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赤き日  作者: 溶接作業
一章

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信頼

「やっぱり僕が言ったことは正しかったんじゃ?」

「まぁ、まて」


 オキタルを抑えるように声を重ねたミャアドは話を続ける。


「次はここだ。魔操志は再度呪文を唱え始めた。しかし、今度は長く、なかなか唱え終わらない。その姿を人々は怯え切った様子で眺めている。抵抗するという意思は一切見えず、死を待つ死刑囚のような面持ちだ。

 すると、魔操志はとうとう唱え終わってしまい、魔操志の目の前に大型の氷の矢が一本現れた。すると、その矢は一気に加速し、生き残った人々めがけて飛んでいく。私は再び、誰かの体に突き刺さり爆散するものだと考えていた。しかし、矢は今までにない速度で飛び、一人を貫くと、もう一人、また一人と意志を持ったように飛び続ける。

 一人の男が矢の先端に掌を向け、どうにか致命傷だけは避けようともがいた。私は今までの経験から、魔法は手で触れると消えてしまうものだと考えていた。そのため、今回の魔法も同じように消えてしまうものだろうと期待した。しかし、矢は男の掌を貫くとそのまま顔に飛んでいき、大穴を開けてしまった…」


 ミャアドはまだ、日記を読み上げているが、ニッケランは唖然とし、聞くどころではなかった。

 考えていたことをすべて否定されたような気がした。

 日記を書いた側近も魔法は手で触れると消えるものだと思っていたらしい。しかし、魔操志が放った大型の氷の矢は、手で触れても消えなかったそうではないか。その違いがニッケランには分からなかった。


 いつの間にかミャアドは日記を読み終えていた。


 何かを決めかねている様子だ。

 その様子にニッケランは呟く。


「何か言いたそうだな」

「考察の域を出ないが、二つの答えを予想している。聞くか?」


 ニッケランはミャアドの推理能力に驚き、少し尊敬の念を抱いた。しかし、帝国人も中にもこのような男が居ることに驚き、少しの恐怖も感じた。


 ミャアドはニッケランがうなずいたのを確認し、口を開いた。


「一つ目は、魔法が手に触れられると消えるのは確率であるという説だ。正直これは薄いとみているが、一応覚えておいてくれ」


 一つ目の説を終えるとミャアドは、妙に緊張した面持ちをもって話し始めた。


「次の説だ。これは魔法は唱える呪文の長さによって法則が変わるという説だ。これはかなり信憑性が高いと思っている。その証拠にルート将軍も取り上げていたが…」


 話の途中で本をめくると、何かを探し始めた。やはり、何度も読んでいるのか一瞬にして該当箇所は見つかったようだ。


「この詠唱が長いほど強力な魔法に変化するの部分に当てはまると考えているんだ。どういう原理かは知らないが、魔法は長く唱えれば唱えるほどに強力になっていくんだ。しかし、その分隙も生まれる一長一短の業になるらしい。先ほどの日記にもあったように、大型の矢を生み出す前に、魔操志は長いこと詠唱をしていたらしいからな。やはり、この説は信憑性が高いように感じるんだが…どうだ?」


