エピローグ②〜あとがきの余白〜
かの名探偵はかつて、こう言った。
『真犯人の正体がわかってアリバイも崩せてあとは崖の上でネチネチするだけってタイミングになったら連絡してくれ。もしあとがきの最後にスペース余ったら、書き下ろし短編にするから』
忘れたなんて言わせない。忘れたなら、冒頭のラブコメ路線に切り替わったあたりを読み返せ。
俺はお前との約束どおり、秘密裏に捜査を続けてきたんだ。
そして辿り着いた。
俺はケータイの連絡先を開く。画面に踊る「葉栗千博」の名前。祈るような気持ちで通話ボタンをタップする。プルルル、プルルル……十数コールの後、機械的な女の声がした。女によると、彼は電波の届かないところに居るらしい。
全く、連絡しろと言ったのはそっちなのに、勝手なやつだ。
……まぁいい。お前の代わりに、今日は助手の俺がネチネチするとしよう。
「お待たせ、月代くん。こんな崖の上に呼び出して、何の用?」
「……」
「月代くんってば」
「……」
「えと……し、進之介?」
「よく来たね詩帆ちゃん。いや、世紀の大犯罪者・怪盗シッホよ」
「は?」
「しらばっくれても無駄だ。君のアリバイはすでに崩されている」
「いや、何言ってんの?」
ザッパァァン。寄せては返す波が、沈黙の狭間を埋める。
いたいけなレディーを追い詰めるのは趣味じゃないが、やむを得ない。俺はどこぞの名探偵よろしく、推理ショーを開始する。
「君は幼馴染の葉栗に対する好意を事あるごとにアピールしていた。が、それは全てフェーイック。本当に好きな人は別にいる……違うかい?」
図星を突かれたというように、詩帆ちゃんの顔が真っ赤に染まる。俺は追撃の手を緩めない。
「君は葉栗に気があるように見せかけることで、本命――すなわち俺の油断を誘った。そして見事な手際で心のロックを解除し、中に侵入。うまい棒に夢中だった心を渋柿しか考えられない別の心にすり替えてみせた。そう。俺の心を奪った犯人は……君だ」
「ちょっと何言ってんのかよくわからないけど……もしそうだったら、嬉しいな」
ザッパァァン。ザッパァァン。
波がはしゃいでいる。俺はいつもの八割増しでキラキラ輝いて見える愛しい人のそばに歩み寄り、耳元で囁く。
「おとなしく自首するかい? それとも……ついでにこっちも盗んでみる?」
唇に人差し指を押し当てて、気付く。震えている。あいつの真似してキザなことしてみたけれど、カッコつかないな。やっぱり俺は助手ぐらいが性に合っているみたいだ。
「ん……それもいいけど。もっとイイモノ、一緒に盗んじゃおうよ」
「フフ……ハハハハッ! 名探偵の助手を盗みに誘うとは大層な悪党だな。けど、俺も今それを考えてたところさ」
ラブコメには名探偵も、その助手ももう必要ない。
世界が隠した俺たちの友だちを盗みに。いや、取り返しに行こう。
それまでこの唇、取っといてやるぜ。




