除夜の鐘
アネやん目線でお楽しみ下さい(^^)
絲の駄犬っぷりのせいでおせち作りは手間取ったけれど、白金塊と金塊2個が手に入ったから、工場のレベルアップが出来た。あたしはすき焼きを煮込みながら、絲から教えてもらったゲームをホクホク進めていた。
「たっだいまぁー!!」
オリさんが仕事を終えて帰って来た。
「おかえりなさぁーい! 遅くまでご苦労様です」
「つっかれたぁー。人手が足りなくて、ちょっと帰るのに手間取ったわ。琉偉はもうお風呂に入った?」
「さっきね。オリさんも疲れたでしょ? すぐにお風呂入ったら?」
「そうする! 帰りはさすがに寒かったぁー。直行するわ」
「それがいいわよ。もう少しですき焼きも出来る上がるし」
「肉はッッ!?」
「多めに入れたわよ! オリさん、お肉ばっか食べるんだもん。去年より奮発したわよ」
「さっすが、琉偉!! 分かってるねぇー」
「でも、お野菜もちゃんと食べてよ?」
「分かってる、分かってるってぇー! じゃあ、お風呂サッサと入ってくるわー」
「ゆっくり温まった方がいいわよー」
「あいよー」
そう返事したオリさんは嬉しそうに鼻歌を歌いながら、お風呂場へと向かって行った。
我が三谷家の大晦日の夜はすき焼き、元旦の朝におせちを食べるとしている。その家によって様々だろうけど、あたしは大晦日の夜にオリさんとすき焼きをつつくのが好きだ。酔っ払ったオリさんが絡んでくるのは少しウザくて厄介だけど、それでも日頃できない会話が出来るから嬉しいし、楽しい。
オリさんはパートとはいえ、日頃は看護師として忙しい日々を送っているからゆっくり話をする事も出来ないし、お友だちと出掛ける事も多いから、向き合ってのんびりと食べられる事は少ない。正直、少し寂しさを感じる時もあるけれど、これ以上の心配をかけないように、迷惑は掛けないようにと、そう思っている。それでなくとも高い授業料に教材やら、いろいろと負担をかけているはず。
だから高校入学したら、バイトをすると言ったのだけれど、
「青春は一度きり!! バイトするくらいなら勉強と学校生活を楽しみなさい、以上ッッ!! 青春ッ、1・2・3ッ、だァアアー」
と言って謎に叫ばれたし……。そんな変なオリさんだけど、あたしは感謝しかない。確かにバイトしていたら、身がもたなかったなと、今は思う。何気に放課後は残って作業する事が多いし、デザイン部もあるし、それに駄犬も走り回るし。
すき焼きの最後の仕上げをしながら、そんなことを思い出し笑っていると、
「お? 何ひとりで笑ってんのよぉ? んはぁー、イイにぉーい♪」
「早いわね……。ちょっと思い出し笑いしてたのよ」
「なになに? 彼女とのこと??」
「彼女はいませんッ!! 絲のことですぅーッ!!」
「……あっやしぃー」
「ったく、何言ってんのよ……。あ、もう出来るわ。お酒は……いちばんのお気に入り〝曇晴らし〟にする?」
「いーねー! 〝曇晴らし〟にすき焼きとか、格別のご褒美だわ。天国ぅー♪ はーやーくぅー!! 食べたいッ、飲みたぁーいー」
「ハイハイ、あと少しだから、先に髪を乾かして来なさいよぉ」
「えー……」
「えーじゃないの! オリさん、髪が痛むわよ?」
「もー……分かったわよぉ。すぐに乾かしてくる」
そう言って髪を乾かしに行き、その間にすき焼きも出来上がった。リビングテーブルへと移動させ、それぞれの席へ着いた。
ついてすぐに、オリさんお気に入りの錫お猪口にお酒を注いであげながら、
「あたし、これを注ぐと毎年感じるんだけど、日本酒のにおいってやっぱ苦手だわー……」
「このにおいがイイんじゃなぁーい! 琉偉はお子ちゃまだからねー。〝曇晴らし〟は芳醇なイイにおいよぉー……っとと。そのくらいでいいわ!」
「どっちがお子ちゃまなんだか……」
「歳を重ねていくと、これもにおいの良いおいしい飲み物になるかもよぉー?」
そう言って錫お猪口を片手にカッコをつけるオリさんに、大好きなソーダを注ぎながらあたしは、
「そうかしら? じゃあ、飲めるようになったら、いつか一緒に飲みましょうね」
「いーねー! んでは、飲み物も注いだところで……一年、お互いお疲れ様でした! かんぱーい!」
「かんぱーいッ!!」
そうして乾杯のグラスを鳴らし、すき焼き鍋をつついたのだった。
一頻り食べ終えたオリさんが、
「はぁー……やっぱり琉偉の作るすき焼きは最高ねぇ。今年もこのすき焼きが食べられて良かったわー」
「何を言ってんのよ」
「いや、本当にさ、琉偉のね、この美味しいすき焼きの味はどこに行っても巡り会えないのよねぇ」