 ニッケランは戦った魔操志の様子を思い浮かべる。

 確かに、肩を貫いた魔法を打つ前に呪文を唱えていたし、呪文の長さはそれほどでは無かった気がする。


「多分、それであっている気がする。戦った魔操志もその理論で行けば辻褄が合うしな」


 その言葉に、ミャアドは満足したような顔をして、息を大きく吐いていた。


「次の問題は?」


 オキタルが間髪入れずに聞いてきた。

 それにミャアドの顔は曇り、困った様子を見せた。


「正直に言おう。魔操志が最後に燃え上がった原因はさっぱりわからない。」

「なぜだ? お前たちは側近から情報を得ていたのだろう?」


 ニッケランの質問に彼は一瞬、言葉を詰まらせた。


「…残念なことに、お前が初めてなんだよ、魔操志を殺したのは」


 ニッケランはその言葉が信じられなかった。魔操志の側近が隙をついて殺すことだって出来るはずだと思った。


「どういう意味だ? 魔操志の周囲にも仲間を潜ませていたのだろう?」


 ミャアドはため息を吐いて、苦虫を噛んだような顔になる。


「その側近の大半は面白半分で殺されているんだよ。魔操志からすれば、側近など誰でも良かったのだろうな」


 ニッケランはミャアドの言葉に何も言うことが出来なくなった。すべてを信じることは出来ないが、少なくともこの情報は本当のように感じていた。


「そうか…すまなかったな」

「いや、良いんだ。犠牲の上にしか現状を覆すことは出来ないからな…」


 帝国に潜入するときはミャアドを少し信じてみようと思った。まだ、すべてを信用することは出来ないし、今話した情報がすべて本当だとは思えない。しかし、帝国内部ではミャアドを大きく頼ることになる。ならば、少しは信用しないといけないだろう。


「ミャアド。帝国と戦うときは頼りにしてるぜ」


 彼は驚いた顔を見せたが、即座に笑顔に変化した。

 このあとは特に気になっていることは無く、ニッケランはテントから出ていこうとした。


 すると、ミャアドが「少し待て」と言ってきた。


「なんだよ?」

「お前たちの質問に答えたんだ。今度は俺が質問する番だ」


 ニッケランはジョンの様子が気になって仕方がなかった。しかし、下手に断って関係が悪化することも避けたかったので、話を聞くことにした。


「何を聞きたいんだ?」


「まず、お前たちの仲間の詳細だ。人数と使う武器とか、得意な戦闘スタイルを教えてほしい」

「すまないが、戦闘スタイルを教えるわけにはいかないな。ここまでしてもらって申し訳ないが、まだお前を信用できていない」


 ミャアドは少し考えると、頷いて見せた。


「まぁ、仕方がないな。じゃぁせめて名前だけでも教えてくれ」


「…ジョン、オキタル、ザザン、そして俺。ニッケランだ」

「ふむ。本当に四人だけなのか…」


 ミャアドは少し残念そうなそぶりを見せた。


「王国も厳しいんだよ」

「わかっているさ」


 彼は、まだ不満な顔をしていたが、これ以上は何も聞かなかった。

 すると、改まった様子で口を開いた。


「これから短くない間、お互いを支え合わなくちゃいけないだろ? 一応もう一度挨拶をしよう。 俺はミャアド。反乱軍の副隊長だ。帝国のことで気になったことがあったらいつでも聞いてくれ」


 ニッケランも姿勢を正す。


「俺はニッケランだ。こいつはオキタル。まぁ、頼りにしてるし、してくれ」


 少し口ごもってしまったが、ミャアドは気にしていないようで爽やかな笑顔を見せてくれた。


「じゃぁ、俺たちはこれで」


 ミャアドもこれ以上聞きたいことは無かったようで、すんなりとテントの外へと出してくれた。


 彼にも我々に対する不信感があるのかもしれない。


 小さなテントに三人は人数が多すぎるのか、外に出ると肌を刺すような寒さを感じた。


 息を吐くと白く狼煙が上がり、冬の到来が間近であることを告げていた。


 オキタルも肌寒そうに体を手で擦っている。


「ジョンのところに行くぞ」

「それってどこにあるの?」


 寒そうに唇を震わせたオキタルが質問をしてくる。


「たぶん…途中で見た医療用のテントだろう…」

「本当~?」


 オキタルは微笑み、冗談交じりの言葉をぶつけてきた。


「まぁ、当てずっぽうだが…そんな気がするだろ?」


 オキタルは少し唸った後、静かにうなずいてくれた。

 それを確認して歩き出す。空気が乾燥しているからか、地面を踏みつけるたびに、乾いた土の音が響く。


 その音が妙に心地よく、目的地へ軽やかに歩いてゆく。


 時折オキタルの方を振り返ると、少しは寒さが和らいだのか、唇が震えから解放されていた。


 それを何度か繰り返しているうちに、とうとう目的地へとたどり着いた。


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