誰
しかし、ルートは冷静に「ジョンが元貴族の者だからだ」と言った。
ザザンはルートの返答に押し黙った。しかし、納得できていないようで再度口を開く。
「現役の貴族ならばわかります。王国の情報を帝国の流した可能性がありますから…しかし、ジョンは現役ではございません。重要な情報なんて持っていないはずです」
ルートはうなずいた。しかし、その目は理解を示すものではない。
「たしかに、完全な貴族の者の方が重要な情報は持っているだろう。しかし、ジョンは特別なのだ。彼は戦の度に軍議に参加していたそうではないか」
ザザンは苦虫を噛んだような顔になり、椅子にゆっくりと腰を掛けていく。しかし、隙あらばといった様子で鼻息を荒くしている。
(くそ…俺も何かないか…?)
ニッケランも何か弁明できることは無いかと記憶を探ったが、ルートの言葉には到底かなわないものばかりだった。
オキタルの様子を窺うと、かなり精神的に来ているようで顔色が悪くなっている。
(ジョンが拷問されているのか・・・?)
尋問官の元に連れていかれたとして、それは帝国兵だから拷問されるのであって、王国出身のジョンならば拷問まではされていないかもしれない。心もとない希望を胸にニッケランは言う。
「尋問官はどのようなことをジョンに?」
ルートは質問の内容が難しいというように腕を組んで唸り始めた。
「帝国兵が相手のように派手な拷問はしないと思うが…尋問だけで済むとは思えないなぁ…」
後悔した。余計に不安になるような質問をする自分を誰かに叱りつけてほしかった。しかし、ザザンもオキタルも机を見つめ、現実逃避を行っているようだった。
もう、何も話す気は起きなかった。この場に針と糸があったのならば、口を縫いはいじめていただろう。
「あの、ジョンはいつ見つかったのですか?」とザザン。息は絶え絶えで不規則に鼻を鳴らしている。
「昨日の夜だ。お前たちが帰った後すぐに見つかったよ」
聞き終えると、ザザンは天幕の入り口の方を凝視した。ニッケランは目線の先に何があるのか気になり、同じ方向を向く。
天幕の外から入ってくる光が、空気中の埃を輝かせているだけだった。
しかし、なぜだかそこからジョンが入ってくるような気がした。
「すると、ジョンの無実が証明された場合、そろそろですか?」とザザン。
「あぁ、そうだ」
ザザンはルートの返答に「わかりました」と一言いうと。十字架を首元から取り出した。
ニッケランはそれを横目に、心の中で祈りを捧げた。神を信じている訳ではないが、何か頼れるものには今は頼っていたかった。
すると、鼻をお香のような、酔ってしまいそうなほど濃い匂いがくすぐった。
ニッケランはルートたちの様子を窺がうと、彼らも同じように鼻を動かし、匂いの元をたどっているようだった。
(この匂いはどこから?)
天幕の中に匂いを発している者はいない。
ニッケランは天幕の入り口の様子を再度見た。そこには人影が一つ。
その影が大きくなり、やがて実物となって天幕の中へと入って来た。
「誰だ」と低い声を出したルート。
天幕の中は外の光にさらされ、誰も入って来た者の顔を認識できない。
「私でございます」
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