

「俺は王国側につく!」


 突然、ザザンが叫んだ。どれにニッケランは反応を示す。


「なんで、王国側につくことにしたんだ?」

「もう正規兵になるのはごめんだ」


 三対1。今まで助け合った仲間を捨ててまで他の道を歩もうとは思えなかった。

 覚悟を決め、自分も叫ぶ。


「俺も王国軍につく」


 その言葉にオキタルが食らいついてきた。


「別に無理しなくていいんだよ? おっさん」


 鼻を鳴らしながら、ニッケランは嘲笑の目をみせる。


「お前もな、オキタル。死線を簡単に乗り越えられると思うなよ?」


 会話を聞いていたジョンが、ニヤつきながら話し始めた。


「よし! これからどうするか話始めようか。まず、次の侵攻は三か月後を予定しているそうだ」


 ニッケランはふと気になる事が出てきた。


「帝国は準備期間に攻めてこないのか?」

「帝国は魔法技術で戦争をいつでも終わらせられると思ってるらしい」

「どこからの情報なんだよ」

「王国には優秀な諜報機関があるらしい」

「ほぉー?」


 ニッケランは眉を上げ感嘆の声を漏らしていた。

 すると、突然ジョンが手を鳴らした。


「よしっ! 話はこれぐらいにしよう。ニッケランも疲れているだろうしな」


 ニッケランは笑顔をジョンへ向け、彼も笑顔でそれを返した。


「それじゃぁ、俺らはテントに戻るとするか!」


 それにオキタル、ザザンがうなずき、部屋のドアの方へ移動し始めた。


「ちょっとまった! 俺はテントに行かなくていいのか?」


 突然、ジョンが笑い出した。


「弱ってるやつをテントに寝かせるわけにはいかないだろ?」


 頬を赤らめながらニッケランは呟いた。


「…すまん。ありがとう」


 その言葉に、他の三人は笑顔を見せてくれた。珍しくオキタルも笑っていたのが少しうれしかった。









 ニッケランは皆が部屋を出ていった後、ベッドの上で一人、言葉を転がしていた。


「次の戦。死ぬかもなぁ…」


 初めて魔法を見た時を彼は思い出していた。


 次は自分が燃えて死ぬかもしれないという気持ちに駆られ、心臓が針に刺された感覚がする。

 そこにないはずの焼死体の焦げた匂いがし、プスプスと肉の焼ける音が聞こえる。

 記憶が心を侵食し、体が震えてしまう。


「まさに死線をくぐるような戦になるだろうな」


 ジョンの言葉が頭の中をどんどん支配してくる。

 支配してくるほどに心は縮こまってゆく。自分の腕を強くつかみ、ベッドの上で丸まった。


「うう…」


 一人は怖い。怖くて怖くて、耐えられない。

 抑えきれず漏れてしまった声が部屋の中で響く。


「ダメだ俺…怖いよ父さん」


 かすれた声を出しながら、部屋で一人、ニッケランは丸まっていた。

 死が目前に迫るのを感じながら。


 一人は怖いぜぇ! 

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