表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢の歩き方  作者: 高坂千穂
  10月
40/161

40、悩ましくても打つ手のないもの

※ 夢、気持ち悪いです。ご注意ください。

 遠く東(ルティティナ・)方の国(ルコンティキナ)の国の王城は、リルルの住むお城とはまるで違って、まさに宮殿だった。広々とした敷地はまるで公園の中のアトラクション施設のようで、観光客がいないのが不思議なくらいだった。

 前来た時は価値がよくわからなくて何とも思わなかったけれど、こうして前世の知識を得て見直してみるとこれは歴史的価値もありそうだし、何より規模がすごいわ、とリルルは思った。絢爛豪華の贅を尽くした作りで、属国からの献上品が多いとこういう贅沢が出来るんだろうなと変な意味で感心していた。

 好戦的なこの国は、王都に攻め込まれる前に相手国を潰せる軍事力があるから出来る贅沢なのだろうな、とも思う。

 そういう意味ではうちのお城は要塞だわ…、塀に囲まれているし、砲台もあるし備蓄庫もある。戦争向きなのは自分の国の自分のお城だと思う。でも、国の方針は戦争回避が第一だった。


 馬車から降りると、案内係も兼ねた護衛の騎士たちが広い宮殿内を案内してくれる。少し肌寒い。母国では今ぐらいの時分なら、まだ暑い日があるだろう。でも、もうこの国は冬の準備が始まっている。リルルは本当に遠くまで来たのだわ、と思った。

 今回リルル(ヴァーリャ)の国(・ギリア)の正式な親善大使として謁見することになっているリルルは正装していて、自国で事前にペンタトニークの商会で姉と父の監修のもと作らせたクリーム色の生地に金糸で刺繍を施した豪華なドレスを着て、髪は結い込んで真珠の簪をいくつか差し込み、頭に王女の証である金のティアラを付けていた。ドレスと同じ金糸の刺繍を施したクリーム色の手袋をした左手の薬指には、祖母の形見のピジョンブラッドルビーの指輪を嵌めていた。左手に嵌めたのは、婚約者がいるという意思表示だった。

 同行して隣に立つペンタトニークも自国の正装をしている。白い詰襟の服を着ていて、首元に大きな青い宝石をつけていた。左手には大きな宝石が付いた指輪をそれぞれの指に嵌めている。

 登城する馬車の中で、それぞれの石の名前を教えてもらった。トラピッチェエメラルド、パライバトルマリン、ターフェアイト、黒真珠にクリソベリル…。リルルは同じものを図書館で鉱石図鑑で探そうと、こっそり石の名前を覚えていた。

 宮殿で合流した母国の大使は、現ピフルール公爵の長男のセオドアで、中つ国の大使のゼノンと同じ血筋に当たるだけあって、雰囲気がよく似ていた。まだ二十代で薄い茶金髪に薄い黄緑色の瞳で背が高く足の長い彼は、にっこり微笑んで同行してくれた。

 リルルたちのすぐ後ろには、クグロワとサミラも王城の女官の正装をして書簡を捧げ持ちながらついてきてくれていた。女官の正装は、紺色の生地に黒色で薔薇の花の刺しゅうを施したシンプルなドレスを着て、白いレースのたすきをかけていた。まとめ上げた髪は白いレースで巻かれていた。

 クグロワもサミラもきりっとした面持ちで、いつもよりも品があって美しかった。ペンタトニークに付き添って来ていたロックはクグロワを見るたびに照れて頬を染めていた。初々しい乙女みたいな反応なのよね、とリルルはヒヒオヤジってこんな心境をいうのかしらと思いながら意地悪く見ていた。

 

 謁見の間に通されると、国王と王太子や宰相や大臣たち、肝心な第二王子と第三王子の姿があった。いつもなら公務でいない王子たちがいるのは、事前に申し入れしておいた成果だろう。

 リルルは茶番だわと思いながら姿勢を正して優雅に待機していた。きっとラウラお姉さまの婚約者決定の情報などとっくに把握しているだろうに。

 こんな紙切れ一枚で人生を振り回されるんて、と婚約者を沢山持つ自分のことは棚に上げて、気の毒に思った。


 昔、クグロワたちが教えてくれたように、一番かっこいいのは第三王子だわ、と思いながらそっと観察する。堂々とした体躯に精悍な顔つきの王子たちは、誰も軍人上がりなのか、颯爽としていて動きに無駄がなかった。まあ、3人とも、私の好みではないけどね、とも思う。

