↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤き日  作者: 溶接作業
一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/107

断末魔

 ニッケランは握っている剣にできる限りの力を込めて、地面を蹴り上げた。

 しかし、火事場のバカ力とも言うべき魔操志の力が、それを圧倒的にしのいでいる。


(まずい!)


 こうしている間にも魔操志は何かを唱え続けている。どんどんと空気が熱くなり、握っている剣も熱を帯び始めた。


(まずい…本当にまずい!)


 少しでも弱っていないだろうか。淡い期待を抱きながら化け物の表情を観察する。


「――冗談だろ?」


 口は裂け、笑顔と言うにはあまりにもおぞましく、醜い口元。まるで、狼のような獣の表情。


 彼は焦りと恐怖心から湧き上がって来たさらなる力に頼って、剣をさらに押し込んだ。


 少しずつ。少しずつだが剣が動き始める。剣がめり込んでいくたびに、悪魔の口からは血が噴き出し、苦悶の声を上げている。しかし、顔はより一層醜悪になり、目をぎらつかせてニッケランを舐めまわすように凝視している。


 さらに必死になって力を込めるが、剣が進む速度よりも周囲を取り巻く空気の方が熱くなっていく。


「くそ! ここまでなのか!」


 突然、後ろから強い衝撃が伝わり、剣がより速いスピードで動き始めた。


「ニッケラン! さっさとそいつ殺してよ!」


 オキタルが背中を押してくれているのだ。しかし、それは彼の望んでいる事ではなかった。


「オキタル、お前はとっとと離れろ! 巻き込まれるぞ!」


 後ろで首を横に振っているのか背中を押す力が左右へ揺れる。


「いやだ! ニッケランに死んでほしくない!」


 その声は恐怖に震え、絞り出したようにかすれていた。


(ここまで来たらやり遂げるしかない)


 ニッケランは再び剣にありったけの力を込めた。

 ずるずると動き、内臓をちぎる感覚が手に伝わる。魔操志はさらに血を吐き出し、唱えている言葉も頼りないものになってきていた。


「あと少しだ! 踏ん張れオキタル!」


 後ろから唸るような声が聞こえ、ほんの少しだがオキタルの力が強くなったように感じた。


 すると、剣がより速い速度で動き出し、奥深くへと差し込まれていく。


 突然、腕を掴む力が無くなった。

 剣は二人分の力が掛かった状態で一気に加速し、魔操志の背中を貫通。


 あまりの熱さに血で濡れている部分が音を立てて沸きあがっている。


 ふと、魔操志の顔を見ると、先ほどと同じように恐ろしい顔をしているが、硬直し、目からは血が噴き出していた。


 突然、体が痙攣し始め、奴は叫ぶ。


「熱い! 熱い熱い熱い!」


 ニッケランは剣から手を離すと、オキタルと共に下がった。そこで気が付いたが、乱戦は魔法に巻き込まれたくなかったからか、ニッケランを取り囲むようにして行われていた。


「熱い! 水が! 誰か水を!」


 喉が裂けてしまうような声に視点を戻すと、いつの間にか地面に転がり、のたうち回っていた。すると、体から黒い煙が上がり始め、肉の焼ける匂いが立ち込め始める。


「うっ…」


 オキタルは人間の焼ける匂いに吐き気を催したのか、手で口を押えている。

 ニッケランは怒涛の出来事と光景に脳みそが間に合わず、呆然と眺めていた。


 温度が止めどなく上がっているのか、大地の上に降り注いだ血がふつふつと泡を浮かべる。次の瞬間、蝋燭のように奴の頭が燃え上がり、体へと燃え移ってゆく。


「ぐあぁぁぁぁぁ! なんで! なんで俺がぁぁぁ!」


 ニッケランと同じように転がり回っているが、奴を取り巻く炎も魔法なのだろう。消える気配はなく、むしろ、より強く燃え上がろうとしている。


「ん? 何だ?」とニッケラン。


 まるで操り人形の糸が切れてしまったようにその場に静止した魔操志。その腕がゆっくりと腹の剣へと向かうと、肉の焼ける音を発しながらそれを勢いよく引き抜いた。


 何かにとりつかれたように感じさせる行動には驚き、二人は後ろに下がる。


 魔操志の顔を見ると、人間の顔つきに戻っているが、どこか虚ろで、無意識に動いているように見えた。


 すると、剣を首に立てかけた。


「まさか…」


 ニッケランはこれから起こる凄惨な光景を頭に思い浮かべ、震えた。オキタルも同じように目を見開き、結末を見届けようとしている。


 剣が動き始め、首に徐々に食い込んでいく。炎に包まれているせいで高温になった剣は、肉を切り裂いた瞬時に焼き付け、止血してしまう。


 空気にはむせ返るような、焦げた匂いがさらに充満した。


 魔操志は痛みと酸欠からか歯を食いしばり、大きく唸る。しかし、剣がより一層食い込んだように見えた瞬間。奴の首は宙を舞った。


 赤く染まった大地に乾いた音を立てながら転がる首。それはニッケランの足元にたどり着くと、静かに止まった。


 ガシャン!


 バケツが落ちるような音に心臓が太鼓を打った。


 不思議なことに、奴の体が灰と化し、すべてが空に舞い上がるまで主人に付き従うように鎧は宙を舞い続けていた。そして、最後には地面に落ちたのだ。


 気が付くと平野は静まりかえっている。彼らの体を自然の風が撫でた時、ニッケランは腰を抜かしてしまった。


「痛っ! ――はぁ、生きた心地がしない…」


 小さな穴を開けた肩を優しく触りながら、ニッケランはふと違和感を覚えた。


「あれ…? 乱戦が収まってる…」


 周囲の兵士たちは敵味方関係なく、ニッケランを凝視していた。


「おい! ニッケラン!」


 突然、オキタルが負傷している方の肩を叩いた。


「痛! おい! お前、この肩が…」

「何やってんだよ。皆、勝鬨を上げてほしいんだよ」

「はぁ? 将軍とかがやる……あれか?」


 オキタルは何度もうなずくと、さっさとしろと言わんばかりに顎をしゃくった。


(恥ずかしいけど……オキタルがやってほしそうだ)

 彼の目は今までにないほど輝きに満ちており、珍しく夢を見る少年のような表情になっていた。


 ニッケランは一度すべての息を吐き出し、間を置く。

 そして目一杯息を吸い込んだ。


「うぉぉぉぉぉぉ!」


 それに呼応するようにオキタルが叫び、少し遅れて王国兵たちが一斉に声を上げた。


 戦場は王国兵の雄叫びに包まれ、対照的に帝国兵たちは剣を地面に投げ捨て、ニッケランを呆然と眺めている。しかし、帝国兵の顔は悲しみや憎悪に満ちたものではなく、どこか安心しているようなものを感じさせた。


 すると、後ろの戦場から徐々に歓声が静まり返り、それが伝播するようにして、戦場は突如、静寂に支配された。


 ニッケランは何事かと思い、耳を澄ませる。すると、馬の足音が近づいてきていることに気が付いた。


「そこのお前か? この歓声を巻き起こしたのは」


最後までお付き合いいただき感謝いたします。

評価やコメントをいただけると、物語をより良くしていく大きなヒントになります。

ぜひ皆さまの声をお聞かせください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。