「そうかしら? 他に何処ですき焼きを食べたのよ?」
「前も何回かあったけどね。最近だったら……ホラ、この前! 眞知子ちゃんと旅行に行った先でさー、旅館のお料理で出たのよ」
「へぇー……すき焼きが?」
「そう! 眞知子ちゃんは美味しいって言ってたんだけど、私はこの美味しいすき焼きを食べてるからさぁ。あ、でも刺身は美味しかったな」
「それぞれの好みがあるからね。仕方ないわよ」
「そうだねぇ……。私は毎年こんな美味しいすき焼きを食べさせてもらえて……幸せだなぁって、なんかさぁ……」
そう言って、黙って俯くオリさんに、
「へ? どうしちゃったの、オリさん? ……オリさん? 泣いてるのッッ!?」
「泣いてないわよッッ!!」
「やだ!! 泣いてるじゃなぁーい。んもう、そんなに飲んだかしらぁ?? 泣き上戸? いや、歳取って、涙腺が緩くなったのかしら?」
「歳取った、言うなぃッッ!!」
「分かった、分かった。はい、ティッシュ!」
「ん、ありがと。……なんていうか。……琉偉がさ、こんなふうになるなんて……小学生の時は考えられなかったからさぁ。あの頃はこの子の将来はどうなるんだろうって、その不安ばっかりでさ……」
「あー……ヤンチャしてましたもんねぇ」
「ヤンチャどころじゃなかったわよ! 魔人だったわよ!? 次から次へと、まぁアレコレと……」
「若かったのよぉー」
「今も十分、若いけどね! はぁー、嫌味かしら」
「アハハ!」
「ねぇ……今更なんだけどさ。……あの時はどうして、ああなってたの?」
「んー……そうねぇ……。今にして思えば……胸の中がね、ポッカリと穴が空いてたというか……。何をしても塞がらない大きな穴がさ……。……突然の事故で家族を亡くして、受け止めきれなくて、切なくて、もどかしくて、悔しくて……って。時間が経てば経つほど、いろんな感情が巡ってて、制御出来なかったのよね……。荒れ狂ってましたの! オホホホ」
「ましたのって、笑ってるけどさ、あんた……本当に酷かったよ? 荒れ狂うなんて可愛いもんじゃなかったしね。今の姿はまやかしかと思うくらいだもん」
「そう言いながらも黙って、寄り添ってくれてたじゃなぁーい。今になってあの頃の愚痴を言うつもり?」
「そうだね! いま言わなきゃね! 私の振り回されて悩んだ時間の制裁を受けなさいッ」
「やーよ! もう時効だわ」
「でもさ、……ほんと、琉偉、変わったよね。何かキッカケがあったのよね? ある日突然、家に帰ってきたと思ったら、人が変わったように大人しくなってたんだもん。嵐の前触れかと思って、しばらくビビってたわよ!! 何があったのよ?」
「何かあったかしら?」
「絶対あったはずッ! あったね!! 私にはわかるッッ」
「そーねー……んー……。あ、そういえば……なんかお兄さんに話をされた事があったわね」
「お兄さん?? 誰よ!?」
「分からない……通りすがりのお兄さんだったから。それに、もう5年くらい前の事だから、忘れちゃったわー」
「えぇー!? 誰なのよぉ?」
「知らないわよぉ。名前聞いてないし、確か帽子を被ってて、マスクもしてたし? 顔がよく分からなかったもの」
「えぇー……。それで? その人からなんて言われたの?」
「周りは思うほど幸せじゃないよって言うような話だったような……」
「幸せじゃない?」
「うーん……朧げなんだけど。あたしの目がね、周りの幸せを妬んでるって言ってて……」
「へー……」
「なんかお兄さんと話をしてたら、急に雲が晴れたような気持ちになったような記憶はあるのよ。だけど、話した内容もうろ覚えで、顔なんて殆ど覚えてないわね……」
「そうなんだぁ……。私の知らないところで琉偉を救ってくれた人がいたのねぇ」
「いや、その後にヤンチャが鎮まったかは覚えてないけどね!? スッキリとした気持ちになった記憶は何となくあったから、それかなって思っただけで……」
「そっかぁー……。いつかその人に会えたら、お礼が言いたいわねぇ」
「会える事は一生ないわね、多分」
「そうよねぇ……。じゃあ、琉偉の更生に、またかんぱぁーい!」
「更生ってww まぁいいわ! かんぱーい♪」
それからこの1年の学校生活での事や部活、そしてオリさんの高校時代の事、そして父さんや母さんの昔話を聞いていたら、除夜の鐘が静かに鳴り始めていた。例年にない楽しくて、懐かしいそんな気分の年明けを迎えたわ♪
お読み下さり、ありがとうございます○┓))ペコリ
良いお年をお迎えください(´꒳`)ノ⭐︎