 リルルは淑女の礼をして面と向かうと再会を喜び合い、国王との久々の再開に和やかに会話をし始めた。年の割にしっかりとした体格の国王は背が高く俊敏な印象で、堂々とした体形で老いても筋力は人並み以上にあるように見えた。この人はトラを羽交い絞めにできそうなのよね、とリルルは勝手な妄想を抱いた。それを思うと、セオドアは道具を使わないと猛獣に勝てなさそうな程度の威圧感だし、王子たちも二人掛かりでなら虎を羽交い絞めには出来そうだった。

 そう考えると、私の知ってる王様って一人でも猛獣を倒せそうな人ばかり…! てことはお母さまも? 母に睨まれる想像をして、リルルは肩を竦めた。あ、それは想像しちゃいけないわ…。


「リルル殿、遠い旅路、はるばるご苦労であった。さ、もっと近くに寄りなさい、」

 王座に腰かけた国王から手招きして呼ばれて、このおじいちゃんはやたらと触りたがるんだよな~と思いながら、リルルは「ええ、喜んで、」と国王のすぐ前に跪いた。

 リルルの祖父の世代の年齢の国王は、直ぐにリルルの両手を握った。親指で撫でるように手を握られると、お年頃のリルルは照れてしまう。

 子供の頃は膝に乗せられて抱っこまでしてもらったんだっけ。今はもう、羞恥心が勝ってしまってできないわ…。

「また美しくなったね。何年かぶりだろう、ここ数年訪れてはくれなかったね。」

 恋人にでもするような優しい表情でリルルを見つめて、手を握ったまま国王はリルルに話しかける。

「ええ、この国までは遠いですから。学校もありますし。」

 幼い頃に植樹の旅行で来てから、2度か3度は訪問しているはずなんだけどなあ、とリルルはこっそり思う。遠く東方の国の国王は高齢で、晩婚の為、子供の年齢はまだ若い。もうじき王太子夫妻に王位を譲るのだとは聞いていた。

「もっと近ければ、もっと会えるだろうになあ、」と手をナデナデされると、恥ずかしくなってくる。

 子供の頃からリルルを可愛がってはくれたけれど、よその国の王様の膝に乗るように言ってくれたのはこの人が初めてだった。

「今日は、何か持ってきたのだろう? ラウラ殿か?」

「ええ、ラウラお姉さまから書簡を預かって参りました。」

 リルルが答えると、クグロワが手にしていた書類の入った筒を恭しく差し出し、侍従が丁寧に受け取り国王へと渡した。

「どれどれ…、」

 国王はリボンを解いて筒の蓋を開け中の羊皮紙を取り出し、「ふむふむ」と言いながらそれぞれ目を通し、王太子に向かって手招きした。

「これを弟たちに見せてやりなさい。」

「畏まりました。」

 ああ、婚約解消の伝書鳩って嫌な役割ね、とリルルは思った。お互いに損のないように大国同士が結ぶ同盟に似た婚約が解消されると、後に残っているのは緊張状態だ。この後の対応次第では、また勢力争いの小競り合いが始まっていく。

 背の高い第二王子と第三王子は一緒に書類を見て、「わかりました、」と答えて、特に心が動かされたような様子もなかった。

 国王はリルルの手を握って、優しく顔を見つめて、柔らかく微笑んだ。

「リルル殿は、まだ婚約者がひとりに決まっていないのだろう? どうだろう、この者たちとするつもりはないか? 第二王子(ヴァルター)第三王子(シュトルク)も今、婚約がなくなった。」

「恐れながら、さすがに姉の婚約者だった方たちに、時を置かずして飛びつくような真似は致しません。」

 リルルは物怖じせず堂々と答えた。キチンと言うべきことは言わないと大変な目にあってしまう。

「年が離れすぎているからか?」

「この国まで来るのが遠すぎるのです。」

 ハッハッハッ、と国王はおかしそうに笑って、「このまま嫁いで来ればよいではないか、」とにやりと黒い笑みを作った。

「今回はそういうつもりのある旅行ではありませんので、また機会があれば。」

 にこりと笑ったリルルの顔を見て、国王は「ますますカレン様に似て美しいなあ、私のもとに来てくれるのが一番嬉しいのだが、」と笑った。カレン・エカテリーナは祖母の姉で、先代の時見の巫女でもあった。意外な人の名前に、リルルはドキッとした。

