↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤き日  作者: 溶接作業
一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/107

鎖に繋がれた男

 ニッケランは耳を澄まし、ジョンではないかと期待した。しかし、声は記憶にあるものとは程遠く、酒やけを起こしたようなかすれた声だった。


「な、なんだあの服…」すると、彼の目は男が着ている服へと吸い寄せられる。


 作業服のような頑丈そうな服。しかし、所々赤黒い色に染まっており、まがまがしい雰囲気を漂わせている。


 すると、今度は鉄くさい匂いがお香の匂いをかき消した。すると、その者以外の全員の表情が濁る。従者の一人に至っては鼻を摘まむほどだ。


(なんて顔だ…)



 男の顔は痩せこけており、頬に黒い影を落としていた。だが、その反面、目は大きく見開き、大きな口で笑顔を見せていた。


(魔操志の最後みたいだな…)


 男の顔と魔操志の悪魔のような顔は似通っている。想像するだけで身震いしてしまう顔。それと同じ表情をしている男も、また異常者なのではないかと想像してしまう。


「おお、尋問官ではないか! 仕事が終わったのかね?」


 ルートの言葉により一層大きな笑顔を見せた尋問官は口を開いた。


「えぇ。いつも通り完璧に仕事をこなしました」


 ニッケランは恐ろしくてたまらなかった。

 悪魔のような顔をした男が悪名高い尋問官というだけで寒心にたえないのに「仕事をこなした」という言葉がより一層冷たいものを感じさせる。


 オキタルは恐ろしい顔に釘付けになっているようで、気にしているような素振りは見せていない。しかし、ザザンは尋問官の事を一切見ず、目を開けまいと力を入れている。



(まて、仕事ってなんのことだ?)とニッケラン。ジョンの事が頭に浮かび、口早に問う。


「尋問官殿。失礼ながら質問をお許しください。その『仕事』というのは誰に対して行ったのですか?」


 声は震え、心臓は鼓動を速めた。尋問官の口からジョンと言う言葉は聞きたくなかった。

 尋問官は不気味な目をニッケランに向け、嬉々とした声で説明し始めた。


「あなたの事はルート様からお聞きしております。この場合、私は名乗るべきなのでしょうが、帝国の者から私は嫌われているので、名前は誰にも教えられないのです。お許しください」


「そうですか。それで、仕事と言うのは?」ニッケランは早くしろとまくし立てる。男の情報など今はどうでもよいのだ。


 尋問官は不満そうな表情で「仕事と言うのは、何をしたのかを聞きたいのですか?」と言った。


「いえ、誰に対して行ったという話です」


 尋問官が笑った。口が裂けそうなほど大きな笑顔。その笑顔はこの上ない不快感を与え、目を自然と背けさせる。


 すると、尋問官は何も言わないまま天幕の外へと移動していった。


 脳裏にジョンが悲惨な姿で現れる。尋問官がこの場に彼を連れてくるのではないかと想像すると変に汗ばんでしまう。


 すると、笑顔を浮かべたまま尋問官が戻ってきた。しかし、その手には太い鎖が握られていて、鎖は天幕の外へと続いている。


「まさか…」


 ザザンが隣で囁いた。顔は見なかったが声が震え、ニッケランと同じ事を考えていることを分かった。


 視界の端に捉えているオキタルの後ろ姿は震えており、荒い息遣いが鼓膜に音が届いていた。


「ん……遅いですね!」と尋問官。鎖を勢いよく手繰り寄せ、金属音を響かせる。すると、入り口に人影。


 その影は生気を失い、死人のような姿だとニッケランの目には映った。その影がジョンにはどうしても思えない。自分が知っているジョンは、あんなにも頼りない影を落とす男ではなかったはずだ。


 影が鎖に引きずられ、大きくなっていく。この天幕の中に姿を現そうとしているのだ。


 すると、お香の匂いが再び届いてきた。先ほどよりも明らかに存在感を増している。


 とうとう、鼻腔が甘ったるい香りで満たされた。先ほどのお香の匂いが何倍にも膨れ上がったような、頭が痛くなる匂いだ。


 影の主の足が見えた。その足はニッケランを釘付けにする。

 足は裸足で、爪は中途半端に剥がされ、血に濡れた釘が突き刺さっている。


 その痛々しい姿に、ジョンでないことをニッケランは強く祈った。尋問官の顔を見ると、狂気に顔をゆがめ、今にも嬉々として跳ねまわりそうだ。


 ルートの前に止まった尋問官は鎖をより強く引っ張り、影の主を完全に天幕へと引き込んだ。


 ニッケランの呼吸が喉の奥で止まってしまった。


 鎖の主は痩せこけ、ぼろきれの服を身にまとい、か細い息を激しく繰り返している。

 肌は病的なまでに白く、生者とは思えない。しかも、体の至る所に尋問官の痕跡が見えた。



 ニッケランは顔を確認する気にはなれず、後ろにいるザザンの方へ振り向いた。


(なんだよ…その目はザザン!)彼の目は鎖の先に釘付けて、石化されたように固まっている。手には剣十字が力なく横たわっていた。


「くそ…」


 このまま竦(スク)み続けるわけにはいかない。


 もしかすると、ジョンではないかもしれない。帝国の者を尋問し、この場に連れてきただけかもしれない。


 必死に脳を騙そうと、暗示を掛け続ける。息を一つ吐き、気持ちを落ち着かせる。


 鎖の主の顔を見た。


 その顔は痩せこけており、所々に火傷の痕のある、見るに堪えない姿になっている。


 しかし、ニッケランにはそれを認識することは出来なかった。


 姿は変わり果てているが、目に映る男の姿は、まさしくジョンだった。


ジョ―――――――――――ン!

最後までお付き合いいただき感謝いたします。

評価やコメントをいただけると、物語をより良くしていく大きなヒントになります。

ぜひ皆さまの声をお聞かせください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。