帝国の男
(なんだ…?)とニッケラン。
将軍が叫んだと同時に、先ほど出ていった従者が鎖でつながれた男を連れて入って来た。
(背は低く、横にでかい男……帝国兵って感じじゃないな。どちらかと言えば傭兵か?)
戦に参加していたとすれば、やけに小奇麗で、上級将校にしては獣臭い。ならば、この戦を傍観していたものだと彼の勘が考え出したのだ。
その男は、机の横で立ち止まると、ルートに対して深々と頭を下げた。
「お話をさせていただく機会を設けていただきありがとうございます」
ルートは不満そうな顔を見せ、口を重苦しく開いた。
「まだ完全に信用したわけではない。この本の信憑性が少し上がっただけだ」
重く冷たい口調で話すルートに対し、また男は深々と頭を下げる。すると、冷めた目をニッケランたちに移し「こいつは反帝国軍の使者だそうだ」と言った。
「え? 反帝国軍? 使者?」とザザン。
反帝国軍という聞きなじみのない言葉。ニッケランは使者を名乗る男を横目に質問を飛ばす。
「反帝国軍と言うのは?」
「詳しくは今からこの男に聞く予定だが、意味はその通りだ。帝国の内部はきな臭くなってきている様だからな」
ルートは鼻を鳴らすと男を睨んだ。将軍の天幕に帝国の者が手枷をつながれて存在しているという事実が、事態をややこしくさせている様だった。
「おい、反帝国軍の男よ。貴様が話せる場を設けたのだ。我々に何を伝えたかったのかを説明しろ」と将軍。
男は頭を下げると、姿勢を正し、話を始めた。
「話せる場を設けていただきありがとうございます。私は反乱軍の副隊長を務めさせていただいているミャアドと申します。」
ルートはそれを半信半疑で聞いている様で、常に疑いの目で耳を傾けている。
彼は空気に臆することなく続ける。
「まず、反乱軍。ここでは分かりやすく、反帝国軍とさせていただきますが、こちらの説明からさせていただきます」
ニッケランはザザンの顔を窺がうと、いぶかし気な顔をしていた。
すると、説明が始まった。
「昔から存在する反帝国過激派に、魔法使いに対し不満を持った者たちが参入した結果、発足したものだと思ってください」
驚いた。まさか、帝国国内に魔法技術を反対する勢力が居たとは想像すらしていなかった。
王国と帝国は二百年間、戦争をし続け、お互いを忌み嫌う存在として認識していた。そんな帝国にとって王国を滅ぼす最高の技術である魔法を嫌う意味が無いように感じる。
「反対派が存在すること自体、王国の皆様には理解できないでしょう。なぜなら、王国からすれば魔法技術はとてつもない脅威であり、今まさに自国が滅ぼされるかもしれない瀬戸際に立たされているのですから。逆の立場だったら、ここぞとばかりに帝国を攻め滅ぼしていたでしょう?」
王国を下に見るような発言に場の空気が変わる。ルートから殺気のようなものが発せられたのだ。さすがの従者もこれには参るようで額に汗を浮かべている。
対するミャアドも咳を込み、発言を誤魔化した。
「その反対派が存在する理由。それは、とても単純なことなのです。ルート様。帝国には主要都市がいくつあるかご存じでしょうか?」
ルートは気怠そうに答える。
「三つだったか?」
ミャアドはうなずいて見せると、口を開いた。
「その三つの都市の長が問題なのです。魔法が登場する前までは、名声のある将軍や、頭の切れる文官などが担当してきました。しかし、魔操志たちが力を付け、その慣習はすっかり無くなってしまいました」
ニッケランはミャアドが震えていることに気が付いた。それはルートたちに威嚇されているから震えているのではなく、嫌な思い出に触れた時に見せる、重く首を絞めつけてくるようなものだった。
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