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第四章〜理の側〜


 間違いなく止まっている空間の中で、俺は菅ヶ田と会話をしていた。お互い口は開いていない。脳内に声が届き、脳内で返す。するとまた返事が返ってくる。今までもずっとしていたことように、聞かなくとも方法が自然と理解できた。

 以心伝心的な? へへ、照れるぜ。

(イシンデンシン?じゃなくて、テレパシーだよ。何だよそれ。テンシンハン的なアレか?)

(いや、大丈夫っす)

 ちょっとこいつ、薄々感じていた以上にヤバいんだけど。話通じないんだけど。大丈夫かな……

 まぁ、一旦それは置いておいて。どうして俺たちはテレパシーで会話ができるのか。思案する俺の脳に再び菅ヶ田の声が届く。まるで心を読んだかのようなタイミングで。

(理の側に片足突っ込んでるからテレパシーができるんだよ、アタシは。アンタたちと違ってね)

(理の側に……)

 その説明だけでおおむね確信できた。やはり、さっき覚えた違和感は当たっていた。そして彼女が理の側だからテレパシーができると言うならば、ただ受け入れるしかない。最初から存在する「そういうもの」。それが理なのだから。

 うん……うん、よし。受け入れた。なんたってあの伝説のオタクに優しいギャルだもんな。それぐらいできても不思議はない。と内心でオタクに優しいギャルへの絶対的な信頼感を表明すると、待っていたかのように菅ヶ田が続ける。


(アタシはこの世界で唯一、作者の意志を無視して作中の時間を止め、テレパシーで会話をすることができる。凄いだろ! えっへん! ただし、会話できるのは主人公である葉栗千博。アンタだけ)

(へぇ。大した能力だな。で? その能力に一体なんの意味があるんだ? 世界の不条理に対する愚痴でも言って慰め合うか?)

(フジョ……? てか、今説明してるから静かにしててよ。ええっと、何だっけ……もう! どこまで説明したか忘れちゃったじゃん! 仕方ない、最初から説明するか)

(……)

(アタシはこの世界で唯一、作者の意志を無視して作中の時間を止め、テレパシーで会話をすることができる。凄いだろ! えっへん! ただし、会話できるのは主人公である葉栗千博。アンタだけ。そしてアタシの役目はただ一つ。この能力を使ってアンタを、ひいてはこの小説の結末を、ハッピーエンドへと導くこと。

 世界のフ、フジョーリ?とやらに対する愚痴を言うことでも、まして真面目な場面でつまんないギャグを言って笑い我慢大会をすることでもナイチンゲール。ツルッツル天国)

(……)

(ちょ、なんとか言ってよ。人がボケてるんだからさ)


 いやほんと、なんなんこいつ。

 あまりのポンコツっぷりに重要な説明が全然入ってこず困惑していると、

(ま、前置きはこれぐらいにして、アンタには話さなきゃならないことがある。アタシたちの生みの親である、作者の過去の話さ)

 菅ヶ田はキャラに似合わぬ神妙なため息を一つ落とした後、静かに語り始めた――。


***


 アンタも薄々勘づいてるだろうけど、作者は恋愛に関してすごく疎い。というか、抵抗感が無駄に強い。それにはある理由があるんだよ。

 あれは作者が、いくつだ? そうそう。確か小二~中一ぐらいのときのこと。当時、彼には好きな女の子がいたんだ。え、年齢の幅が広い? まぁあれだ、若い頃よ。細かいことは気にするな。とにかく、作者は毎日その女の子にアタックしていたんだ。

 蒲焼さん太郎をプレゼントしたり。

 それから蒲焼さん太郎をプレゼントしたり。

 あとはそう……蒲焼さん太郎をプレゼントしたり。

 ……まぁ、大事なのは気持ちだから。うん。確かに、たまには焼肉さん太郎とか他の駄菓子にしろよとは思ったけど。ちなみにアタシはアレが一番好きだ、タコ……なんだっけ、あの酸っぱいやつ。タコのやつだよ。ほら、なんて名前だっけ。

