第一章〜天才高校生探偵・葉栗千博〜
ここはとある高校の旧校舎、二階。突き当たりの大部屋。軽音楽部部室。
ギターやベース、ドラムセットの類。その他机や椅子がずらりと壁際を取り囲む窮屈な部屋の真ん中で、俺は目の前に立つ三人の女生徒を睨みつけた。
「お前たちが、浅熊みつとバンドを組んでいたメンバーだな? あぁん?」
俺の口から勝手に紡ぎ出された言葉に、女生徒たちは各々の反応を示す。
「は、はいぃ……」
「そーだけど、それが何?」
「ちょっと、千博ってば何真面目な顔してんの? ウケるー」
左端から尾藤彩丸、菅ヶ田七星、そして福豆詩帆。
先日我が校で起きた「浅熊みつ殺害未遂事件」の犯人候補たちだ。
物語の始まりは三日前にさかのぼる。
ある日突然、虚無の深奥より産み落とされし者は、人目につかない旧校舎の陰でキセルをふかしつつ――高校生にあるまじき行為だが、そういうキャラ造形なのだからしかたない――茜に染まる空を見上げていた。
葉栗千博。今や日本に俺の名を知らぬ人はいない。
学生の身でありながら数々の難事件解決に携わり、日夜メディアを騒がす天才高校生探偵。さらに現職警視総監・葉栗智博の実子でもあり、将来必ず国を背負って立つであろう期待のサラブレッド……という設定だ。
生まれた瞬間から、俺はこの世界のありとあらゆる理を知っていた。
たとえば、俺が住むこの日本は現実のそれとは少し異なる「ミステリー小説」の舞台であること。当然、「小説」という概念自体も本能で理解できた。
一言でいうなら――虚構。
「作者」という高次元の存在の想像により創造された、偽りの世界。そこに住む人も、在る物も、感情も、関係も、規律も、善悪も、何もかも全て。
無論、その小説の「主人公」である俺自身もまた。
キャラクターとしての俺は、超進学校である県立咲丘高等学校の二年生で、テストは常に学年一位。部活動は、ミステリー小説同好会に名前だけ所属している。いわゆる幽霊部員ってやつだ。
制服のブレザーの上にトレンチコートをたなびかせ、授業中でも常にハンチング帽を被り、ターボエンジン付き自転車をかっ飛ばして通学するその姿は、まさしくハードボイルドな探偵像……を、豪快に履き違えている。
そんなこと、ちゃんと自分でわかっている。わかってはいるが、一キャラが創造主たる作者に物申すすべなどないのだ。
他にも基本情報を列挙すると、八月二六日生の乙女座。血液型はAB型。趣味は読書と推理。特技はスポーツ全般。
好きな食べ物は……っと。思いつかないということはどうやら、そこまでは考えられていないらしい。もう少しキャラ設定を肉付けすべきじゃないかと提言したいところだが、一キャラが〜以下略〜。
思うに、我が主である作者は小説において重要な「プロット」というものを軽視するきらいがある。描きたいシーンが思い浮かんだら、ろくに構想も練らず、適当に書き始めてしまうようなのだ。
だから冒頭の掴みが弱いし、途中でグダる。挙句、当初の目的地にも辿り着けない。もうダメッダメ。無駄に執筆歴だけ重ねた、万年金欠の底辺アマチュア作家。ザコ。切れ痔。下下下の下。
「きゃあっ!」
そんなことを考えていると、新校舎の裏手のほうから女の甲高い悲鳴が聞こえ、俺はため息を吐いた。
ほらね、言ったそばから。安直でベッタベタ。ド素人が一〇分で考えましたみたいな、手垢まみれの導入だ。当事者ながら全く興味をそそられない。
冷めきった心とは裏腹に、身体は見えない力に引っ張られるように新校舎へと全速力で駆け出す。そういうふうに作者が描写したからだ。たとえば「声がした方に向かって走った」とか。
小説におけるキャラクターとは、言うなれば文章の奴隷なのだ。
新校舎裏に着くと案の定女生徒が一人、頭から血を流して倒れていた。キー局の看板アナウンサーでも務めていそうな、清楚かつ華やかな顔立ち。我が校が誇る完全無欠のアイドル・浅熊みつだ。
