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赤き日  作者: 溶接作業
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仲間たち

 ニッケランは飯をもらうと、自分の部屋に戻ることにした。

 

 飯を持っていない方の手で部屋のドアを開けると中に男が三人。


 背が低く日に焼けた男。体躯の良い背の高い男。金髪で色白の細身の男。 

 背が低いのはもちろんオキタル。残りの二人は、ザザンとレ=ジョンだ。


 部屋に入るやいなや、オキタルが興奮した様子で問い詰めてきた。


「なんで呼んできた本人が居ないんだよ!」


 ニッケランは「その通りだな」と思い、謝ることにした。茶化すことも考えたが、怒りに油を注ぐ気がしてやめた。


「いや、すまない。どうしても腹が減ってしまって」


 オキタルは不機嫌な顔をし、睨んできた。


「チッ」


 ワザと怒りを伝えるがための舌打ち。それを聞いて少し苛立った。

 しかし、子供らしさを感じてうれしい気持ちが勝った。


「まぁまぁ、そこら辺にしないかお前たち」


 レ=ジョンが自分とオキタルの間に入って来た。


 オキタルはそっぽを向いたが、その仕草にニッケランは驚いてしまった。


 自分が注意したらそっぽを向くどころか、逆に噛みついてくる。


 ニッケランは軽くジョンの肩を小突くと、口を開いた。


「さすがだな、ジョン。リーダーの風格が出てたぜ」 


 レ=ジョンはニッケランが所属する傭兵チームのリーダーで仲間にはジョンと呼ばれている男だ。出が貴族のため苗字がついている。


 傭兵チームと言っても、ニッケラン、オキタル、レ=ジョン、ザザンの四人なのだが。


「やめろよ。リーダーって言ってもたったの四人だぜ?」


 ジョンは耳を赤らめていた。


 その言葉を聞き、他の三人が笑い出す。しかし、チームの全員がジョンをリーダーとして尊敬しているのは事実であった。


 やけにテンションが高い声をザザンは発する。


「いつも、恥ずかしいって言うけどさ、俺たちがここまで生き残れたのはジョンのおかげなんだぜ?」


 オキタルは「そうそう」と便乗するように言葉を重ねた。


 ニッケランはその様子に微笑む。


 ジョンとは四年前に出会った。ザザンとは三年前に。そして、二年前にオキタルと出会ったのだった。

 ニッケランは数々の窮地をジョンが考え出した奇策で打開していったことを思い出していた。

 

 彼が居なければ死んでいた戦いは無数にあった。そんな絶体絶命の窮地から救い出してくれたジョンに皆感謝しているのであった。


「わかったよ皆。おとなしく感謝を受け取るとするよ」


 肩を落とした様子でジョンが言葉を言うと同時に、ニッケランはジョンについて考え込んでいた。


 彼の過去は誰も詳しく知らない。


 知っていることは、元貴族であること、傭兵になったのは夢を実現するためだということぐらいだ。

 それにニッケランは少し不満に思っていた。


 確かに傭兵と言うのはお互いの過去を明かさずに付き合うことも可能な職業だ。しかしもう出会って五年になるというのに、自分や仲間に対して何も打ち明けないというのは、信用されていないように感じるのだ。


「そうそう。素直に受け取ってくれた方が俺たちも嬉しいからよ!」


 現実に耳を傾けると、ザザンがジョンに話している所だった。


 ザザンは元王国兵士の傭兵だ。兵士時代に上官を殺してしまったためこの職に就いたのだった。

 なぜ、殺してしまったのか詳しくは教えてくれないが、本人が言うには、「奴は踏み込んじゃいけない領域に踏み込んだ」だそうだ。


 ニッケランは攻撃重視の戦士。オキタルは索敵重視の斥候。ジョンは策を練る司令塔。ザザンは防御重視の戦士。この組み合わせでチームを組んでいるのであった。



 ニッケランはジョンや仲間について一通り考え終わると、軽く手を上げ、話始める。


「あーすまない。一旦座らせてもらえないか?」

「ああ、飯を食いたいのか。すまない、すまない」


 ジョンはそう言うと、すぐに身を引いてベッドへの道を空けた。


「すまないなジョン、みんな。俺が呼んだのに飯を食い始めてしまって」


 そう言いながらベッドへ移動し、腰を掛け、真剣な顔でジョンを見た。


「いきなりだがジョン。聞きたいことがある」


 ニッケランの雰囲気からか、彼は眉毛を傾けながら聞いてきた。


「なんだ?」

「今回の戦はどんな感じだ?」


 彼は元貴族ということもあり、軍の戦局会議に参加を許された数少ない傭兵の一人だ。

 そのため、普通であれば知ることのできない情報も彼を通じてニッケランたちは知ることが出来た。


 ジョンは話を聞いた途端、苦い顔をした。


「二百年戦争の中で一番ひどいっていう話だった」

「そんなに犠牲者が出たのか?」


 ニッケランが聞くと、ジョンは急に塞がったように口ごもった。そんな姿を見て他の三人は身構えた。

 魔法で死んだ者を全員見たことがあったこともあり、今回の戦の残酷な現状を薄々理解していたからだ。


「……三十万だ」

「三十万⁉」


 ジョンの被害報告に場が氷結する。

 驚きのあまり、握っていたパンを皿に落とした。


 小競り合いであれば百人程度、小規模の戦なら300人ほど、大規模でも一万人の犠牲者が出るというのが戦の常識だ。

 しかし、今回は三十万。この規格外すぎる数字に、嫌でも王国軍の悲惨さを理解するほかなかった。


「三十万って、何かの間違いだろ?」


 ザザンは苦笑が混ざった言葉を吐いている。この惨状を信じたくないのだろう。

 ニッケランはそれに共感していた。


 そんな虐殺ともいえる戦に自分も参加しているなんて、生きた心地がしなかった。

 目を伏せたジョンがさらに話始める。


「今回の戦で――王国はかなり有能な人材を失った。特に常備軍から」

「…」


 皆がその言葉を聞いて黙り込んだ。

 それは王国の軍事体制に関して皆が理解しているからであった。


 王国、帝国の軍事体制の大きな違いは、常備軍をどれだけの規模で保持しているかだ。

 

帝国軍の場合は常に三十万人の常備軍を保持しているのに対し、王国は二万人しか保持していない。これは、国の主要産業の違いが関係していた。


 王国の場合は農業が主要産業であり、主に若者が率先して働いている。それに対し、帝国の場合は軍需産業であり、若者よりも中年層の人間が主に働いている。


 そのため帝国軍は中年を仕事へ、若者を兵士に雇うことが出来る。それに対し、王国軍は兵士として若者を雇ってしまうと農作業が滞ってしまい、国の経済が危うくなってしまう。よって、戦争が起こるたびに徴兵する方式を王国は取っているのだ。


 そこで、王国は常備軍をかなりの精鋭として鍛えていた。帝国の質の高い常備軍に負けないように。


 しかし、今回の戦でその常備軍がかなりの痛手を被ったとジョンから聞いたことで、皆事の深刻さに頭を悩ませていた。


 オキタルが首を横に振り、突然大声を上げた。


「鞍替えはしない!」


オキタルが突然叫びましたね。 なんで叫んだんでしょうね!

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