第六章⑤〜二年一組、演目『ギャルの恩返し』〜
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(ナレーションからスタート)
――昔々あるところに、おじいさんがいた。おばあさんはいない。なぜなら、おじいさんは独身のままおじいさんになっただけの、ただのおじいさんだからだ。
おじいさんは皆結婚しているはずだなんて偏見は良くない。
ある雪の日。おじいさんは森の中で、罠にかかって苦しんでいる一匹のギャルを見つけた。
「ちょっとー、最悪なんですけどぉー」
平成初期ファッションのゴリッゴリのギャルであった。どうやらルーズソックスが罠に挟まって、抜け出せないでいるようである。
「可哀想に。今、助けてあげるからね」
おじいさんはルーズソックスが破れないように、そっと罠から外してあげた。別に下心があったわけではない。いや、全くなかったといえば嘘になるが、あったとしてもせいぜい三分の二ぐらいだ。残りの三分の一は純情な感情だ。信じてほしい。
「ちょっとこのおじいさん神なんですけどー! まぢ感謝!」
ギャルは一声鳴くと、走り去って行った。ギャルが去った後、おじいさんはルーズソックスに触れた手をおもむろに舐めてみた。
ペロッ。なぜか、懐かしい味がした。
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その夜、おじいさんの家を一人の女性が訪ねてきた。
「どうもはじめまして。清純派です」
清純派の女性だった。女性はおじいさんに向かって、いきなりこう言った。
「妻にしてください」
おじいさんはもろちん、間違えたもちろん快諾した。おじいさんは妻に部屋をやった。本当は相部屋が良かったのだが、なにせ相手は清純派なので距離の詰め方には気を付けねばならない。
女性はお礼の後、続けた。
「私が部屋にこもっている時は基本的にシコシコ作業をしていますので、絶対に中を見ないでくださいね」
「作業って?」
「作るんです」
「何を?」
「ナニを」
それっきり女性は部屋にこもってしまったので、おじいさんも自室にこもってシコシコ作業することにした。
翌朝。女性はおじいさんにあるものを差し出した。
「昨夜作っていたブツです」
世にも綺麗なうまい棒(めんたい味)だった。
それから女性は毎日のようにうまい棒を作ってきた。
サラミ味、チーズ味、なっとう味、やさいサラダ味、シュガーラスク味、なっとう味、エビマヨネーズ味、なっとう味、なっとう味、なっとう味……
うまい棒のおかげで、おじいさんの生活は豊かになった。豊かになった? ……豊かになった。誰が何と言おうと、豊かになったのだ(ナレーター、力強く断言)。
そんなある日、おじいさんは女性に提案した。
「そろそろ、一緒にうまい棒を食べないかい」
――すなわち同衾の誘いだった。おじいさんは清純派女の官能的な膨らみを帯びた肉叢を舐め回すように視姦しつつ徐々に距離を詰めると、一瞬の隙をつき、さながら狩りをするケダモノのごとくえいやっと飛びかかったのだ。
女はケダモノと化したおじいさんによってその生白い喉元に鋭い牙を突き立てられながら、先ほどのおじいさんの言葉を溶けるまで反芻する。
『一緒にうまい棒を食べないかい』
その淫靡でふしだらな囁きに女の肢体は否が応でも熱を帯び、畳の上で艶めかしく波打つ。なぜなら女もまた狙いを定めていたのだ。初めてこの家を訪れたその瞬間から、三日三晩お預けを食らった色魔さながらの飢えた眼光で、おじいさんの中心でブラブラと挑発的に揺れ動くその逞しいうまい棒に!