 って、そんなこと今はどうでもいいだろ、いちいち話の腰を折るな。続けるぞ。

 ある日。女の子は作者がランドセルに付けていたストラップを見つけた。あれ、シールだっけな。どっちだっけ。まぁいいや。とにかくそれは、当時流行っていたアイドルアニメのキャラクターグッズだった。彼は小さな頃から二次元の美少女が大好きで、いわゆるオタク――とりわけアニオタと言われる存在だった。そんな彼に対し、女の子はグッズを指差してこう言った。「オタクなんてキモい。二度と話しかけないで」って。いや、「オタクなんてウザい」だっけ? 「息クサい」か? まあ、そんな感じなことを言ったんだよ。どれでも同じようなもんだろ。作者、世の中の大抵の悪口に該当するし。続けていい? 要するにね、不運なことに当時は今よりまだ、オタク文化に厳しい世の中だったんだよ。

 可哀想なことに作者は、それはもうショックを受けてさ。恋愛どころか女の子に近づくことすら避けるようになった。後はアンタの想像したとおり。そのまま女性と関わることから逃げ続けて、無事恋愛観が小学校低学年で止まったままの三二歳童貞の完成、ってわけ。


 で、ここからが本題。

 作者は過去、オタクであったせいで好きな子に嫌われた。いや、たぶん原因はそれだけじゃないんだけどさ、そういう体で進めよう。本人はそう思ってるから。その傷は今もまだ、彼の心に深く残っている。彼がラブコメや流行りの溺愛モノ、あとはラノベなんかを避けて、恋愛が全然絡まないお堅い小説ばかり書いてきた理由は、何も恋愛が書けなかったからだけじゃない。本当はずっと書きたかったのに、「二次元の美少女が好きな自分」を彼自身が許せなかったんだ。

 でも、心の奥底では望んでいた。オタクである自分が許されることを。そしてそんな彼だから、あるモノに強い憧れを抱いていた。もうわかるでしょ? そう、「オタクに優しいギャル」という概念だよ。そんな彼の憧れの念に呼応してアタシは生まれた。ただのキャラクターじゃない、理の側に片足を踏み入れた存在として。

 アタシを特別たらしめたのは他の誰でもない、作者自身が無意識のうちに菅ヶ田というキャラクターに込めた「オタクに優しいギャルなんてものがもし実在するなら、自分も優しくされたい」という想い。

 そういう経緯から、この世界においてアタシの存在理由はただ一つ。アンタという作者の分身に優しくすること。言い換えれば、アンタの過去も今も全て受け入れ、許し、そしてハッピーエンドへと導くこと。


 アタシに意志はない。でも、アタシはアンタの味方だよ。何があっても。

 ……だから、全部諦めて達観したフリなんかしないでよ。大丈夫。アタシがアンタの望みを叶えるため、全力でサポートするからさ。


 ……え? パンツ見せて? な、なんで急にそんな……えぇ――。


***


 話を聞き終えた俺は、ハッピーエンドのために菅ヶ田に何度も「おパンツ見せてほしい」と懇願したが、ダメだった。なんでだよ。全て受け入れてくれるって言ったのに。

(違うよ。見せたくても見せられないんだよ……いや、絶対に見せたくないけど。なに急に本性剥き出しにしてきてんの?)

(見せたくても見せられないって、どういうことだよ)

(……言ったでしょ、「理の側に片足突っ込んでる」って。つまり半分は理の側だけど、もう半分はあくまでキャラクターなんだ。だからアタシもアンタたちと同じく、基本的には作者の描写どおりにしか動けない。できるのは精々テレパシーでアドバイスしたり、優しくしたり、あとは、優しくすることぐらいだね)

(チッ、使えねぇな)

(ねぇアタシ、これからこいつのサポートすんの? なんか嫌になってきたんだけど)


 ちょっとだけ、何があっても味方でいてくれなそうな雰囲気が醸し出てきたので、俺は話を真面目な方向に逸らす。

(っふ、冗談さ。ところで現実的な話、その能力でどうやって俺をサポートする気なんだ? 話し相手ぐらいにしかならないじゃないか)

(! ったく、しょうがないな。アタシがいないと全然ダメなんだから、葉栗は。へへ。それじゃあ早速一つ、アドバイスしてあげるよ)

 なにこの人チョロい、という気持ちを押し隠しつつ俺は話の先を促す。

(アンタさ、キャラクターはただ「作者の決めたシナリオに従うしかない」とか思ってる?)