「リルル殿、今なら何でも願いを叶えてやれるぞ、どうだ?」と笑う。

 冗談じゃなさそうなところが怖いわね、とリルルはひやひやする。この国王は王妃の他に寵妃に側妃や愛人がいたはず、もしかしたらもっと他にもいるかもしれない。

「今回はいつまで滞在する予定なのだね?」

「そこにいらっしゃるペンタトニーク公にお世話になっておりますから、1週間程です。」

「ほう、ペンタトニークの屋敷になあ…。」

 国王は笑っていながらも鋭い目つきで、リルルを見つめた。

「確か、ラウラ殿とペンタトニーク公の子息も婚約しておったと記憶しておるが、まさか、その者とリルル殿は婚約するおつもりか?」

「いいえ、先ほど申しあげた通り、姉の婚約者だった方とは致しません。」

「そうか、それは少し安心した。では、王都にいる間は、この宮殿へ滞在されよ。よいかな、ペンタトニーク公。そなたには無事に姫を送り届けてくれた礼を、改めて褒美として取らそう。」

「恐悦至極にございます。」

 嫌と言える雰囲気じゃないわね〜、とリルルは腹をくくることにした。

「ありがたくお受けいたします。」

 リルルがお辞儀すると、「よいよい、」と言いながら、リルルの顔を国王は撫でた。

「そなたは美しい。珍しい髪の色も、美しい。この宮殿に滞在する間に気が変わってくれることを願おう。」

「ふふ、では気が変わる前に出国させてもらいましょう。」

「その時はその時だ。まあ良い、今日はこのまま留め置かれよ。」

 エー、とリルルはぶーたれそうになったけれど、我慢して微笑んだ。大使とペンタトニークをちらりと見ると、二人は小さく頷いていた。


 宮殿の客室に案内されたリルルは、寛ぐ間もなくそのまま昼食会に呼ばれ、やっと部屋に返してもらえたのは歓迎の舞踏会が終わった後だった。その間、クグロワたちは別行動をして部屋の準備や荷物の整理に追われていた。予定と全く違う展開に、二人は細心の注意を払って対応したのだった。

「まるで人質みたいじゃない?」

 リルルが着替えをクグロワたちに手伝ってもらいながら呟くと、サミラが小さく囁いた。

「ペンタトニーク公からは、ロックが毎日様子を伺いに上がりますとの言伝を頂いておりますから、何かあれば国の方へ連絡はいくと思います。」

 悠長な話だな~とリルルは思った。船の行き来だけで半月は消耗してしまうだろう。そんなのを待つよりは、夢で伝えた方が速そうだなと思った。

「クグロワ、予定は何か聞いてる?」

「当初の予定では毎日のようにこちらの貴族と昼食会の予定が入っていましたが、それがなくなっただけですね。」

「貴族ではなくて王族との昼食会になりそうね。」

「お着替えも先程ロックが届けてくれました。こちらの国王陛下からの贈り物もありますから、衣食住だけは心配はないと思います。」

「何を貰ったの?」

「ドレスを何着か。この国の流行りの形らしいですね。リルル様は何でも着こなされますから、お似合いになると思いますよ?」

「はあ…、」リルルは肩を落として下着姿になった。

 どれを選んでも自分の趣味など無い。誰かが作ったリルルのイメージを再現するだけだった。

「お風呂くらいは一人で入ってもいい? 設備はあまり変わらない?」

 クグロワとサミラは部屋の中を点検した際に見た浴室を思い浮かべながら答える。主寝室と侍女室、浴室、応接室がつながった宮殿の客室は、部屋の間取りや大きさは母国の城のものとよく似ていたけれど、装飾品が派手派手しく煌びやかだった。

