第五章②〜初めての共同作業〜
幼稚園児のお絵描きみたいな、現実離れした橙色の太陽。真っ青な海。白い砂浜。
そして、それぞれ私物の水着に着替えた三人娘と――女子用スク水姿の俺。
「ひゃあ! とてもお似合いですぅ葉栗しゃん!」
女の子らしい花柄のフレア付きピンクビキニ姿に、凶暴なレスポールボディを収納した尾藤が言う。
「へぇ……悪くねぇじゃんか。ブーメランパンツも真っ青の食い込みっぷりだな」
菅ヶ田は黒を基調とした際どいビキニ(下が二枚重ね履きみたいなやつ)でとてもセクシーなのだが、今は誰かさんの存在感の陰に隠れてしまっている。
「見て! すれ違う人皆千博のほうを振り返ってるよー! こんなに浜辺の視線を独占しちゃうなんて、さすが私の幼馴染!」
そう言う詩帆だって、水色のパレオがよく似合っていてまるで妖精のようだ。本来なら、彼女が浜辺の視線を独占していてもおかしくなかったはずだ。
なのになぜこうなった。いや、ほんとなぜこうなった。
言うまでもないが、女子高生のスク水を着た同級生男子は紛うことなき変態である。ピッチピチだし。食い込みすぎて肩と股間が痛いし。乳首浮いてるし。とてもお似合いですぅ? それはもう、ただの悪口ではなかろうか。
それが証拠に、皆笑っていた。
あんなに俺への嫌悪感を剥き出しにしていた尾藤も。
無関心を隠そうともしていなかった詩帆も。
俺の味方だのと殊勝なことを宣っていた菅ヶ田でさえも。
それぞれ作者に言わされたであろう褒め言葉を棒読みしながら、顔を真っ赤にして音もなく爆笑している。そしてこの笑顔はおそらく、作者の描写によるものではない。本来の彼女たちが見せた笑顔だ。
嘲笑かもしれないが、それでも、俺が彼女たちを初めて愉快な気持ちにしたことに違いなかった。だからってこのような形は不本意だし、このようなピチチも不本意だ。キツ過ぎて、アレがもげそう。
羞恥と股間の痛みに悶えていると、突然、静寂の世界に放り出された。音が消えたのだ。波音も、モブたちのはしゃぎ声も。視線の先では、目の前の三人娘が腹立つほど最高の笑顔のまま静止している。俺の身体も動かない。ただ、ギラギラと眩しいオレンジと地平の果てまで続くブルーは色褪せることなく、景色が動きのみを失っている。
ということは、例のやつだ。
(やったな! 葉栗!)
(何が?)
脳内に響く菅ヶ田のハイテンションな声に、若干イライラしつつ応える。
(今、アンタの好感度が少しだけ上がったよ。アタシたちの中で)
(そんなに面白いか?)
(そうだね。ぶっちゃけ腹が捩じ切れそう)
(くっ! どうして作者はこんなバカみたいな修正を……一体何が目的で……)
(なんだ、気付いてなかったのか)
(? 何の話だ)
(そのスク水は、アンタの意志が作者の筆に反映された結果だよ)
は? わけワカメ。
(アンタはアタシを含む他のキャラたちを自分に惚れさせる、そして自分自身もアタシたちを本心から好きになる。そうしてキャラ皆をイキイキさせることで、物語をあの、アレに導こうと考えた)
(ハッピーエンドな)
(そうそう、ハッピーエンド。その目的意識がすでにアンタを「生きたキャラクター」に変えた。だから作者の筆も乗りに乗って、結果アンタに関する描写が当初の予定と変わったんだよ)
(俺は変態になりたいなんて願った覚えはないが?)
(アンタ心の中で言ってたじゃん。「この合宿でこいつら全員本心から俺に惚れさせ、そして俺自身もこいつらを好きになり、ハーレムを嫌々じゃなくしてみせる! ラブ&コメで世界を救うんだ! そのためなら、俺はなんだってしてみせるぜ!」。
……ん? 今何でもするって言ったよね?)