かたわらにはこれ見よがしに転がる血塗れの――大根? ほう、これはまたずいぶんと斬新な凶器だな。現実にそんなもので人の頭をかち割れるか、はなはだ疑問だが。
先端部分に付着した血が乾いていることから、事件発生からそれなりの時間が経っていると見える。
そして少し離れた場所で尻もちをついて震えている女生徒は……誰だ? わからないということはすなわち、彼女はこの物語のメインキャラクターではない、いわゆるモブキャラなのだろう。
仮に、A子としよう。
「おい女、何があった?」
ひとりでに動く口がA子に尋ねるが、白々しいと心の中で苦笑する。そんなこと聞くまでもない。
探偵あるところに事件あり。そして俺は、天才高校生探偵だ。
「ぐ、偶然通りかかったら、人が倒れて、いて……」
A子は掠れた声を絞り出す。俺はポーカーフェイスを保ちつつ、内心ドギマギしていた。
スポーティーなショートボブに、モデルのようにスラッとした長身。整っているが垢抜けてもいない童顔含め、モブにしておくには勿体ない容姿だ。
……え、ほんとにモブなのこの子? 控えめに言ってクッソ美人なんだけど。創作物って、なんでモブまでそんなに可愛いの?この世界には美人しかいないの?ってことがままあるよね。今あの現象に名前を付けたい。
「落ち着け、大丈夫だ」
俺の言葉にコクコクと小刻みに頷く姿は、まるで怯える小動物。おまけにトレンチコートの袖をギュッと握り、今にも泣き出しそうな瞳で見上げてくる。
……ふーん、エッチじゃん。
俺はA子の仕草にガッツリ見惚れながら、おくびも態度には出さず、というか出せず、あまつさえ「あぁん? 落ち着いたらさっさと離れろ。それから救急車を呼べ、女」と突き放す(作者のクソ野郎め)。A子は急に自我を思い出したように立ち上がると、目尻にしがみついた涙を乱暴に拭い、震える手で必死にケータイを操作し始めた。その様子を確認した俺は、倒れた浅熊の首筋に指を当てる。
微かだがまだ脈がある。頭部からはいまだ流血が続いているが、浅い呼吸を繰り返すその姿は、懸命に生をたぐり寄せているかのようだ。
しかし俺はそんな状況をどこか冷めた目で見ていた。どんな処置を施そうが、何分で救急車が到着しようが、助かるなら助かるし、助からないなら助からない。
なぜなら、この世界で起こる全ての事象は作者の手のひらの上であり、俺たちキャラクターは彼が描く物語の駒にすぎない。
運命は作者という神のみぞ知る。それこそがこの虚構で固められた世界における、鉄の掟。そんなこと、ここで生きる全ての人間にとって常識だ。
「人が倒れているんです! 救急車を、早く!」
「えっと、止血、布……! ごめんね、私のセーラー服の袖破くしかないから、それで我慢してね」
「浅熊さん、浅熊さんっ! しっかりして! 目を覚ましてよ、お願いだから!」
なのにこの子は、なんでこんな顔して電話口で叫んでいるのだろう。なんでいまだ震える手で、それでも救急隊の指示に従って応急手当てをしているのだろう。
なんでこんなにも全力で、浅熊を助けようとしているのだろう。
結局浅熊は命こそ助かったものの、いわゆる植物状態となってしまった。やはりA子の努力が物語の展開を変えることはなかったようだ。
俺とA子は第一発見者として警察から形だけの聴取を受け、すぐに解放された。おそらく「二人は事情聴取され」程度の軽い一文があったのだろう。何を聞かれ、何を答えたかも覚えていないような不鮮明な時間の中、ただ一つ、A子の悔しそうな泣き顔だけが脳裏にこびりついて残った。
しつこいようだが、この世界は作者の書いたシナリオどおりに全てが回る。「喜んだ」と書かれれば憂鬱でも笑うし、「悲しんだ」と書かれれば楽しくても泣くのだ。作者にとってキャラクターの意志なんて毛一本ほどの価値もない。
最も、作者はキャラクターに意志があるなんて思ってもみないだろうし、そもそも創られた存在である俺の意志が本当に俺自身のものであるかは、自分でもわからない。一言「好意を抱いた」とでも書かれれば、どんなアバズレ相手でも恋に落ちてしまう。それが俺たち、キャラクターだ。