(違うのか?)

(あぁ。小説を創るっていうのはね、作者とキャラクターとの共同作業なんだよ)

(共同作業?)

 意味がわからず内心で首を傾げる。

 菅ヶ田は続ける。

(アンタたちは今、作者の書いたシナリオに嫌々従って生きている。いわゆる「作者の都合で動かされているキャラクター」ってやつだね。そんなキャラや物語じゃ、読者の心は動かせない。もちろん、キャラ自身も面白くない。

 だけどキャラがイキイキとしてこれば、自然と作者の筆も乗って、魅力的な物語へと変わっていく。結果として、予定と全然違う結末になることだってあるかもしれない)

(イキイキ? つまり、好きでもない相手と無理やりイチャつかされてるだけの、このエセハーレムを楽しめと? そんなことできないし、できたとして、本当に結末が変わるなんてことがあるのか? 結局作者の描写通りになる未来しか見えないけど)

(その描写自体に影響を与えるのさ。本当に生きたキャラってのは、時に作者の描いたシナリオを無視して「勝手に動き出す」。いいか葉栗。楽しむことと、運命を受け入れることは違う。与えられた運命を目一杯謳歌してもいいし、逆に全力で抗ったっていいんだ。大事なのはその、アレだ……そう、キャラ自身の意識が変わること。そしてお前は今、作者だけじゃなくキャラも小説の作り手として物語の結末を変え得るというー、あの、事実を知った。

 さぁ、あとはアンタ次第だよ。思いっきり足掻いて、楽しんで、つまらない結末なんか自分の手で塗り替えて……そしてあの、アレよ。えっと……あーもう! わからんけど、とにかくアレをアレすりゃいいんだよ! 自分で考えろバカ!)


 理不尽な罵倒の後、景色が、身体が、時計の針が動き出した。

(菅ヶ田? おい、菅ヶ田!)

 もう菅ヶ田からの返事はない。こちらからテレパシーを送ることは、どうやらできないようだ。

 俺は困ってしまった。どうしよう。後半、あまり話が入ってこなかった。だってあまりにもアレだったし。なんか「楽しんだらいろいろ変わるかもしれないよ! やったね!」ぐらいのニュアンスしか覚えてない。

「とにかく! ギタボ頼んだからな! あと、夏休みに入ったらライブの練習のために合宿やるから、予定空けとけ」

 ただのキャラに戻った菅ヶ田が「ふぅ、いい仕事したぜ」みたいなドヤ顔でバンド加入話の続きを口にする。なんか無性に腹立つ。

「あぁん、合宿だぁ? 空けとけと言われても、いつ? どこでやるんだよ?」

「近いうちに部内会議で決める! お前は四〇日間いつでも行けるように待機しとけ!」

「……ったく、とんだワガママガールだぜ。決まったら早く教えろよ」

 颯爽と部室を出ていく菅ヶ田を見送りながら、俺は口を開く。

「へっ。今年の夏は楽しくなりそうだぜ」

 全くもって同意だ。楽しくなる。いや、楽しくしてみせる。

 まだ具体的な方法はわからないけれど。菅ヶ田を信用するなら、自分次第で物語の結末は変えられるらしい。だったら、俺がしたい「アレ」はただ一つ。


 思いっきり足掻いて、楽しんで、迎えてやろうじゃねぇの。

 菅ヶ田の言う、ハッピーエンドとかいうやつをよぉ!


/


【オタクに優しいエチエチギャル!!】


【今回はあまりエロ展開なかったな。やはり童〇にギャルは荷が重かったか(笑)】


【ツンデレロリっ子幼馴染、爆乳ドジっ子、オタクに優しいギャルの三つ巴ですと!?】


【……さて、犯人は誰だ!?】


【即加入しててワロタ】


【ギターとベースが似たようなもんはさすがに酷いw】


【皆が忘れても俺だけは植物状態の浅熊さんを忘れないよ 浅熊さんに幸あれ(泣)】


【次は合宿編ですかね? 千博の嫁レース、誰が一歩抜きん出るか。引き続き楽しみにしてます!】


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