日記
「まだ鎖に繋がれているのか?」とニッケランが言うと「まぁ、しょうがないさ」とミャアド。彼は座るように促した。
「で、なんの用で来たんだ?」
「魔法について気になる事が出てきてな」
「あの本に魔法について書いてあっただろ? あれで全部だ」
ニッケランは疑いの目を向ける。嘘をついているようには見えないが、その腹の裏では、ニッケランをほくそ笑んでいるように感じた。
「書いていない部分があるだろ?」
「残念だが、私たちが知っているのはあれだけだ」
ニッケランはもう一度、顔を凝視した。真剣な顔で彼を見ており、嘘をついているようには、やはり映らなかった。
「俺はここを魔法で射られたんだがな? 触れた途端に消えちまった訳だよ」と肩を指さす。
「え?」
「俺は肩を貫かれたとき、魔法に触れて引き抜こうとした。しかし、触れた瞬間に消えたんだ。まるで何もなかったかのように跡形もなく!」
ミャアドの顔はさらに曇る。
「聞いたことがない、そんな情報…」
やはり信じることが出来なかった。ミャアドとの関係性がほとんどないことも原因だったが、それ以上に、帝国の人間の言葉を素直に信じることは出来ない。
「詳しく教えてくれないか? もしかすると思い当たる記憶があるかもしれない」
「…わかった」
ニッケランは一瞬ためらった。
(この男が本当に反帝国軍なのか分からないからな…この情報を与えていいのか…しかし、結局は帝国に潜入することになるし…うーむ……)
ニッケランはほんの少し悩むと口を開くことにする。
(結局はこの男を通じて反帝国軍と接触しなくてはならないと考えると少しでも関係性を良くしておくべきだろう)
彼は魔操志との戦闘を詳しく教え、疑問点を述べ始める。
「――つまり、魔法と魔操志の疑問点は二つ。魔法は触れられると消えてしまうのか。もう一つは魔操志が最後なぜ燃え上がったのか。この二つだ」
説明を終えると、ミャアドは息を一つ飲み込み、考え込み始めた。
残る二人も同じように思考に耽り、腕を組んだ。
「始めに、魔法は触れたら消えるのかという疑問。これについて話そう」とミャアドは静寂を破ると「実際に触れれば消えるというルールが存在するならば、ニッケランの肩を貫くどころか、少し傷をつけた程度で終わってしまうだろう。ということは、触れるだけが条件と言うのはあり得ない」
「確かに」
オキタルが相槌を打った。
「しかし、問題なのはニッケランが魔法に手で触れた瞬間に消えてしまったことだ。これでは、魔法は手で触れると消えてしまうルールが存在することになる」
「じゃぁ、魔法は手以外の部位には有効で、手で触れられると消えちゃうってことなのかな?」
オキタルは楽しそうな様子で質問をしていた。クイズゲームのような感覚なのだろう。
しかし、ミャアドはその答えに首を横に振り、再度話を進めた。
「それは絶対に違うと言える。あの本、ルート将軍が持っていた本に実は魔操志の側近の日記が書かれている」
すると、彼は敷布団の下から何かを取り出そうともがいた。それをニッケランは手伝い、手を敷布団の中に入れると何かに触れた。
それを慎重に触り、形や感触を確かめると、長方形の固い何かだ。それを外へと引っ張り出す。
「おい、なんで隠してたんだ?」とニッケランの手には将軍のものと同じ見た目の本が握られている。
「中身は一緒だよ。ただ、自分も読んでどこかに重要な情報がないかを探していたのさ」
ニッケランはこれを上に報告するべきか考えた。しかし、本の中身を見てから判断した方が良いと考え、問題を棚上げする。
「まぁ、この話は忘れておこう。よし、その日記の部分を開いてくれ」
ミャアドはうなずくと、一瞬にして予定のページの付近をめくり当てた。よほどこの本を読みこんでいるようだ。
「これだ、この部分だ。読むぞ?」
静かにうなずき、固唾を飲み込む。オキタルはソワソワとし、絵本を読んでもらう前のような動きを見せていた。
「今日も魔操志の宴が始まった。悪法により捕まった無実の人々。犠牲者たちが魔操志の城へと集められ、広間へと案内される。彼らは全員が裸にされ、何がこれから起こるのかを恐怖をひきつらせた顔で考えていたことだろう。そこに悪魔、魔操志が剣を片手に現れた。途端に広間には犠牲者たちの助けを懇願する悲鳴が鳴り響く。魔操志はその光景に満足したのか不敵な笑みを浮かべ、手のひらを人々へ向ける。私は、その光景を隣で何度も見てきた。しかし、何度見ても慣れないそれは、今日も繰り返されるようだ。
魔操志の掌の前に巨大な氷柱が現れた。その氷柱はとてつもない速度で人々に飛んでいき、一人の老人の腹を貫いた。次の瞬間、その氷柱は破裂して、老人の体を粉砕し、広間は赤色の濃い霧のようなもので満たされてしまった…」
「おい、聞いていて心地の良いものではないからよ、要点だけまとめてくれ」
その言葉に同意の意を示したミャアドは指で日記をなぞり、該当箇所を探した。
「あった。ここと、ここだ」
ニッケランは本を覗き込み、オキタルもそれに続いた。
「魔操志が呪文を唱え終わり、氷の矢を人々に飛ばした。その矢は吸い寄せられるように飛んでいき、人々の様々な箇所に突き刺さった。しかし、不思議なことに、その矢を人々が引き抜こうとし、触れると、消えてしまった」
間者が死に物狂いで書いた日記。これは期待できますねぇ!
最後までお付き合いいただき感謝いたします。
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