ではA子のあの行動と涙は、描写と本心、一体どちらだったのだろう。
警察署を出て、俺とA子は挨拶も交わさず逆方向へと歩き出す。セリフを交わす描写がないのなら当然だ。もし今後彼女の出番がないとすれば、今生の別れかもしれない。
俺は一度だけ振り返り、A子の後ろ姿を見る。背丈のわりに酷く華奢な背中が、寂しそうに遠ざかってゆく。
―—今抱いているこの気持ちは、虚構じゃないと信じたいな。
俺は口内を満たすよくわからない苦味を噛み殺し、場所も間取りも設定されていない家という名の記号へ向けて歩を進めた。
話を戻し、現在。目の前にいる三人の女生徒は、作中ではバッサリはしょられた捜査の中で浮上した、浅熊みつ殺害未遂事件の犯人候補たち。
「お前たちが、浅熊みつとバンドを組んでいたメンバーだな? あぁん?」
浅熊は軽音楽部に所属し、バンドのギターボーカルを務めていた。そこで浅熊の親しい友人の一人に聞き取り調査を行ったところ、最近の彼女はバンドメンバーのうちの誰かと揉めていたらしい
という証言は情報として俺の頭の中に入っているが、先ほど言ったとおり捜査パートははしょられているので、実際に俺自身がその人物に聞き取りを行ったという事実だけがあり、記憶は何もない
という言い方で、この世界の曖昧なメカニズムが伝わるだろうか。伝われ。
「は、はいぃ……」
心細そうに返事をしたのはバンドのリードギター担当・尾藤彩丸。
目が隠れるほど長い前髪とおさげに、丸眼鏡。とにかく辛気臭い見た目の地味女子だ。性格は、良く言えばおしとやか。悪く言えば気弱で臆病、という印象。
しかしそんな見た目に反し、ギターソロでは必要以上に歪ませた凶暴な音色を掻き鳴らすともっぱらの噂だ。
「そーだけど、それが何?」
とげとげしい声で応えたのはベース担当・菅ヶ田七星。
スケバン風のロングセーラー服を着こなし、その上に金髪とケバ過ぎるメイク顔を乗っけたザ・不良少女。怖いし、目付き悪いし、愛想がないし、怖いし、怖いのだが、バンドの女性ファンの大半は彼女目当てなのだとか。
また彼女も相当な実力派のようで、精密機械のように正確無比な演奏でメンバーからの信頼は厚い。
「ちょっと、千博ってば何真面目な顔してんの? ウケるー」
で、この生意気なチビガキは福豆詩帆。俺の幼馴染だ。担当はドラム。
ワレ、軽音楽部でドラムやってたのか。というか、俺に幼馴染なんていたのか。全部今さっき知ったよ。お手本のような後付けだ。こいつは八重歯がチャームポイントのツインテールロリっ子で、とにかく明るいムードメーカー。
バンド内での立ち位置は、小柄なわりに力強いプレイでグルーヴを支える縁の下の力持ちだそう。
そんな三人を改めて見渡し、俺は宣言する。
「浅熊みつを殺そうとした犯人は間違いなくこの中にいる。俺はそいつを見つけ出し、必ずや警察に突き出してやる。高校生探偵・葉栗千博の名にかけて! 真実はいつでもほぼ一つ!」
なんとなくオリジナリティに欠ける決めゼリフとともに、本格的な捜査の開始だ。と言っても、俺は作者の操り人形として動かされるだけなのだが。
なんて自嘲じみたため息を吐きかけたとき。天から突然、脳に直接響くような声が降ってきた。
【誰が犯人なんだろう? ワクワク!】
もちろん俺は、これが何かも知っていた。
作者は頭の中で描いた物語を、文字として出力している。それがこの世界であり、小説だ。そして作者はその小説を、小説投稿サイトなるものに掲載している。この頭の中に流れてくる天の声は――小説を読んだ読者が残していった「コメント」。
今、このページを読んでいる読者がいる。その事実に俺はほんの少し誇らしさを覚えた。
ミステリー小説の主人公として、俺は読者の期待に応えたい。なんとしても犯人を崖の上でネチネチ追い詰めてやる。
