依頼編 あの山を追え ①
崑崙
上下には無窮の空が広がり、前後は円環として繋がる世界。
かつては恒星クラスの巨大な大地が一つだけ浮かんでいる世界だったが、無量大数世界を渡る龍が通り過ぎたことで大地は砕かれ、大小無数の大陸や小島、諸島に分散して広がる。
世界の中心。
円環の中心部には、数万年前に龍が通り過ぎた虚無空間龍風洞が今も存在し、嵐のように、世界を変える力、改変力があふれて猛威を振るい、今も世界をかき乱す。
龍風洞が作り出す改変力による余波が円環内に無数の航路を作り出しており、それぞれの大陸や島に存在するこの世界の神が、航路を渡り歩いたり、別航路に移る各地の航空制御をおこなっている。
それは商いのためだったり、争いのためだったり、島同士の衝突回避のためであったり。
そこには数万年にわたる神と人の営みの中で、明文化されたり、暗黙の了解であったり、慣習であったりと、複雑怪奇な規則、ルール、が生まれるのは必然。
そして世の法則に合わず、はみ出す者達が出るのもまた必然。
彼らは山賊と呼ばれる……規則を無視して、自由に飛び回る島で、他大陸や島に乗り付け、略奪し、逃げ去って行く無法者達。
無法な犯罪者達を取り締まる警邏組織ができあがるのも故に必然。
崑崙世界の女性主神として名高い『峰崔女天主』が住まう世界最大の大陸にして、この世界の名を冠した崑崙におかれた崑崙空海警邏。
その警邏は今大混乱の中にあった。
崑崙から見て、そして世界的に見ても、小規模勢力かつ敵対的な二つの諸島から、それぞれの部族後継者が、謎の山賊によって浚われたという騒ぎが起こっていたからだ。
互いに相手が浚ったと、非難しあい、小競り合いになりかねない一触即発の空気が高まる。
規模的には小さい。
それこそ地方での争いですむ影響力の少ないもめ事。
だがここで重要なのはそれではない。
”謎”の山賊。
この世界にある全ての大陸や、いくつもの都市が存在する島、大型船程度の大きさしかない浮島にしても、元は一つである。
だから主神である峰崔女天主はこの世界を知り、見守っている。
全ての島の所在を把握し衝突を回避するための警告を発し、分割された島へ授ける新たな神生みを行いつつも、人の営みにはあまり関わらず見守る。
警邏から、はみ出した者達の山賊の所在をたずねられても『捜査がんばってね~』と激励を贈るだけ。
だがその主神が動いた。
謎の山賊とそのものが住まう浮き山について聞かれる前から、警邏に訪れ、
『あの子、うちの子じゃないみたい……う~ん久しぶりに縁先生ちゃん呼ぼうっか。縁先生ちゃんの所の神様みたいだし』
龍に砕かれたこの世界を立て直すために救ったもう一人の救世神にして、異界に去った伝説神の名を、旧知の友人を呼ぶ感覚で軽く宣ったからである。
美味しいお酒と、甘いおかしを用意しておけばそれでいいんじゃない?
と、宣う主神のありがたい戯れ言は半ば放置して、式典を司る掌典局が、もう一柱の二大神の数万年ぶりの来訪に大わらわになったのは言うまでも無い。




