背に腹は代えられない
「貴様ら! 何者だ!」
一人の兵士が叫んだ。
「私はニッケランという者です! コイツはオキタル。私の仲間です!」
「…ニッケラン? ニッケランと言えば魔操志を討った奴の名前だったよな?」
兵士たちの話し声が聞こえ、ニッケランは踊りたくなった。
まさか、正規兵たちの中にもうわさが広まり、名前まで知られているとは。まさに、伝説の英雄になった気分だった。
すると、ぞろぞろと兵士たちが集まり、ニッケランたちを囲んだ。
「通してくれるか?」と彼は自信満々に問う。
すると、他の兵士達よりも立派な装備を纏った者が口を開いた。リーダー格なのだろう。
「確かにニッケランならば通しても良いとルート様から許しを得ている」
「なら…」
「しかし、お前が本当にニッケランと言う保証はない」と兵士は腰に備え付けた剣をリズムよく叩く。
(あぁ? 尋問官みたいな言い方しやがって…)
必死に頭を回転させ、この場を切り抜ける方法を模索する。
魔操志を殺した証拠はないか。目撃者がこの場にいないか。オキタルが弁明してくれないか。
いろいろと模索したが、結局何も思いつかなかった。
「おい、王国人。そこの男をテントに入れろ」
兵士たちの後ろから、声が聞こえてきた。
ニッケランたちを疑いの目を向けていた兵士たちの意識が声の方へ移動し、怒号が鳴り響いた。
「なに勝手に出てきてんだ、帝国人!」
憎悪に満ちた怒号。二人の事など記憶の彼方へ吹き飛んでしまったようだ。
兵士たちの間から覗き見るようにしてニッケランは声の主の姿を捉える。
両手に枷をした状態で、テントから覗くようにしてこちらを見ている男。その姿には見覚えがあった。
「ミャアドか!」
彼はうなずき「ニッケランだったか? 何をしに来た?」
「魔法について気になる事があってな」
「お前ら勝手に話を…」と兵士の一人。
「それで、ミャアドよ! 時間は大丈夫か?」
彼は即座にうなずき、招き入れるような仕草をした。
「よし、行くぞオキタル」
「待て」
兵士の一人が低い声を出し、剣を抜き去った。
「何のつもりだ?」
ニッケランはロングソードに手を掛ける。空気は一気にひりつき、暴力沙汰になるのは時間の問題となった。
ニッケランは再度質問をする。
「何のつもりだと聞いている」
剣を抜き去った兵士はひどく興奮した様子で、ニッケランを睨んだまま様子を窺がっている。
すると、周囲で状況を飲み込めていいなかった兵士たちも動き始め、剣を抜いてしまった。
(くそ! 戦うぐらいなら退くか…?)
高飛車になっていた自分を殴りたくなる。もっと慎重に話を進めるべきだった。
それと同時に、ルートなどの地位の高い者たちに許可を取ってから来るべきだったとも後悔した。しかし、ジョンをあんな姿にした者に頭を下げることも嫌だった。
(このままでは確実に殺し合いに発展してしまう…)
ニッケランは悔しい気持ちで満たされた感情を抑え込み、剣から手を引いた。
兵士たちはニッケランの動きに敏感に反応し、今にも飛び込んできそうだ。
「よし、オキタルよ。今日は諦めて帰るぞ」
オキタルは激しく縦に首を振った。
しかし、予想に反して、兵士たちに収まる様子は見えない。
「帰らせるわけにはいかないな」
一人の兵士が呟いた。
ニッケランは苛立ちを覚え、反射的に反応する。
「帰るんだぞ! もう問題はないだろ!」
「いや、無理だ。怪しすぎる」
リーダー格らしき兵士が静かに言った。
(冗談じゃねぇ)
ニッケランは再度、打開策を模索した。しかし、どれだけ状況を想定しても戦闘に発展するか、捕まってしまう。
オキタルを見てみると、身構えており、完全に戦う意思を見せてしまっている。
「わかったわかった。捕まればいいんだろ?」とニッケラン。諦めたように両手をすり合わせ、前へ突き出す。
(まぁ、捕まってもルート将軍が何とかしてくれるだろうしな…)
オキタルは一瞬不満そうな顔を見せたものの「しょうがない…ここで争っても仕方ないもんね」と従順になった。
「ん…急に素直じゃないか…」とリーダー格。兵士たちは訝しそうに顔を見合わせている。
すると、ゴホンと整えたリーダー兵士は「縄をかける。動くなよ!」と。
「痛いなぁ。もっと優しく扱ってくれよ」と嘲笑を含んだ言葉と共にニッケランは勝ちほこった顔を見せた。
(とりあえずルート将軍の所に行ったら――ってあれ? なんで縛らないんだ?)
どうしてか兵士たちの手が止まった。ただ、作業を中断したというには異様な光景。リーダー兵に至っては脂汗を浮かべている。
すると、馬の足音が聞こえ、それが背後で止まった。
「ニッケラン殿ではないですかぁ」
嬉々とした声。その声はニッケランに嫌な記憶を思い起こさせた。
「尋問官か?」
姿を確認することが出来ず、話している相手が本当に尋問官か分からない。しかし、かすれた笑い声を押し殺す声が聞こえ確信した。
「ええ。ええ、そうですとも」
からかいを含んだ声に、ニッケランは苛立つ。しかし、これは兵士たちに弁明する絶好のタイミングでもあった。
ニッケランは怒りを抑え込み尋問官に話しかけた。
「おい、尋問官。お前の方がこいつらよりも立場が上なんだろ? とっととやめさせてくれ」
「ハハハ! 私があなたにお願いをされるとは! 良いでしょう。おい、お前たち、離してあげなさい」
兵士たちの顔には恐怖が現れ、素直にニッケランを解放した。
ニッケランは解放された快感を感じながら、振り向いた。
「で、お前は何をしに来たんだ?」
尋問官は悪魔のような笑顔を見せ、説明し始める。
「この先に私の拠点があるのです。 これから敵の将軍を尋問するのでね、楽しみで仕方がないのですよ」
尋問官は舌なめずりをし、心地よさそうな笑顔を見せた。
その笑顔は子供が玩具を手に入れたような無邪気なものだった。
「そうかい」とニッケラン。しかし、尋問官は心ここにあらずといった様子で「では、私は忙しいので」と馬を走らせて行った。
「ご本人だったとは…申し訳ございませんでした」と初めに剣を抜いた兵士。それに続いて他の兵士たちも頭を下げた。
ニッケランは「別に問題はない」と答える。これ以上、気取った喋り方をする気にはならなかった。
「入るぞ!」とニッケラン。
仲からは複雑な金属音と「どうぞ」と声が聞こえ、足を踏み入れる。
テントの中は敷布団が一枚のみで、それ以外は何もない寂しいものとなっていた。
その上に座っているミャアドが口を開く。
「よく来てくれた」
改稿祭りになっていますが、内容が変わると言ったことではなく、ただ気に食わない表現を変更しているだけですので、ストーリーのは何らかかわりはございません。引き続きお楽しみください。
最後までお付き合いいただき感謝いたします。
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