一語一句違わずに真似するな腹立つ。まぁしかしつまり、こういうことか。
ハーレムを本物にしたい→三人娘からの好感度を上げなければ→変態
は??? わけワカメではないが、限りなくわけワカメ。なぜ変態なのか。普通にカッコよくするという選択肢はなかったのか。
確かに、作者の描写のおかげで笑いは取れた。好感度プラス三ぐらいゲットしたかもしれない。でも変態はその存在自体がマイナス一〇〇なので、プラマイで言うと……だいたいマイナス九〇ちょっとではなかろうか? 名探偵の俺は瞬時に複雑な計算の解を弾き出す。
(そんなことないって。好感度プラスいっせんおくまんを進呈。マジおもれー。今後もその調子で頑張ってね)
なるほど、ギャルには少々難しい計算だったかもしれない。それきり菅ヶ田の声は聴こえなくなり、代わりに海水浴を楽しむ人々のにぎわいが戻ってくる。どうやら俺の意志が作者のシナリオにほんの少しだけ影響を及ぼした、その事実を伝えるためだけのテレパシーだったようだ。
かつて、小説を創ることは作者とキャラクターの共同作業だと、菅ヶ田は言った。
最悪だ。最悪の、初めての共同作業だ。
しかも悲劇、いや、喜劇はまだ終わっていない。
「きゃあっ! 千博、スク水が食い込みすぎて、大事なアレがハミ出てるよー!」
「はわわわわっ! 男の人の……は、初めて見ましたぁっ」
「へぇ……見かけによらず立派なもん持ってんじゃねぇかよ……ゴクリ」
おいおい嘘だろ? 今度はポロリかよ……勘弁してくれ。
「ハミ出てんじゃねぇよ。ハミ出させてんだよ」
本人の意志を無視し、最低最悪の公然わいせつ宣言をしたかつて名探偵だった何かは、両手を腰に当て、誇らしげに突き出した下腹部へと視線を落とした。
そこで俺は見た。とてもスク水とは思えないエグいV字からハミ出してぶらぶらと揺れる、大層美味しそうな――うまい棒。比喩表現ではない、ガチモンのうまい棒。
……は? はははのは?
さすがに意味がわからず脳がフリーズする。数秒後また動き出した時、今度は状況の理解を拒否する。
だが、何度見てもうまい棒。しかもこの色味はおそらくめんたい味だ。本来俺の男性のシンボルがあるはずの場所に、うまい棒めんたい味が生えている。
そういえば、さっき電車で席決めするときに俺のうまい棒はめんたい味ということで話がついたんだっけ。あれってアレの隠喩じゃなかったのかよ。そのままの意味だったのかよ。
「食べてぇか? ハニーたち」
「べっ、別にっ! 私はサラミ味のほうが……っ!」
「あっそ。じゃあ、アタシ食べちゃおうかな」
「! 菅ヶ田さんズルいですぅ!」
まさか本当にアソコがうまい棒めんたい味になってしまうなんて、小説、恐るべし。
ちなみにその後、海に入った瞬間にしけってフニャフニャになってしまい女性陣にがっかりされたことは、もはや語るまでもないだろう。
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【私はシンプルにやさいサラダ味派ですね】
【この作者の駄菓子への執念凄すぎだろ……駄菓子に親でも救われたんか?】
【イエスツンデレ! ノータッチ!】
【スク水(笑)もはや名探偵じゃなくて迷探偵だな。事件も完全放置だし】
【……凄く大きいです(うまい棒)】
【わぁ! 女子陣の水着姿を挿し絵で見てみたい! 特に爆乳尾藤さん! ……あ、葉栗しゃんは大丈夫です】
【こうしている今も浅熊さんは生死の境を彷徨っているという事実】
【ギャル万歳! ところでレイヤードビキニって、二枚重ねなのになんで一枚着よりセクシーなんでしょうか? 教えてエロい人】
【やっと少し三人娘のキャラが掴めてきた。けど、やはりまだ童貞の妄想感が否めないなw】
【※主人公は探偵で、ハーレム要員は殺人未遂犯候補です】