「ええ、先ほど確認しましたが、何も不審なものもございませんでした。

 贅を尽くした装飾の落ち着かない輝きに、少し下品ね、とサミラは思った。

「大丈夫だと思います。リルル様、何かあったらお呼びください。」

「ごめん、じゃあ、ちょっと、一人になりたいの、いいかな?」

「畏まりました。」

 クグロワとサミラがにっこりと微笑むと、リルルは「じゃあね」と言って浴室へと消えていった。


 リルルが想像していた通り、翌日からは国王と腕を組んでの散歩だったり、やたらとスキンシップの多い第二王子と中庭でのお茶会だったり、第三王子と読書会のような雰囲気のするお茶会だったり、子供も交えた王太子夫妻と昼食会だったり、貴族を集めての歓迎の舞踏会だったりと、もてなされたと言えば聞こえはよかったものの、珍しいリルルを寄ってたかって堪能されるといった日々が始まった。

 ロックが差し入れがてらに王都にあるチョコレート専門店で買った手土産を持ってきてくれて、クグロワやサミラの話し相手になってくれたので、幸い異国の城でさみしいと感じることはなかった。

 連日の舞踏会で踊りつかれ、くたくたになって眠ったリルルは、久しぶりに夢を見た。


 ※ ※ ※


 リルルが立っていたのは、ひっくり返したおもちゃ箱のような部屋の中だった。メリーゴーランドのようなオルゴール、おもちゃの兵隊、バレリーナの人形、頭でっかちなくるみ割り人形、床に転がるビー玉、崩れかけている積み木のお城、グラスホッケーのスティック、羽のついたボール…。

 窓の外は雪がちらついていて、部屋の中は寒かった。ストーブの近くに近寄ると、鍋の中にお湯が張られ、カップがふたつ煮えていた。中にはココアが入っている。これって湯煎? リルルは首を傾げた。

 部屋には新鮮な薔薇の花束が無造作に床に転がっている。花瓶に生けたり手入れもしないの? とリルルは呆れてしまった。

 床に立て膝をついて座った白いヤギのような頭の人間と白いトラのような頭の人間が、二人、チェスをしていた。二人とも、タキシードを着ている。

 よく見ると、手にした駒は本物の…、小さな人間だった。

 鎧を着ていたり、ドレスを着ていたり、王冠を頭にのせたりと、駒に見立てた装いをしていた。

 騎士が動くと、手にした槍で相手の胸を突いた。人間が小さいのかヤギ人間たちが大きいのか分からないけれど、あまり友好的な扱いではなかった。悲鳴を上げて相手の騎士は馬から崩れ落ち、とられた駒はポイっと箱の中に摘まんで捨てられていた。

 リルルが近寄って盤上を覗き込むと、陣地には旗が立ててあった。

 あれ、この旗はおじさま(マティ)の国(・パレータ)の国旗だわ。こっちは、遠く東(ルティティナ・)方の国(ルコンティキナ)…?

 どんどん駒が減って、どんどん駒の人間も死んだ。

 盤上に血しぶきが飛び、赤く血に染まる。

 ペンタトニークの陣地の駒がもういくつかになった時、ヤギ人間のプレイヤーが「降参」と言った。

「本当にお前は弱いな、いったい何回負けたんだ?」

「数えるのを止めてしまったよ。沢山の者がいなくなった。それだけはわかる。」

「そうだな、人間どもがいなくなってはつまらないからな。では、これをやろう、」

 そう言って摘まんで、勝ったトラ人間のプレイヤーが差し出したのは、人間の姫だった。

「お前にはこれをやるから、私の下僕となれ。遊び方を変えてやろう。これはその証だ。」

「そっちが勝ったのに、褒美をくれるのか?」

「その娘は王家の血をひいていない。使えないからくれてやるのだ。」

 にやにやとトラ人間は笑った。

「お前の国の王族にくれてやった姫は、私の国の王族の娘ではない、側妃という名の愛人の連れ子、ただの平民の娘だ。王族なのに平民の血が混じる屈辱を味わうのが、お前の『負け』だ。」

 リルルが目にしていたのは、茶金髪の平凡な顔の姫だった。あの顔は見たことがある。遠く東(ルティティナ・)方の国(ルコンティキナ)の姫君の一人だ。リルルと年の近い娘の名はマリア・ジョーネと言った。

 もしかして、とヤギ人間の手元を見ると、正装したブルーノが握りしめられていた。

「平和的な解決だろう? お前はそれ以上手元の駒が減らない。私は未来永劫お前に勝ち続ける。遊び方も変える。そうだろう、」

 リルルが入ってきたのとは別の部屋のドアを開けて、白いキツネ人間が部屋に入ってきた、手にした箱の中には沢山の人間が入っている。あれって王太子ミカエルじゃない? リルルは憧れのゲームの登場人物を見つめて胸が躍った。

