前哨基地へ
ニッケランは体を傾け、前方を見た。
盾を握り、夕日を眺めている者が一人たたずんでいる。
ルートに一つ断りを入れ、馬から降りる。そしてザザンであろう者に近づいていった。
夕日に縁どられ、影しか見えなかった姿は少しずつ実態を帯び、ニッケランは男に笑いかける。
「ザザン!」
声に彼は振り向き、大きな笑みを浮かべた。
「ニッケラン! 約束を守ってくれたな!」
ザザンは駆け寄ってくると、肩を叩こうと手を動かした。しかし、ニッケランの肩が血に濡れ、乾燥している姿に唖然としている。
「お前…矢でも食らったのか?」
ニッケランは苦笑した。矢であればどれほど良かっただろうか。
「魔法の矢で射られたんだ」
「魔法!? お前、戦ったのか? 魔法使いと!」
「二人とも、再開してばかりなのに申し訳ないが、日が沈む前には前哨基地へ戻りたいのだ」
「ん?」とザザン。
聞きなじみのない声に眉を上げた彼は声の主の方を向く。
「しょ、将軍⁉」
ルートは笑いながら頷き、馬に乗ることを提案した。
するとザザンはルートに、待ってほしい旨を伝え、奥からひもで縛られた男を引きずって来た。
「この男も連れて行ってくれませんか?」
「良いだろう。おい、誰か捕虜を運んでやれ」
「は!」と従者。
捕虜を馬に運んでいる姿を横目にザザンは将軍へ目を移す。
「わがままを受け入れていただきありがとうございます。なので、馬に乗ることは遠慮させていただきたく…」
「そういうでない」
ザザンはかなり嫌がっている様子だったが、ルートが馬に乗るように命じたことと、ニッケランが諦めた様子で馬に乗り込んでいる所を見て、従者の馬に乗りこんだ。
そのまま何事もなく馬は駆け始め、ニッケランとザザンは並走している形で、呆然と馬に身を任せる。
「おい! 何がどうなってるんだ?」
「俺にもよくわからん」
ニッケランはとうに思考を放棄していた。説明できる自信もなければ、自分が説明を受けたいほどだった。
ザザンは呆れた顔を見せ、空を眺め始めた。
それにつられて、空を眺める。空は、少しずつ月が顔を見せ始め、黒い世界が勢力を伸ばしつつあるようだった。
すると、戦場へ行く際に通った森の中へ侵入していった。
「将軍様。無知な私をお許しください。前哨基地と先ほどおっしゃっておりましたが、それはどれぐらいで着くのでしょうか?」とザザン。
「もう、すぐそこだ。前哨基地と言っても、負けたら王国は滅ぶ予定だったからな。戦場の目と鼻の先に築いたわ」
ルートはそういうと高笑いした。賭けに勝って気分が良いに違いない。
すると、馬の速度は下がり、森が開け、月が再び顔を出した。
「こんな開けた場所があったんだな…」
ザザンは一人呟き、前哨基地の様子を探っていた。
ニッケランは月から目線を落とし、基地の様子を確認する。
前哨基地は前に住処にしていたヘールズ駐屯地と比べると、まだ整っておらず、人が忙しなく動き回っている。しかし、完成した姿を想像すると比べ物にならないぐらい大規模なものだと直感した。
馬はそのまま進み続け、前哨基地の中を堂々と通り抜けていく。その姿を確認した兵士たちは即座に敬礼し、背を伸ばした。
「はは、少し恥ずかしいね」
オキタルがそう呟くと、ルートは自慢げに鼻を鳴らし、背筋を伸ばした。
すると、他のものと比べて二回りは大きく、王国の国旗を入り口に二つ構えた立派な天幕が現れた。
その近くにルートは馬を止めると、ニッケランたちに馬から降りるように指示をする。
「すまんが、少しの間この天幕の中で待っていてほしい。もちろん、治療できる者を寄こすから、ニッケランは安心して天幕でくつろいでくれ」
ニッケランはワザとらしく歯を見せ、笑顔を作る。
「あ、ありがとうございます」
すると、強く手綱を引っ張った将軍は駆け出した。行方には蛍のように輝くかがり火の集団。その後ろを従者たちが再び追ってゆく。
「で、どうするよニッケラン」とザザン。
「どうするって言われても…入るしかないだろ」
見たことの内容な巨大な天幕。入り口からは優しい光が漏れている。
「二人に入る気がないなら僕が一番乗り!」とオキタル。彼は好奇心に満ちた表情で駆け出した。
「待て! お前は遠慮ってもんを…ええい! ザザン! 俺たちも行くぞ!」
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