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赤き日  作者: 溶接作業
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場違い

「うわぁ…」


 最初に声を出したのはオキタルだった。

 中は白を基調とした単純なデザインだったが、十五人は座れそうな大きな長机に、装飾の凝った椅子が設けられている。その上には、硝子をふんだんに使った照明器具のようなものがぶら下がっていた。


「これはすごいな…シャンデリアまであるぞ…」


 何度か高位の騎士の天幕に入ったことがあるとザザンから聞かされたことがあった。そのザザンが感嘆の声を上げ、見とれるように中を眺めていることから、この天幕が異常な完成度であると伝えていた。


 三人は机から少し離れたところに移動すると、その周りをぐるぐると回り始める。


「これ、座っていいのか?」


 ニッケランはザザンへ質問を飛ばす。


「将軍の言い方だと座って良いのだろうが、気が引けるな…」


 ザザンはその可憐な椅子の装飾を見て顔を引きつらせている。


 オキタルは座ろうと手を伸ばしては引っ込める。それを何度も繰り返し、むず痒そうに声をうならせていた。


 すると、天幕が開き、ニッケランたちは入り口を凝視した。

 そこには、長い黒髪をなびかせ、かがり火に優しく照らされている者の姿があった。


「ニッケランってどれ?」


 ニッケランは自分の耳を疑った。その声は美しく、脳を溶かし、心を癒してくれるような声だった。

 そして声の主はコツコツと妙に固い響く音を立てながらニッケランへと近づいた。


「肩を怪我しているわね。ニッケランって言うのはあなたね?」


 ニッケランは目の前の人物に釘付けになった。

 戦場に似合わないような美しい女だった。顔はあまり見かけたことのない顔つきで、王国で生まれていないことは確かだった。


 服装は白い布のようなものを服の上からはおり、防御力が一切なさそうな見た目をしている。しかし、この天幕にその姿は妙に似合っており、芸術品のような美しさをより一層強いものにしていた。


「ねぇ、聞いてるの?」

「え? あぁ、そうだ。俺がニッケランだ」


 女は肩を少しの間見つめると、しゃべり始めた。


「そう。じゃ、さっさと座って」


 ニッケランは椅子を汚したくなく、言い訳を並べようと口を開いた。


「立ったままじゃ…」

「とっとと座れって言ってるの!」


 女はそう言うと乱雑に椅子を引っ張り、ニッケランの肩を叩いた。


「ぐあ! 痛いだろ!」


 女はニヤリと不敵な笑みを浮かべると、肩を叩く素振りを見せた。そして、椅子に座れと顎をしゃくる。


 それに渋々了承し、椅子にゆっくりと腰を掛けた。しかし、出来るだけ椅子を触れさせたくなかったので、変に背筋を伸ばし、背中と椅子にスペースを開ける。


 それに、女は苛立ったのか、肩を思いきり掴み、背中を椅子へと押し付けてきた。


 あまりの痛みに椅子から落ちそうになった。しかし、床も汚してしまいそうな気がしてどうにか耐え抜く。


「素直に従っておけばよかったのに」


 女はそういうと、鼻を鳴らした。


 美しい声をかき消すような言葉遣いに肩の痛みが強まったように感じる。

 助けを求めるように仲間に哀愁漂う目線を送ったが、我関せずという顔でこちらを見ていた。


 ニッケランは女に懐疑的な目を見せる。


「将軍は本当にアンタを俺に寄こしたのか?」


 ニッケランは正直、こんなに人を雑に扱う奴に治療ができるとは思えなかった。

 それに、どう見ても治療道具を持ち歩いていなかった。


「信用できないって言うの?」


 女は明らかに不機嫌な顔をし、ニッケランを睨む。そして、白い上着の内側から何かを取り出した。

 

 シャンデリアの光を反射する銀色の箱。女はそれを流れのままに開くと、道具が顔を覗かせた。

 ニッケランは中身を注視する。


「裁縫道具…?」


 ハサミに、黒色の糸。そして無くしてしまったら二度と見つからなさそうなほどに小さな針が箱の中で存在している。


 ニッケランは負傷した肩を見た。


 矢にしては大きな穴が開いており、痛々しい血の跡が広がっている。指先で触れると固まった血の感触と共に、脳みそに痛みの信号が高い強度で伝わってくる。


「その道具でこれを?」


 ニッケランは肩を指さした。

 女は一瞬、ニッケランを見たが何も言わず、今度は、反対側の上着の中に手を入れた。


 何かを取り出した手には、陶器製の白色の瓶が握られていた。


「なんだそれ」


 しかし、女は目すら合わせず、その瓶の蓋を開け、ポンっという音と共に液体の音が耳に届いた。


「酒…?」


 瓶を開けた途端、鼻を酒のような匂いがくすぐった。しかし、酒にしては人工的でそそられない嫌な匂いがする。


「殺菌作用のある薬よ」


 女はそう言うと、ニッケラン肩に瓶を近づけて中身を思い切り振りかけた。

 ニッケランは傷口にまさか一気にかけられるとは思っていなく、肩に浸みると思っていた。


「いっ!…痛くない…?」


 冷や汗を出していたが杞憂だった。薬は痛みを引かせ、だんだん肩の感覚までも奪っていく。


「おい、なんか痺れてきたんだが…」


 痛みが引いたのは良いが、まさか痺れが来るとは思わなかった。

 しかし、女は反応を示さないまま、今度は銀箱からハサミを取り出した。


 ニッケランはそれで、傷口の周りの服を切り始めるかと思っていた。しかし、ハサミがどんどんと傷口に近づき、より大きな穴に切り裂こうと動いた。


 ニッケランは体を仰け反らせ、ハサミと距離を取る。


「まてまて! なんで傷口を広げるんだ!」


 女はため息を一つ吐き、説明し始めた。


「アンタの傷は時間が経ちすぎて周りが死んでるんだよ。死んでないところから縫わないと意味がないの!」


 ニッケランは理解したようにうなずいたが、自分の傷口を広げられるのは、どうしても受け入れられなかった。


 すると、女はザザンに顔を向けた。


「そこのデカいの。コイツ押さえてよ」

「え?」


 手伝わされるとは思っていなかったようで間抜けな声を出している。しかし、目線がハサミへと動くと、そそくさとニッケランへ近づいた。


 ザザンはニッケランの体を掴むと、椅子に固定するように押し付けた。

 ニッケランはどうにか抜け出そうとしたが、万力のような力に、身動きが取れない。


「やめろ! ザザン裏切るのか!」


 ザザンは一瞬、憐れみの目を向けたかと思うと、目を反らしてしまった。

 オキタルへ目を向けると、後ろを見せたまま鼻歌を歌っていた。


「くそぉぉ! はなせぇぇ!」


 ニッケランが喚くように叫んでいると、突然、天幕が開いた。そちらに目を向けると、背丈が高い綺麗なローブを着た男が、位の高そうな者をぞろぞろと連れて入って来た。


最後までお付き合いいただき感謝いたします。

評価やコメントをいただけると、物語をより良くしていく大きなヒントになります。

ぜひ皆さまの声をお聞かせください!

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