「よう、結果は決まったんだろう? 私も入れてくれ、」

「ああ、構わん、」

 雑巾で盤上の血を拭うと、トラ人間は雑巾をリルルに向かって放り投げた。

「それでお前の駒についた泥を拭え。」

 手元の箱に入った人間は泥だらけで、誰がなんの駒なのか見当もつかなかった。

 受け取ったたっぷりと血を含んだ雑巾に、手がぬるぬるとして、指の間から血が滴り落ちた。リルルは小さく悲鳴を上げた。


 ※ ※ ※


「変な夢…。」

 マリア・ジョーネが愛人の子なのかどうかをリルルは知らない。それでも、夢は夢だった。この国と母国とは時差があると頭では分かっていても、伝えた方がいいだろうと思う。

 現実は予定だらけで、なかなか朝寝坊が出来ない状況だった。

 こんな遠くに来ても母国の未来を見るのだわと思うと、逃れられない絶望と背負ってしまった運命に、リルルは唇を噛んだ。


 リルルはもう一度寝なおすことにして、父と姉に夢の報告をしに行った。


 夢の報告をし終えて安心したリルルが目を覚ましたのは、もうお昼かという時間だった。姉に会った後に訪れた父の世界で、久しぶりに父に会えて嬉しくてつい甘えてしまって長居をしてしまったのだった。そのあと、サミラたちが起こしに来ないのをいいことに寝なおしたのがまずかった。

「リルル様、もうお加減はよろしいのですか?」

 応接室に現れたナイトドレス姿のリルルに、片付けをしていたクグロワとサミラが気が付いた。

「ええ、えっと…、今日の予定は大丈夫なの?」

「はい。リルル様は体のお加減がよろしくないご様子なので、お休みを、とお願いいたしましたら、快く承諾してくださいましたわ。」

「『長旅の疲れもあるのだろうから、今日はゆっくりと休まれよ』との国王陛下からのありがたいお言葉もいただきましたよ?」

「…クグロワのモノマネは微妙ね。でも、ありがとう。助かったわ。」

「いいえ、お役に立てて何よりです。」

 クグロワとサミラが笑った。

「ロックは今日は来るの?」

「ええ、午後からと聞いてますが?」

「じゃあ、二人とも、お使いを頼まれてくれるかしら。ロックと一緒に、王都に出てお土産を買ってきてほしいわ。」

「お土産ですか?」

「チスエルの子供に、この国のおもちゃを買って帰りたいの。私、今日はこの部屋で寝ていなくてはいけないのでしょう?」

 くすくすと笑ったリルルに、クグロワとサミラは顔を見合わせた。

「あと、ケイティやカロヨン、ヨネアにも。お金は、沢山あるでしょう?」

「ええ、ヨハネス様からお預かりしたお金はほとんど手付かずです。」

 何しろ出掛ける暇がない。チョコレートも大量に買うわけでもない。

「じゃあ、それで、お城に残った…、リディアたちやあなたたちのお土産も買ってきてほしいの。出来れば、ピンクトルマリンかアクアマリンかエメラルドを使ったペンダントがいいな。この国の原産の鉱石だから、みんな喜んでくれると思うの。食べ物は傷むけど、ペンダントなら持ち運び易いでしょ? 本屋さんに寄れたら、クリスに植物の図鑑を買ってきてほしいわ。…ペンタトニーク公のところにいたら、もう少し融通が利いたでしょうけど、ここでは無理だわ。」

「私は残ります。クグロワ、お願いします。」

「サミラ、どうして?」

「こんな危険なところにリルル様一人を置いてはいけません。クグロワの方が私の姉にしても、皆さんの好みを抑えていると思います。」

 きっぱり言い切ったサミラに、リルルも頷いた。

「じゃあ、クグロワ、任せたわ。お願いね。」

「わかりました。」

 時計を見たリルルは、「着替えてもいい?」と可愛く尋ねた。

「おなかすいちゃったから、何か食べたいの。部屋にいてのんびりする一日でも、何か食べてもいいんでしょう?」

「そうですね、」とくすくす笑いながら、クグロワは着替えを用意し始めた。

ありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