終結
そこには戦が始まったときに檄をしていた男の姿があった。
「あなたは…確かルート=ファイ将軍では…?」
男は静かにうなずくと「ああ、いかにも。私はルート=ファイだ。まぁフルネームで呼ぶのは不便だろう。ルートで構わん。それでお前に…」
ニッケランの目から肩に視線を移すと将軍は、目を見開き、従者に耳打ちする。
「わかりました」と従者。彼は手綱を引き、どこかへと掛けていった。
「その様子だとかなりの激闘だったようだな。こんなところで話すには場も悪ければ、時間も足りんだろう?」と将軍。
「ええ。二度と体験したくないほどに」とニッケラン。彼は平静を装っているが、体も脳みそも限界を迎えていた。声には息が多く混ざっている。
すると、臨界点を迎えそうな脳みそが戦場のど真ん中であることを伝えた。
「将軍様。ここは戦場の真ん中です。お伝えしたいことは大いにありますが、まずは将軍ご自身のお体をお守りすることをお考え下さい」
戦場には将軍が負けた時点で、敗北が確定してしまうという暗黙のルールが存在していた。これはどんな戦も例外ではなく、今回も当てはまっている事だった。
そんな心配を余所にルートは大笑いを始め「ハハハ! 確かにその通りだ! いやぁ参った。傭兵にわが身を心配される時が来るとは!」
ルートは笑い続け、収まりがついてきたことでようやく話を進めた。
「名前は?」
「ニッケランと申します」
ルートは一つ、うなずいて見せる。
「では、ニッケラン。そなたを安心させるためにも、ここが安全な理由を説明してやろう」
そういうと、将軍は後ろの従者に手招きをし、短い命令を囁いた。
後ろから手に縄をもった騎士が現れ、縄の先には一人の男。
「その男は?」思わず口走ってしまった。隣のオキタルが顔を引きつらせている。
「この男はママドと言う名前でな。帝国軍の将軍だ」
「えぇ?」
ニッケランは驚きのあまり面食らい、ルートを見上げた。
その表情に満足げな将軍。
彼は戦場に顔を向け「帝国兵たちよ! お前たちの将軍は降伏した! お前たちも降伏するのなら悪くない待遇を約束しよう! しかし、逃げるのなら命の保証はない! 分かったか!」
返事をする者は居ない。しかし、彼は満足そうに鼻を鳴らすと再び二人を見下ろした。
「よし、事は済んだ。ニッケランよ、我が馬の背に乗るがよい」
ニッケランはせき込みながら、大げさに体を動かし、誘いを断ろうとする。
「いえ、そんな! 将軍と同じ馬に乗るなど……」
「ええい! 遠慮するな!」と将軍。彼は勢いよく手を突き出し、笑みを深めた。
(これ以上、断るのも失礼か…)
「わかりました…不躾なお願いで申し訳ないのですが、このオキタルという子供も乗せていただけないでしょうか?」
「当たり前だな」
将軍はオキタルを膝の上に乗せると、彼を後ろへ乗馬するよう催促した。
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同じ馬に乗った彼らはすぐさま移動してゆく。そして、その後ろを数人の従者が追いかける。
(ザザンもでかいが、将軍はさらにでかいな)とニッケラン。
「ニッケランよ。そなたの仲間はこのオキタルと言う少年だけか」
「いえ、もう二人。ザザンとジョンと言う男が二人ございます」
「ふむ、その二人がどこにいるのか見当はつくか?」
ニッケランはジョンについて考え込んだ。そして浮かんだ言葉を素直に将軍に届ける。
「ザザンの方は分かりますが、ジョンは乱戦ではぐれてしまい分かりません」
ルートは少し考え込んだ後、少し振り向いて話を進めた。
「ならばザザンとやらを迎えに行くぞ」
(……なんで将軍はこんなにも良くしてくれるんだ?)
そんな彼の心情を察したのか、一つせき込んだ将軍が「魔法使い…いや、魔操志だったか? それを倒したお前とお前の仲間たちに頼みたいことがあるのだ」
「そういうことでしたか……それでは…」。
ニッケランはザザンと別れた方角を指した。
それにルートはうなずくと、馬の手綱を巧みに動かし、方向を転換する。
沈黙が訪れ、ニッケランは馬に揺られながら戦場を呆然と眺めた。
王国兵たちに縄で手を縛られ、連行されていく帝国兵たちの姿が、沈みかかった太陽に照らされている。
(そんなにも長く戦ったんだな…)
戦は一日も掛からずに終わった。しかし、ニッケランにとってはどの戦よりも長く、濃厚で、鮮明に記憶に残る出来事ばかりが起こった戦いだった。
ニッケランは鼻を鳴らしながら、夕日を眺める。大地は血と太陽の色が混ざり合うことで、美しくもどこか恐ろしい姿へと変貌していた。
(なんだろうなぁ…この達成感と喪失感は…)
魔操志を討ったという大快挙にも関わらずどこかもの寂しい。掌の深手はすっかりと冷えていたが、まだ痛む。どうしてか、心も。
(ここまで追い込まれたことってあったかな…)
すると、馬の脚が止まった。
「そなたの言っていたザザンと言う男はあれか?」
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