始動編 あの山を追え
「貴方はいつも自慢ばかりでっ! 人がお参りに来るようにこうしろああしろと! 私には私のやり方があるんです!」
「ただの放任主義ではないか! もっと管理をしっかりして人の子を呼び込む努力をせず、うらやむのはいい加減にしてくれ!」
「誰がうらやんでいますかっ! 私のお社には山の動物たちがいつもお供えをくれています! その価値を判らない兄様とはもう一緒にはやってられません! 出てってやります!」
「どこかにいける物ならいってみるがいいっ! 我々がどこへ行こうというのだね! お前がよく話している異界の者にでも頼るか!? あのような者に何が出来るというんだ!」
「その傲慢な現世第一主義がだいっ嫌いなんです! 兄様はいつもいつも! 異界の者を見下して!」
激しい兄妹喧嘩は、売り言葉に買い言葉でヒートアップをして、ついに決定的な決壊を迎える。
これが人の子同士の喧嘩であれば問題は無かったであろう。
しかし喧嘩をおこなうのは八百万の神の二柱にして兄妹山神。
この日、寄り添うようにそびえていた双子霊山のうち一つが現世から消失するという前代未聞の事件が発生する。
異界特別管理区第一交差外路所属組織異界事象対応庁によって、火山ガスの発生を理由に人払いがおこなわれて、同時に術式による濃い霧を発生させ人の目を一時的にごまかす事には成功する。
だが真の問題はそこではない。
霊山の一つが欠けたことで、近いうちに霊脈の流れに重大な異変が生じることは必定。
霊脈の乱れは、大地震の発生や魑魅魍魎を生みだし、異界への防御を司る結界にほころびもあり得る国家規模の一大事。
異界へと渡ったとおぼしき神と霊山を現世へと奪還する事が急務とされ、当代最高の奪還者と呼ばれる男に白羽の矢が立つのは必然であった。