というわけで、頼んだぞ作者。
自力ではどうにもできないので、俺は全てを創造主に丸投げしてニヒルに笑った。
「まず事件の日の放課後、何をしていたか聞かせてもらおうじゃねぇの。ベイベー?」
いつものように口が自動でウィーンと開き、尋ねた。最初はアリバイの確認。まぁ、基本だな。それにしてもなんだこの口調。作者、絶対ハードボイルドの認識を改めた方がいい。
それとどうでもいいが、立っているのも疲れたので俺は今その場に体育座りしている。
動作やセリフ、心情など、キャラクターは基本的に本文の記載どおりに動くが、細かな指定のない部分については大きくレールを踏み外さない限り、ある程度の融通は利くようにできているのだ。
同様にそれぞれくつろぎながら、三人娘は思案し始める。
「私は確か、図書室で勉強していました」
と、いわゆるヤンキー座りで、尾藤。おさげ眼鏡の地味女によるヤンキー座りだ。珍光景。なぜかと言われれば、俺たちキャラクターは全員「小説で描写されるガワの人格」と「創造された瞬間に魂に宿った本当の人格」の二つを持っている。つまりは、言わされたセリフではなくヤンキー座りのほうこそが、彼女の本質を表しているということだ。「見た目は陰キャ、頭脳はヤンキー」というやつである。他意はない。
話を戻そう。俺が「一人でか?」と聞けば「はい……」と答えた後で慌てて「で、でも! 本を一冊借りたので、貸し出し記録を調べてもらえれば、たぶん、きっと……」と自信なげなセリフを、痰のようにガラガラペッと吐き捨てる。バキバキの目で。なにこれ、見てるこっちが情緒変になるわ。
ま、まぁとにかく。記録に残る盤石なアリバイだ。強いて言えば、一人だったという点が付け入る隙か。
「アタシはツレとイオンのゲーセン」
と、机を椅子代わりにして座って足をプラプラしながら、菅ヶ田。スケバンの見た目をしながら、アホの子みたいに口を開け、虚空をポケーッと眺めている。
彼女の言うイオンとは学校の近くの商業施設で、我が校生徒の定番遊びスポットだ。そしてツレがいたなら話は早い。
「念のためご友人の証言を得たいんだが、誰と「それを調べんのがテメェの仕事だろうが! おぉん!?」怖い。そして怖い。もうこいつが犯人でいいだろ。人殺しそうだし。
なんて思っていたのに、なんと彼女は突然自分の口から出た怒声に驚いたのか、バランスを崩して机もろとも後ろに倒れ、後頭部を盛大に床に打ち付けた。セリフがないためうめき声を発することもできず、無言でドッタンバッタンと悶絶しているスケバン。珍光景その二。
「私は千博の家に遊びに行ってたよー。千博いなかったからお母さんとおやつ食べておしゃべりして、楽しかったー!」
と、ヒジついて寝そべりながら、詩帆。おい、さすがにくつろぎすぎだろ。鼻ほじるな。ケツを掻くな。見た目はまるでアイドルのようなツインテロリ美少女。噂によるとアイドルはウンコの代わりにマシュマロを排泄するそうなのに、彼女を見る限り実態はまるで休日のオッサンじゃないか。こんな現実知りたくなかった。珍光景というか、もはやショッキング映像である。
まぁでも事件に関して言えば、我が母からの証言が得られれば詩帆のアリバイもまた揺るぎないものとなるだろう。
が。そうするまでもないことを、俺は知っている。彼女たちのアリバイは全て、これから必然的に立証される。おそらく、作者はこの後どこかで「本の貸し出し記録」「菅ヶ田のツレの証言」「うちの母の証言」が確認できた旨をサラッと描写するはずだ。
なぜわかるのか。それは、作者が最初から三人に完璧なアリバイを用意するつもりだったから。
この世界では作者が「明確な見通し」を持って描写した場合、その内容はキャラクターである俺たちにもおおむね共有されるようになっている。逆に、「その場の思いつき」の描写の場合、俺たちにも先の展開を読むことはできない。
どうしてと問われれば、「そういう理だから」としか答えようがない。