女はおじいさんを力任せに押し倒すと濃厚なコンポタ味の(以下、PTAの乱入により一部規制)
(暗転の後、紙張りのついたてが出現。客席からはおじいさんと女性がうまい棒を食べる影だけが見えている状態)
「ああっ! そんな、大口開けてゆっくり、たこ焼き味をっ!」
「美味しいですぅ」
「ウッ、次はプレミアムうまい棒の和風ステーキ味だと!? 普通のやつより二〇円ほども高価なものを、そんなバリバリと雑に!」
「最高ですぅ」
「ななななな! すでに販売が終わっているチョコバナナ味までっ! なんっと破廉恥な!」
「うふふふふ……」
女は枕元に置いてあったティッシュ(役の瑛子)でそっと口を拭う。
その手慣れた動作に、おじいさんはふとあることに気付く。
「君、本当に清純派なのかい? 初めてにしてはあまりにもその、うまい棒を食べ慣れているようだが」
「……気付かれてしまっては仕方ありません、白状しましょう。私の正体を! ……じゃじゃーん! あのとき助けてもらったギャルでーす! 恩返しに来ましたー! アゲアゲ〜↑」
そう! 女の正体は、先日森で助けたギャルだったのだ!
ギャルなので清純派じゃない(偏見)し、うまい棒も食べ慣れている(偏見)のだ!
「な、なんとっ! 君はあのときのギャルだったのかー!(棒読み)」
「おじいさんバイブスブチ上がってんじゃん〜。じゃあそろそろ、私の一番だーいすきなメインディッシュ、イッちゃう?」
「ごくり……」
「メインディッシュは〜……めんたい味でーっす! イェーイ!」
「そ、それはワシの……あっはぁぁんっ!」
(ここでPTAの乱入により一時中断、その後強制的に幕が下りる……)
***
「皆様お疲れ様でした! 最後のウルトラソウッ!ハァーイ!!までやれなかったのは心残りですが、素晴らしい劇でした!」
「おう、お疲れさん! 瑛子もティッシュの熱演、光ってたぜ」
「だ、だだだ大成功でしたね! 葉栗しゃんっ!」
「あぁ! 尾藤の迫真のギャルも最高だったよ。危うく演技だって忘れて、おっ始めちまうとこだったぜ」
「ふえぇ!? そ、それって……っ!」
バッカじゃねぇの? いや、バッカじゃねぇの? ツッコミどころが多すぎる。なんだこれ。何やってたんだ、俺たちは。ふぅ(賢者タイム)。
演じている時はあまり意味がわからなかったけれど、後から冷静に振り返ってみるとやっぱりまっっったく意味がわからない。わからないけどたぶんド下ネタ。読者がこれを読んでどう思うのか。正直、面白くはないと思う。
ただ、目の前の女――見た目は清純派で中身はギャルならぬヤンキーの、どうしようもなく魅力的なヒロイン――が笑っている顔を見たら、そんなことどうでもよいと思えてくるから不思議だ。
俺たちの物語はきっとこれでいい。全ての読者を満足させることなんて到底できないけれど、誰かの胸に残って、そして、俺たち自身が最高のハッピーエンドを迎えられれば。
これで少しは近づけただろうか? 心地の良い感傷に浸っていると、ふと尾藤と目が合った。尾藤は皆の輪の中心で弾けんばかりの笑顔を輝かせながら、指先だけで俺に合図を送ってきた。
親指と人差し指の先を交差した、ハートマーク。
……ありがとうこのスケコマシドMめんたい高校生ラブコメ探偵さん、か。
尾藤にしちゃ、ずいぶんとお優しいメッセージじゃねぇの。
「楽しかったですね」
尾藤の世にも珍しいデレに気を取られていると、いつのまにか隣に瑛子が立っていた。例のごとくフリートークタイムかと思い「さっきはごめん」と謝ろうとするが、言葉が出てこない。
今は作者自身の手によって瑛子との会話が書かれているらしい。そしてまた、だ。頭の中に、見たくないシーンが細切れで流れてくる。どうやら作者のやつ、変わってしまったシナリオを強引に軌道修正するつもりのようだ。瑛子は喜怒哀楽のどれでもない表情で、甘い提案を口にした。
「午後の文化祭、私とデートしてくれませんか」




