終結
ニッケランはいきなり話しかけられ、驚き振り返った。
そこには戦が始まったときに檄をしていた男の姿があった。
「あなたは…確かルート=ファイ将軍では…?」
聞くと、男は静かにうなずいた。
「ああ、いかにも。私はルート=ファイだ。まぁフルネームで呼ぶのは不便だろう。ルートで構わん」
ルートはそういうと口を開こうとした。しかし、視線がニッケランの肩に移動すると、口を閉じ、隣に
いる側近らしき男に小声で何かを命じ始めた。
何かを話し終えると、ゆっくりと口を開いた。
「その様子だとかなりの激闘だと想像できる。こんなところで話すには場も悪ければ、時間も足りんだろう?」
何を言っているのか理解出来なかった。将軍と喋っていることや先ほどまで、死闘を繰り返していたことなどが合わさり、脳みそはすでに限界を迎えていた。
その限界を迎えた脳みそは、ニッケランにここが戦場のど真ん中であることを思い出させた。
「将軍様。ここは戦場の真ん中です。お伝えしたいことは大いにありますが、まずは将軍ご自身のお体をお守りすることをお考え下さい」
戦場には将軍が負けた時点で、敗北が確定してしまうという暗黙のルールが存在していた。これはどんな戦も例外ではなく、今回も当てはまっている事だった。
そんな心配を余所にルートは大笑いを始めた。
「ハハハ! 確かにその通りだ! いやぁ参った。傭兵にわが身を心配される時が来るとは!」
ルートは笑い続け、収まりがついてきたことでようやく話を進めてきた。
「名前は?」
緊張し、口が上手く回らない。一旦口を閉じ、心の波を沈め、そして、言葉を出した。
「ニッケランと申します」
ルートは一つうなずいて見せた。
「では、ニッケラン。そなたを安心させるためにも、ここが安全な理由を説明してやろう」
そういうと、将軍は後ろの従者に手招きをし、短い命令を囁いていた。
すると、後ろから一人、手に縄をもった騎士が現れた。その縄の行き先を追うと一人の男が縄で何重にも巻かれていた。
「その男は?」
頭に浮かんだ疑問を、何も考えずにルートに伝えてしまったことを後悔した。
しかし、ルートは何も思っていないのか、気前よく説明してくれた。
「この男はママドと言う名前でな。帝国軍の将軍だ」
ニッケランは驚きのあまり面食らい、ルートを見上げた。
ルートは一瞬、笑みを浮かべ、すぐに顔を戦場へと向けた
「帝国兵たちよ! お前たちの将軍は降伏した! お前たちも降伏するのなら悪くない待遇を約束しよう! しかし、逃げるのなら命の保証はない! 分かったか!」
戦場全体に響き渡る大きな声で叫ぶと、もう一度笑みを浮かべ、ニッケランの方を向いた。
「よし、事は済んだ。ニッケランよ、我が馬の背に乗るがよい」
ニッケランはせき込みながら、大げさに体を動かし、誘いを断ろうとした。
その様子にルートはまた笑い始め、しかし、「遠慮するな」と手を差し伸べてくる。
結局これ以上、断る気にはなれず、結局ルートの馬に乗せてもらうことになった。
「不躾なお願いで申し訳ないのですが、このオキタルという子供も乗せていただけないでしょうか?」
話を聞くやいなや、将軍はオキタルの体を簡単に持ち上げ、膝にのせて馬を走らせ始めた。
ニッケランは馬に乗り、ルートと同じ高さになったことで気が付いた。身長が異常にでかいのだ。
(ザザンもでかいが、将軍はさらにでかいな)
オキタルも思ったようで、時折ルートの方を向いては上を眺めている。
その後、少しの間、沈黙が続いたが、最初に口を開いたのはルートだった。
「ニッケランよ。そなたの仲間はこのオキタルと言う少年だけか」
「いえ、もう二人。ザザンとジョンと言う男が二人ございます」
ルートは話を続けた。
「残りの仲間がどこにいるのか見当はつくか?」
ニッケランはジョンについて考え込んだ。そして浮かんだ言葉を素直に将軍に届ける。
「ザザンの方は分かりますが、ジョンは乱戦ではぐれてしまい分かりません」
ルートは少し考え込んだ後、少し振り向いて話始めた。
「ならばザザンとやらを迎えに行くぞ」
ニッケランは驚き、声を上げてしまった。
「魔法使い…いや、魔操志だったか? それを倒したお前とお前の仲間たちに頼みたいことがあるのだ」
「そういうことでしたか…」
妙に優しく対応するルートの真意を知り、少し安堵した。このまま処刑台にでも連れていかれると思っていたからだ。
ニッケランはザザンと別れた方角を指した。
それにルートはうなずくと、馬の手綱を巧みに動かし、方向を転換する。
また、沈黙が訪れ、ニッケランは馬に揺られながら戦場を呆然と眺めた。
王国兵たちに縄で手を縛られ、連行されていく帝国兵たちの姿が、沈みかかった太陽に照らされている。
(そんなにも長く戦ったんだな…)
戦は一日も掛からずに終わった。しかし、ニッケランにとってはどの戦よりも長く、濃厚で、鮮明に記憶に残る出来事ばかりが起こった戦いだった。
ニッケランは鼻を鳴らしながら、夕日を眺める。大地は血と太陽の色が混ざり合うことで、美しくもどこか恐ろしい姿へと変貌していた。
すると、馬の脚が止まった。
「そなたの言っていたザザンと言う男はあれか?」
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