戦後処理
「将軍様!」とザザン。
危機的状況のニッケランもさすがに押し黙り、何を言われるかと身構えた。
しかし、将軍は唖然とした表情で彼らをみやると「何をしているロヴァニアよ…ニッケランの傷がまだ治っていないではないか」
「こいつが全く言うことを聞かないから! それで…」
「説明もなしにしたんだろ?」
女はバツが悪そうに目を泳がせると、ニッケランを睨んだ。
「ハハハ! そう怖がるなニッケランよ。ロヴァニアは少々荒いところもあるが、治療の腕は一級品だ」
ニッケランはゆっくりと女、ロヴァニアの方へ目線を動かすと、まだ睨んでいることを確認した。
「体の力を抜け、ニッケランよ」
「――はい…」
彼が体の力を抜いたことを感じ取ったロヴァニアは不満そうに何かを口ごもり、ハサミを近づける。
「優しく頼むぞ! マジで優しく!」とニッケラン。
ハサミの先端が触れると、彼は歯を食いしばりながら目を閉じた。
「っ! ――あれ…?」
激痛が走ると思っていた。しかし、伝わって来たのは妙に鈍い、ハサミで中をいじられている感覚だけだ。
薄目を開け、確認すると、ハサミが中から顔を覗かせたり隠れたりしている。
仲間を見ると、二人とも青ざめた顔で傷口を眺めていた。
彼女はと言うとうって変わって真剣な面持ちだ。目を瞑っている間に誰かと変わってしまったのだろうか。
「よし…」
彼女は小さく呟くと、今度は針と糸を取り出した。その足元には、どこからか取り出した布の上に、ニッケランの肉片が乗っている。
(自分の肉が落ちてやがる…)
さすがにおぞましい光景だ。目を反らし、ロヴァニアの作業に集中することにする。
「アンタ運がいいよ。骨を上手いこと避けてるね」
ニッケランは何が良いのか分からなかったが、悪いことではないらしいので、苦笑いを見せた。すると、ロヴァニアは瓶の中に残っている少量の薬品をもう一度傷口に浴びせる。
「よし!」
一瞬で縫合を終わらせた彼女は満足したしたように叫ぶと、銀箱の中に道具をしまった。
ニッケランは薬品に濡れた肩をそっと震える手で触れる。想像以上に緊張した作業で、一気に老けたような気がする。
「どうだ、ロヴァニアはうまいだろ!」
いつの間にか目の前の座っていた将軍。横の椅子には従者が複数人座っている。
彼は経験したことのない医療行為に疲れ果てていた。作り笑いもせずに淡々と「はは…いつもは熱したナイフで無理やり塞いでましたから、ありがたいです」と。
すると、ルートは真剣な面持ちになり「よし、ロヴァニアは自分の天幕に戻っておれ。ここからは最低限の人間だけで話さねばならん」
彼の低い声に空気は重くなった。横に並ぶ従者たちの表情もどこか厳しくなっている。
「―はい。では、失礼します」とロヴァニア。
すると彼女ははニッケランを一瞬睨むと、素早く出て行った。
「では、話を始めましょうか。オキタル。ザザン。二人も椅子に座りなさい」
ルートの横に座っている男が静かに言った。まるで、品定めでもするような目つきで。
「まずは、ニッケランよ」
「はい」
「今回の戦で魔法使い…魔操志を討ったそうだな。軍を代表して感謝しよう」
そう言うと、ルートは顔を机に当たりそうなほど深々と下げた。それに合わせて左右の従者たちも頭を下げる。
「いえ! そんな…お顔を上げてください!」
ニッケランは褒められた嬉しさも感じていたが、軍のトップである将軍に頭を下げられるという異様な光景に、喜びが緊張で上書きされた。
「今回の戦、ニッケランが魔操志を討っていなければ確実に負けていた。これはこの上ない事実なのだ。
ニッケランよ。素直に気持ちを受け取ってほしい」
「わ、分かりました…ありがとうございます。将軍にお褒めいただき光栄です」
ルートはそれを聞き、ゆっくりと顔を上げた。
「それで、お前たちに頼みたいことがある」
ニッケランたちは顔を見合わせる。
「単刀直入に言おう。帝国内部に侵入し、敵の主要人物たちを暗殺してきてほしいのだ」
三人は口を開けたまま硬直した。話の流れが一切つかめない。
その様子に苦笑いをしたルートは、従者の一人に目で合図を送り、天幕の外へと移動させた。
「ちょっと言葉足らず過ぎたな。ここからは順を追って話をしよう」
するとルートはローブの中から一冊の本を取り出した。
「ニッケランよ。魔操志を倒した者は王国の中に何人いると思う?」
「そうですね…4人ですかね…?」
ルートは静かに息を吐くと、虚空を見つめた。
「そうか…まぁ私も立場が逆ならそのぐらいだな」彼は露骨に腰を曲げると鼻を鳴らした。
「0人だ」
「え!」とニッケラン。
すると隣のザザンが肘を横腹にぶつけ、小さな声で言った。
「お前、失礼だろ! その反応!」
「あ、すいません! つい!」
「気にしなくて良い。質問をしたのは私の方だからな」
将軍が言うのであればその通りなのだろう。しかし、失礼な事をしておいてそのままにするのも木が引けた。
(少しぐらい頭を下げても何も思われないだろう)と頭を下げる。
すると、ルートは気にする様子も見せず続けた。
「それでだ。王国初の魔操志討伐者であるニッケランに問いたいことがある。奴と戦って感じたことや、気づいたことを話してほしい。」
「――わかりました」
記憶に新しい魔操志との死闘を思い出す。魔操志の戦い方、名前、見た目、どのように魔法を打つのかなど、役に立ちそうな情報をルートに説明する。
説明されるたびにルートは何故か、本に忙しく目を落とした。
一通り話し終えると、天幕は静寂に包まれた。しかし、徐々にルートの従者たちがヒソヒソと話始め、信じられないという顔をしている。対してルートは本を睨むようにして見入っていた。
すると、勢いよく本を閉じた将軍が叫んだ。
「信じるほかあるまい。 入ってこい!」
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