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赤き日  作者: 溶接作業
一章

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29/107

終結

 そこには戦が始まったときに檄をしていた男の姿があった。


「あなたは…確かルート=ファイ将軍では…?」


 男は静かにうなずくと「ああ、いかにも。私はルート=ファイだ。まぁフルネームで呼ぶのは不便だろう。ルートで構わん。それでお前に…」

 

 ニッケランの目から肩に視線を移すと将軍は、目を見開き、従者に耳打ちする。


「わかりました」と従者。彼は手綱を引き、どこかへと掛けていった。


「その様子だとかなりの激闘だったようだな。こんなところで話すには場も悪ければ、時間も足りんだろう?」と将軍。


「ええ。二度と体験したくないほどに」とニッケラン。彼は平静を装っているが、体も脳みそも限界を迎えていた。声には息が多く混ざっている。


 すると、臨界点を迎えそうな脳みそが戦場のど真ん中であることを伝えた。


「将軍様。ここは戦場の真ん中です。お伝えしたいことは大いにありますが、まずは将軍ご自身のお体をお守りすることをお考え下さい」


 戦場には将軍が負けた時点で、敗北が確定してしまうという暗黙のルールが存在していた。これはどんな戦も例外ではなく、今回も当てはまっている事だった。


 そんな心配を余所にルートは大笑いを始め「ハハハ! 確かにその通りだ! いやぁ参った。傭兵にわが身を心配される時が来るとは!」


 ルートは笑い続け、収まりがついてきたことでようやく話を進めた。


「名前は?」

「ニッケランと申します」


 ルートは一つ、うなずいて見せる。


「では、ニッケラン。そなたを安心させるためにも、ここが安全な理由を説明してやろう」


 そういうと、将軍は後ろの従者に手招きをし、短い命令を囁いた。

 後ろから手に縄をもった騎士が現れ、縄の先には一人の男。


「その男は?」思わず口走ってしまった。隣のオキタルが顔を引きつらせている。

「この男はママドと言う名前でな。帝国軍の将軍だ」

「えぇ?」


 ニッケランは驚きのあまり面食らい、ルートを見上げた。

 その表情に満足げな将軍。


 彼は戦場に顔を向け「帝国兵たちよ! お前たちの将軍は降伏した! お前たちも降伏するのなら悪くない待遇を約束しよう! しかし、逃げるのなら命の保証はない! 分かったか!」


 返事をする者は居ない。しかし、彼は満足そうに鼻を鳴らすと再び二人を見下ろした。


「よし、事は済んだ。ニッケランよ、我が馬の背に乗るがよい」


 ニッケランはせき込みながら、大げさに体を動かし、誘いを断ろうとする。

「いえ、そんな! 将軍と同じ馬に乗るなど……」

「ええい! 遠慮するな!」と将軍。彼は勢いよく手を突き出し、笑みを深めた。


(これ以上、断るのも失礼か…)

「わかりました…不躾なお願いで申し訳ないのですが、このオキタルという子供も乗せていただけないでしょうか?」

「当たり前だな」

 将軍はオキタルを膝の上に乗せると、彼を後ろへ乗馬するよう催促した。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 同じ馬に乗った彼らはすぐさま移動してゆく。そして、その後ろを数人の従者が追いかける。


(ザザンもでかいが、将軍はさらにでかいな)とニッケラン。


「ニッケランよ。そなたの仲間はこのオキタルと言う少年だけか」

「いえ、もう二人。ザザンとジョンと言う男が二人ございます」

「ふむ、その二人がどこにいるのか見当はつくか?」


 ニッケランはジョンについて考え込んだ。そして浮かんだ言葉を素直に将軍に届ける。


「ザザンの方は分かりますが、ジョンは乱戦ではぐれてしまい分かりません」


 ルートは少し考え込んだ後、少し振り向いて話を進めた。


「ならばザザンとやらを迎えに行くぞ」

 

(……なんで将軍はこんなにも良くしてくれるんだ?)

 そんな彼の心情を察したのか、一つせき込んだ将軍が「魔法使い…いや、魔操志だったか? それを倒したお前とお前の仲間たちに頼みたいことがあるのだ」

「そういうことでしたか……それでは…」。


 ニッケランはザザンと別れた方角を指した。


 それにルートはうなずくと、馬の手綱を巧みに動かし、方向を転換する。


 沈黙が訪れ、ニッケランは馬に揺られながら戦場を呆然と眺めた。

 王国兵たちに縄で手を縛られ、連行されていく帝国兵たちの姿が、沈みかかった太陽に照らされている。


(そんなにも長く戦ったんだな…)


 戦は一日も掛からずに終わった。しかし、ニッケランにとってはどの戦よりも長く、濃厚で、鮮明に記憶に残る出来事ばかりが起こった戦いだった。


 ニッケランは鼻を鳴らしながら、夕日を眺める。大地は血と太陽の色が混ざり合うことで、美しくもどこか恐ろしい姿へと変貌していた。


(なんだろうなぁ…この達成感と喪失感は…)

 

 魔操志を討ったという大快挙にも関わらずどこかもの寂しい。掌の深手はすっかりと冷えていたが、まだ痛む。どうしてか、心も。


(ここまで追い込まれたことってあったかな…)


 すると、馬の脚が止まった。


「そなたの言っていたザザンと言う男はあれか?」


最後までお付き合いいただき感謝いたします。

評価やコメントをいただけると、物語をより良くしていく大きなヒントになります。

ぜひ皆さまの声をお聞かせください!

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