じゃあ、俺が今この三人の中の誰が犯人か先を読めないということは? そう。作者は現段階でまだ犯人の正体を決めていない。
えぇ……そんなことある? ミステリー小説だよ? しっかりしてくれ作者。なんとか頑張って、なんかこう、頑張れ(適当)。
と、例のごとく作者にお任せムーヴをかましていると突然、部室のドアが勢い良く開いて人影が飛び込んできた。
「ここにいたか葉栗!」
そいつは俺の前まで走ってくると、肩で息をしながら「いい証言が得られたぞ!」と爽やかなテノールボイスで言った。
「本当か、月代!」
月代進之介。二年生にして名門・咲丘高校サッカー部のエースストライカー。好青年を絵に描いたような容姿と人柄で、男女問わず学内の人気は高い。また俺にとっても唯一親友と呼べる存在であり、今回はその人望を駆使し、捜査の助手役を買って出てくれている。という設定のようだ。今知りました、はい。今日から親友役よろしくお願いします。
そして彼が現れた瞬間、大きな反応を示した少女が一人。詩帆だ。ソファーに転がってテレビを観るような姿勢だった彼女は月代の顔を見た途端、弾かれたように飛び起き、ぼさぼさの髪を手櫛で整え始める。すると瞬く間に休日のオッサンはマシュマロ製造機へと変貌を遂げてゆく。心なしか、周りの空気までキラキラきらめき出した。
すご。え、すっご。完璧で究極の噓つきだ。金輪際現れないペテン師の生まれ変わりだ。嫌なYOASIBI。
いろいろな意味で部室の雰囲気が大きく変わった。月代は荒れた呼吸を落ち着かせると、名探偵の助手としての役割を遂行する。
「浅熊とバンド仲間の一人が揉めてたって話だったろ? その揉め事の原因がわかったんだ」
「なんだって!?」
ちなみにこれに関してもまだ何も知らない。先ほど言ったとおり、作者がこのシーンを書いている時その場の思いつきで筆を進めていたのだろう。さて、一体どんな原因で犯人は浅熊を殺そうとするに至ったのか。
「どうやら二人は同じ男を好きになってしまったせいで、ギスギスしていたらしい」
「なにいぃ!?」
選ばれたのは、痴情のもつれでした。なにいぃ!?というほどのこともない、月並みな展開。
だがそこまではっきりわかっているならば話は早い。なぜなら、もし聞き込みで浅熊を含むメンバー全員の想い人を特定でき、さらに誰か一人だけが浅熊と被っていれば、その人物こそがそのまま犯人の最有力候補になるからだ。
標的を絞れれば捜査もやりやすくなり、アリバイ崩しもそいつに一点集中できる。またその想い人を利用し、精神的に揺さぶりをかけることもできそうだ。
勝ったな、ガハハ。風呂入ってくる。
……と思ったやつは浅い! 浅すぎる! おそらく、これは作者のまいた伏線っ!
忘れちゃならないのは、ここが小説の世界であるということ。メタ的に考えて、このまますんなり犯人に辿り着くとは考えづらい。
つまりこれは読者のミスリードを誘うフェーイック! まずこの展開で一旦ニセの犯人候補を炙り出し、そこからなんやかんやあって、さらに紆余曲折を経て、ついでに二転三転して、おまけにもう半周ぐらいすれば、最終的に真犯人の正体に着地するというわけだ! まさにウルトラC! 伸身チヒロ・ハグリ二回宙返り三回半ひねり!
勝ったな、ガハハ。風呂入ってきていいぞ作者。
と、心の中で我が主を称賛した刹那、
「れれれれ恋愛だとぉ!? まだ高校生の分際で!? なんっと破廉恥なっ! 許さん……絶対に許さんぞぉ犯人めっ!!」
俺の口をついたのは、まるで覚えたてのでんぐり返しみたいな、可愛くてピュア(笑)な言葉だった。その場にいる全員の生暖かい視線が俺に注がれる。
違うよ? 今のは俺の意見じゃないから。言わされただけだから。ねぇ、お願いだからそんな目で見ないで。
そして作者よ。お前、まさか……
皆の気持ちを代弁するように、再び脳髄を天からの声が揺らした。
【この人の作品、いつも童貞臭がするなw】




